これはもうマイ新幹線! アルピナ B3 GTに試乗!

クオリティ最優先のクルマづくり

 アルピナのボディシルエットはBMWの面影を残す。なのでクルマに興味がない人からはBMWのサブブランドと思われるかもしれない。しかし、アルピナはドイツの「自動車メーカー」である。年間の生産台数は約1700台で、そのうち300台程度が日本へ入ってくる。年間1700台の数字は少数生産の代名詞的存在のフェラーリよりも遥かに少ない。

 人気の国産車なら1日で売り上げてしまうほどの台数だが、アルピナはこれ以上は作らない。いや、作れないと表現した方が正確かもしれぬ。漢らしく「クオリティを最優先して無理な量産をしない」ことをブランドポリシーにしているし、公式HPにもあるように少数の愛好家向けに熟練のエンジニアが仕立てることに重きを置く。つまりは手作業の領域も多いのだ。そこで結果的に落ち着くのが1700台前後なのだろう。

 アルピナの創業は1961年。手がけたBMWのチューニングカーはモータースポーツで名を馳せた。1978年に市販コンプリートカーをリリース、流行りの言葉で言うなれば「モータースポーツを起点としたクルマづくり」といった感じだろうか。レースシーンから市販車に変身したメーカーのクルマはモータースポーツとは縁遠いシルエットで優雅で優美な佇まいが特長。ベースモデルを上回るパフォーマンスとハンドリングを持ちながら快適な乗り心地が「らしさ」でもある。

ブッフローエ謹製の一台

 大磯で開かれる日本自動車輸入組合の大試乗会で幸運にもシートをゲットできたのがアルピナのB3GT。ベースというか、骨格となったのはG20型の3シリーズセダン。3シリーズとしては7世代目になるモデルだ。アルピナの伝統に則ったそのクルマは、見た目にも派手なエアロパーツは付いていない。しかしながら。よくよく見ると、好きモノのツボを刺激するパーツを纏っている。リアのディフューザーしかり。ゴテゴテしたあからさまな装飾系なパーツを使わない「控え目」な雰囲気も魅力。またそれが最高「巡航」速度308km/hを誇るホンモノの凄みってヤツなのかもしれない。いわゆるギャップ萌えってやつだ。

 そんなアルピナは、ブランド自体をBMWへ譲渡することが決定している。ドイツ南部のブッフローエにはブランドの工場があり、そこで作られるモデルが2025年には終了する予定となっている。いわば純度100%の最終モデルになるかもしれないのが今回のB3GTになる。

エンジン屋の名機も

 ドーム・バルクヘッド・レインフォースメント・ストラットと呼ばれるごっつい補強材が目立つボンネット内に鎮座するエンジンはBMW M3やM4向けに開発されているモノ。S58型と呼ばれる直列6気筒ツインターボはB3のネーミングだけだった時はあえて462PSに抑えていた。それが2022年のマイナーチェンジでは495PSにアップしたけれども500PSの大台を超えることはしなかった。それがB3GTではついに500PSオーバーの529PSへ向上。

 善良なメカニックの皆様、「んなもんR0Mチューニングすれば簡単っすよ」とか思わないように。そういったチューニングカーはサーキットや最高速に主眼を置いていて、それ以外は「まあ仕方ないよなチューニングカーだし」的にどこかに我慢がある「だし的」カーになってしまう。

 特に消耗品はかなり早いペースで交換を余儀なくされる。経験のある御仁ならウンウンとされるはず。

 しかしながら。スプリントレースならいざ知らず、B3GTは真夏の渋滞してる街中も走れば、悪天候時のフェミリーカーとしても使えるようになっているのだ。ファミリーカー、いや日常ユースも考慮され最大トルクは730Nmへ増やされている。もちろんトルクアップの本当の狙いは別のところだと思う。馬力に重きを置かないのが、「らしい」味付けで扱いやすさを重視。レースならば耐久レース向けといった感じだ。

ホントに300km/hオーバーの室内ですかい!?

 車内に入るとインテリアデザインは確かにG20型3シリーズと基本的に同じだが、シフトノブの存在がある。B3GTはキチンとシフトノブがあるのだ。やっぱりシフトノブは「市販」スポーティモデルには気分的にもあると嬉しい。ドライバーズカーであることも主張しているようだ。ミッションは8速のAT。もちろんMTモード搭載。このミッションもアルピナ向けの強化品。

 想像以上に柔らかめの優艶なシートに身を預けると、これが500PSオーバー、最高巡航速度300km/hを超えるモデルとは思えない。それくらい快適なシートになっている。ドイツ車っぽい硬め系なシートは違う。設(しつらえ)が良く、品のいいモノだ。しかも気合いを感じるバケットタイプでもない。

惚けるほどの安定性

 シートを合わせて、エンジン始動。エンジン音はキチンと聴かせる仕立てなのだが、どこか遠いところにあるような雰囲気。もっと勇ましいとか野太いとかでもなく単調に同じ旋律でアイドリングしている。

 走り出すと微速域から乗り心地の良さを感じる。しなやか系柔らかさ的な乗り心地で、そこにドイツ車っぽい低速域での芯を感じさせるような場面はまったくない。少し速度が乗って街中で交通の流れをリードするような場面でも同じベクトルだ。タウンスピードで流れをリードするような場面でもエンジン回転は2000rpmを超えることはなく、エンジン音もやはり遠くでpp(ピアニッシモ)を奏でている。自動車専用道路への合流。深く踏み込むとmf(メゾフォルテ)くらいになるけれど、不快な音量ではない。

 高速はB3GTの本籍地でもある。なんとも言えない快適さを保ったまま速度が上がっていく。その速度域でも乗り心地は硬めにならなない。かといってステアリング操作に気を使うか、ということも皆無。車内の静粛性は高いし、高速域で無駄なクルマの動きがないから運転していも疲れない。後席も十分以上の空間はあるし、3ゾーン独立のエアコンや後席用のUSBも装備、これを完全快適移動体と言わずなんと言おう。

 かようにB3GTの懐の深さに呆けた筆者だが復路は待望のスポーツモードに。するとメーター表示も変わり、エンジンの存在感がグッと近くに。いわゆる生のエンジン音が聞こえるようになったが音量は想像より控えめだ。そこを強調しないところがオトナの余裕ってモノだろう。少しばかりクネッタ道を走ったら、BMWの素性の良さにアルピナの持つ「余裕」のエッセンスを加えた雰囲気。M3のようにサーキットユースに主眼を置いた超絶クイックレスポンスに近いけれど、そこに安心安定の要素が混ざり、構えることなくコーナーを抜けていける。それでいてアクセルの微妙な動きを見逃さないレスポンスの良さ。楽しくないわけがない。

脅威の数字

 アルピナのカタログスペックには最高巡航速度が記されている。昔はポルシェにもあったが最近はアルピナだけになってしまった。そのカタログスペックの最高巡航速度は308km/h。この速度は単に気合もろともえいや! と踏んだ一瞬の「到達」速度ではないことに注目だ。あくまでも「巡航」速度。つまり、その速度域が許される国では少なくとも308km/hでずっと走っていられる、ってこと。単に最高速ならそれ以上の速度になるはず。状況が許すなら山陽新幹線の最高営業速度300km/hよりも速く巡航するのだ。まさにマイ新幹線。

 また撮影のため色々開けてみるのだが、筆者は驚異的な数字を発見セリ。それはタイヤの指定空気圧。なんと3.4bar(340kpa)! 3.4といえば、あーた、昔のテンパータイヤかトラック並ですぜ、と昭和のMCのような口調になってしまったが、かなり高い数値だ。タイヤも専用開発と言われているけれど、この高い空気圧でクルマが跳ねることなく、あの惚けるような乗り心地と安定性を提供するとは。モノに個性を求めるモノマガ人のみなさま、人と被らずウンチクも語れるアルピナはありですよ!

B3 GT

価格1650万円〜
全長×全幅×全高4725×1827×1440(mm)
エンジン2993cc直列6気筒ターボ
最高出力529PS/6250-6500rpm
最大トルク730Nm/2500-4500rpm

アルピナ
アルピナB3 GT

  • 自動車ライター。専門誌を経て明日をも知れぬフリーランスに転身。華麗な転身のはずが気がつけば加齢な転身で絶えず背水の陣な日々を送る。国内A級ライセンスや1級小型船舶操縦士と遊び以外にほぼ使わない資格保持者。

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