アイドルといえばAKB、エンジンといえばOHV! アメリカ人のDNA・V8搭載の深紅のマシン、シボレー・コルベット3LTに乗ってきたゾ!

昔「から」の名前で出ています

アメリカのシボレーからリリースされるスポーツカー、コルベット。世界的にみても同一名称で継続生産される数少ないクルマになる。「昔の名前で出ています」と小林旭のヒット曲ではないけれど「昔『から』の名前で出ています」なのだ。大磯の試乗会でステアリングを握れたのは、伝統のネーミングを受け継ぐ深紅のマシン。これがイカしていた(死語)のでご報告。

蝶ネクタイをモチーフにしたブランドロゴを持つシボレーは1911年にウィリアム・デュランとルイ・シボレーによって設立された、創業100年を超える老舗メーカーになる。1918年にはGMグループに加入し今にいたっている。なお大戦前の1927年には日本ゼネラルモーターズが設立されるなど日本とも縁が深いメーカーなのだ。そのシボレーのクルマづくりだが1950年には身近な価格帯の、いわゆる大衆車にもATを採用するなど独自色を出している。

ターミネーターかアスリートか!?

コルベットは現行モデルで8代目を数える。初代は1953年にプロトタイプが発表され、1954年に販売が始まった。オープン2シーターの初代、エンジンはV8ではなく3.9リッターの直6を搭載していた。最高出力はおよそ150PSとパワー面では当時のライバルに遅れをとっていたが、量産車初のFRP製ボディなど話題に。1955年にはパワー不足を克服する待望のV8エンジン搭載車をラインナップ。これ以降コルベット=V8の公式が出来上がった。特に1968年にデビューした3代目には歴代最大の排気量7440ccを誇るモノを長いノーズ下に収めている。その後代を重ねる毎に改良されていったが、エンジンの構造自体はV型8気筒OHVを貫いている。

シートをゲットしたのは3LTというグレード。2019年にフルモデルチェンジし、それまでフロントエンジン、リアドライブのFRから後輪駆動こそ受け継がれたが、エンジンレイアウトは一気にスーパースポーツカーの王道、ミッドシップマウントに変更された一台だ。ミッドシップ化にともないキャビンはより前方に。どのくらい前に動いたかというとドライバーの着座位置は先代比で40cmというから驚く。ボディデザインは最新のF-22やF-35と言ったステルス戦闘機にインスパイアされたモノ。なおF-35は我らがモノ・マガジンWebにも詳しく出ているので、気になったら迷わずココをチェックだ。

それにしてもムキムキマッチョな、例えるならスタローンかシュワルツェネッガーのような存在感。個人的にはターミネーターのような雰囲気だと思うが、ウェッジシェイプでラインを際立たせる彫刻的なデザインはアスリートのような筋肉を思わせるが、何れにしても「いかにも!」的なアメ車の雰囲気は間違いない。これゾ、アメリカン!

現行モデルはオープントップクーペとコンバーチブルのふたつがあり、コンバーチブルはスイッチひとつで16秒間のギミックを楽しめばオープンになる。一方、クーペは脱着可能なルーフトップを持つのだが、筆者一人での脱着は厳しそうだったことと、外したトップを置く場所がなかったことから行わなんだ。(編集部注:リアフード内に収納可能です)

助手席の美女に手を……伸ばせない!!!

肉厚のドアを開けると黒をベースに赤をアクセントにした内装が迎えてくれる。ああ、スポーツカーってカッコイイと思う瞬間だ。まず特長的なのは助手席と完全に分かれている運転席。そこにはアルプスいや、アメリカだからアラスカ山脈の尾根があるのだ。先代も無くはなかったが先代のはグリップとわかるモノ。しかし現行のC8コルベットは完全に仕切られているのだ。これではいい雰囲気になった隣の美女のフトモモに手を、なんて甘いことができない!(編集部注……)。話はフトモモでは無く、コルベットだ。そしてその仕切っている頂の尾根には空調のスイッチが並ぶ。またメーターはフルデジタル化され乗ったコトないけれど最新の戦闘機風なのだ。

アメリカ人のふるさとはV8よりもOHV?

ミッドにお引越しされたエンジンはアメリカ人の魂とも言えるV型8気筒。このユニットを拝むにはデカっ! と感じるリアフードをやっこらしょと持ち上げる必要がある。そのフードも京間サイズの畳一畳はあろうかというモノ。

エンジンメカニズムはこちらも変わらずOHV。ここまでこだわると古典的というよりはもはや「こだわり」の域。なぜOHVなのか。余談だが4ストロークエンジンの発想は1862年のフランス人ロシャスの論文で実際に製造されたのは1876年のダイムラー、マイバッハによるモノ。その頃はサイドバルブ(以下SV)が主流だった。

OHVは1901年に今もブランドとして残るビュイックが実用化した。詳しいメカニズムの話は専門誌に譲るが、OHVはそれまでのSVよりも燃焼効率がいい。しかし一般的には高回転型エンジンには向かないとされる。代わりに世の中に出てきたのが吸排気弁機構がSOHCやDOHCといったエンジンだ。これは高回転化に向いておりスポーツカーのイメージが強い。ただしそれらに対してOHVの利点があるのはエンジン自体の重心を低くできること。それが1世紀以上作り続けられれば、そりゃあもうアイドルはAKB、若大将は加山雄三、3時のオヤツは文明堂(古い?)と同じくらい彼らのDNAに刻まれたモノ、だと思う。

「世界的に見てスーパースポーツの世界はDOHCだよ、君」という風潮の中、2011年には当時のコルベット最強モデル、ZR-1が難攻不落に例えられる世界一過酷なサーキット、ニュルブルクリンクで日産GT-Rを抑え量産車最速ラップを記録しているのも事実。アメリカ発祥のメカニズムで欧州列強のマシンと対等以上に渡り合うためには現行モデルのオイルパンは独立させたドライサンプ方式を採用し、より重心を下げている。つまりアメリカの精神が負けるわけにはイカン、アメリカイズナンバーワンなのだ。そのナンバーワンユニットのスペックは6.2リッターの排気量から502PSの最高出力と637Nmの最大トルクを誇る。

エンジンか乗り手が吠えるエクスタシー

エンジンをスタートすると一瞬V8の野太いサウンドが存在を主張するが、それも一瞬。昨今の騒音規制は一時パリ協定を脱退したアメリカでも気にするものと見える。しかしながら根がアナログな筆者は聞いていたいと思うのである。ダッシュボードに腕を置くとこれまた振動が心地いい。「少年探偵団の諸君、これぞスポーツカーですよ」と怪人二十面相のように啖呵を切りたいのを抑え、走り出すと運転しやすい。

自社製でシボレー初採用の8速デュアルクラッチトランスミッションはスムースに変速してくれるし、街中では2000rpmも回す必要がない。またコルベット初の右ハンドル化もアクセル、ブレーキといった操作系に違和感はまったくなかった。試乗車3LTには段差も難なくこなすフロントリフターがついているのもご報告。

高速への合流で深めにアクセルを踏むと6.2リッターV8が吠える。いや筆者も絶叫したくなるほどいい音が聞こえる。ああ、陶酔ってこういうことなのねという感じだ。重低音重視のロックンロールはエアロスミスでありKISSでありイーグルスなのだ。間違ってもソプラノ系ではない。

高速巡航はさすがでバーガー片手にコーラを飲めそうなくらいの直進安定性。100km/hは8速で約1300rpmくらいだが、このパワーユニットは気筒休止システムがついており巡航中など低負荷時は4気筒になる。メーターには4気筒状態のV4表示が出る。まあ、半分休止といっても排気量は3リッター以上というのがアメ車らしい。もちろんこのV8からV4(その逆も含めて)はまったくわからない。

クネッた道も想像以上に曲がってくれる。ステアリングフィールも自然で正確。これで楽しくないわけがない。あれだけの直進安定性なのにこの旋回性能。すごいゾ、コルベット。シフト脇のセレクターからドライブモードを選択すればよりオタノシミ可能。

またリアセクションの最後部にはゴルフバッグが入る荷物スペースもあるし、もちろんミッドシップなのでフロントフード下にも荷物スペースがある。車内の収納は限られてしまうけれど、これだけ荷物が載せられるってことは普段使いもラクにこなせるってこと。価格は1650万円だけれど、中身を考えれば抜群のコスパだと思う。豪華装備は必要最小限で良いのならば動力性能に差のない2LTグレード(1420万円から)という選択肢もある。

また予約注文は終了してしまったが、最強モデルZ06(2500万円〜)もある。コチラはV8は変わらないが、排気量を5.5リッターに落とし、その分エンジンをDOHCに。この辺りからしてもその本気度がうかがい知れよう。そしてスペックは646PSを誇るモンスターマシンなのだ。大排気量の自然吸気エンジンは今や超希少車。ましてこだわりのOHVとなればなおさら。筆者はレッドゾーン直前の音と振動を思い出してニヤけるのであった。

コルベット クーペ3LT


価格1650万円から
全長×全幅×全高4630×1940×1225(mm)
エンジン6156ccV型8気筒
最高出力502PS/6450rpm
最大トルク637Nm/5150rpm

シボレー
コルベット
問GMジャパン・カスタマーセンター:0120-711-276

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