特撮ばんざい!第17回:『シン・仮面ライダー』予習に欠かせない一冊!! 「仮面ライダー資料写真集1971-1973」


諸君は「仮面ライダー資料写真集1971-1973」という本を知っているだろうか? そう、『シン・仮面ライダー』で脚本・監督を務める庵野秀明氏が責任編集を担当した本だ。今回は本書のメイキング・ドキュメントをお届けしよう。

写真/モノ・マガジン編集部(対談) 文/TARKUS
©石森プロ・東映

「仮面ライダー資料写真集1971-1973」カバー。第1話「怪奇蜘蛛男」の撮影直前に撮影されたと思われる、仮面ライダーのショット。庵野秀明氏が選んだ写真である。

現在発売中の「仮面ライダー資料写真集1971-1973」。『仮面ライダー』第1作に絞り込んだ内容となっており、現在公開中の映画『シン・仮面ライダー』で脚本・監督を務める庵野秀明氏が責任編集を担当した。

本書の特長は、仮面ライダーやショッカー怪人の図鑑として楽しめることは大前提でありつつ、当時の新聞や雑誌記事用に撮影されたものの、その後掲載の機会が少ないパブリシティ写真も多数掲載されていることだ。

これによって、ページをめくるたびに『仮面ライダー』が放送されていた98週間。リアルタイムの時間を追体験できるようになっている。

その他、『仮面ライダー』企画時に作られた企画書、原作者・石ノ森章太郎氏のデザイン画、実際に現場で使用された台本、造型用デザイン、撮影スケジュール表なども収められており、年季の入ったマニアでさえも見たことのない貴重な資料を見ることができる。

また、漫画『仮面ライダーSPIRITS』『新仮面ライダーSPIRITS』を連載中の村枝賢一氏と庵野秀明氏の対談も収録。『仮面ライダー』の遺伝子を受け継ぐクリエーターの発言にも注目だ。

では、本書の編集を担当したアニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)の三好寛氏と、構成パートを手掛けた株式会社タルカスの五十嵐浩司氏から、本書ができあがるまでの流れを聞いてみよう。

まず、「仮面ライダー資料写真集1971-1973」の出版企画はどのようにして立ち上がったのだろうか?

責任編集・庵野秀明のふたつの望み

(右)本書の編集を担当したアニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)の三好寛氏と、(左)構成パートを手掛けた株式会社タルカスの五十嵐浩司氏。

三好:庵野秀明から『仮面ライダー』の50周年を記念する写真集を出版したい、『シン・仮面ライダー』の制作発表に合わせて告知もしたい、という提案があったんです。庵野の望みはふたつありました。この世にある仮面ライダー、特に1号2号に関する写真を全部網羅した本をどんなページ数になっても、どんなに高くなってもいいので出したいというのがひとつ。もうひとつはその本を『仮面ライダー』の最終回が放送された、2023年の2月10日に出したいということだったんです。そして、2021年の4月3日に「仮面ライダー生誕50周年記念企画発表会見」が行われ、その時、『シン・仮面ライダー』とともに出版企画も発表されました。

三好氏はこの企画をATACのメンバーである西村祐次氏に相談する。西村氏は昭和の時代から様々な特撮作品に造詣が深く、『仮面ライダー』においても然りである。

西村氏は40年来の友人であり、『仮面ライダー』研究の第一人者である高橋和光氏に相談を持ちかける。高橋氏は三好氏からの相談を受けて、この出版企画への協力を承諾する。しかし、その中途で高橋氏は逝去してしまう。

五十嵐:高橋が亡くなって、私が企画を引き継ぐことになりました。その時には概要が色々と固まりつつあったので、弊社の井上(雄史)と一緒に方向性を最終的に決めていったんです。井上は『仮面ライダー』の第1話、「怪奇蜘蛛男」をリアルタイムで見て衝撃を受けた世代でもあり、本書でも構成・執筆の中心となってくれました。井上とのディスカッションから単純なキャラクター図鑑ではなく、パブリシティ写真をクローズアップするというアイディアが生まれています。写真パートのアイディアや原稿には、『仮面ライダー』ロケ地研究家の細谷武司さんにもご助言をいただきました。そして、内容が決まったところで写真を集めることになるのですが、高橋が生前培ってきた縁のおかげで皆様から快く協力をいただけて本当に助かりました。

『仮面ライダー』の原点となる第1話「怪奇蜘蛛男」の小河内ダムのロケ写真を集めた項目。初公開となる写真も確認できる。

本書の奥付によると、毎日放送OBであり『仮面ライダー』のプロデューサーである左近洋一氏、朝日ソノラマの写真を管理している宇宙船編集部、かつて「冒険王」を出版していた秋田書店など錚々たる顔ぶれが並んでいる。

加えて石森プロの協力もあり、本書の編集作業は進んでいった。しかし、本書は単純な写真集ではなく、資料も掲載して『仮面ライダー』に関する記録として残したいというテーマが庵野秀明氏の中にあった。そこで、写真以外の資料も本書に加わっていく。その筆頭が番組企画書である。

三好:この本は番組企画書から始まるのですが、『仮面ライダー』の本放送以降で貫かれているエッセンスは既にこの企画書にあるということが言いたかったんです。この企画書は何より文体が熱いんですよ。「モーレツからビューティフルへ」のような当時のキーワードを巧みに取り入れつつ、「我々は、この仮面ライダーという作品で何を描くべきか」ということを、すごく力を込めて書いてあるんです。「仮面の主人公は、視聴者の怒りの変身」とかキャッチーな言葉がたくさん散りばめられている。だから、本書の巻頭はここにしました。

五十嵐:他にも、石ノ森章太郎先生による仮面ライダーやショッカー怪人のデザイン画、現場で助監督の塚田正煕氏が使用した台本、当時エキスプロに所属していた三上陸男氏や高橋章氏による造型用デザイン、現存する撮影スケジュール表などが掲載されています。いずれも当時の現場で使用された重要な資料です。個人的には『仮面ライダー』で監督デビューして、生田スタジオ作品に関わり続けた塚田監督の手書きメモが見られたことがとても嬉しかったですね。

目指したのは『仮面ライダー』放送中の記録

校正用のデータと完成した写真集。

それでは、実際の編集作業がどのように進んでいったのかを聞いてみよう。

五十嵐:写真ページの誌面についてはこちらから提案を行い、それらを庵野さんにチェックをいただくという流れとなっていました。もっとも弊社としては、大きな修正というのはなかったと感じています。こちらの考えている方向性、構成がもともと庵野さんのお考えと近かったのかもしれません。ゼロからやり直しのようなものはなく、チューニングとでも言いますか、庵野さんから「こうすればもっと良くなるのではないでしょうか?」という明確なアイディアをもらって、それを活かすという段取りでしたね。例えば、第1話の小河内ダムロケ写真の中のオフショットをもっと大きくしたり、などですね。写真以外の資料の選択については、庵野さんからのオーダーとなっています。庵野さんが目指していたのは単純な写真集ではなく、『仮面ライダー』放送中の記録を残すことなんですよ。ですから資料によって、内容にさらなる厚みが出ています。

三好:カバー写真と表紙、裏表紙の写真セレクトに関しては庵野が行いました。カバーの写真は第1話「怪奇蜘蛛男」の小河内ダムロケの時のもので、仮面ライダーが蜘蛛男と戦う場面の撮影直前だと考えられます。シチュエーション的にも撮影的にも、「仮面ライダーが初めての戦いに臨む直前」という意味合いがあり、そういう意味でも的確だったと思います。庵野は五十嵐さんが用意した資料をものすごく読み込んでいて、諸事情や構成上やむなく掲載をあきらめた写真に気がついて、「やはり追加してほしい」というオーダーがあり、けっこうギリギリのタイミングでしたがページを増やしたりもしました。

サイクロン号の項目より。有名な写真であるが、アングル違いの写真もまとめて見ることができるのが本書の特長である。

漫画家村枝賢一氏と庵野秀明氏の対談もまた本書ならではのコンテンツであり、注目すべき記事となっている。

三好:これは庵野の希望です。庵野は村枝先生の『仮面ライダーSPIRITS』や『新仮面ライダーSPIRITS』の愛読者なんです。庵野本人から村枝先生との対談を載せたい、という提案がありました。さっそく五十嵐さんにご連絡していただいたところ、ふたつ返事でOKでした。村枝先生は仮面ライダー1号からZX(ゼクロス)を全肯定して、それぞれのいいところを漫画の見せ場として作っていらっしゃる。その姿勢が庵野との対談からも伝わってきます。

五十嵐:とにかくふたりのお話は弾みましたね。最終的に4時間くらい収録したのではないかと思います(笑)。事情により圧縮していますが、ここも読みどころですね。庵野さんには巻頭言もいただいていますが、そこにも仮面ライダーへの思いが満ちています。お名前の肩書が「責任編集」と来るかと思っていたら「本放送からの仮面ライダーファン」と記されていて、ちょっと涙が出そうになりました。ここも必読です。

二度と発行出来ない50周年の総決算

村枝賢一氏と庵野秀明氏の対談。本書の締めを飾る記事となっている。

最後に「仮面ライダー資料写真集1971-1973」の見どころをおふたりに語っていただこう。

三好:仮面ライダーファンの方で、悩んだり迷っているようでしたら、ぜひ買ってください。より深く『仮面ライダー』を体験できる1冊になっていると思います。庵野の最初の目標の「全部網羅」が諸事情で叶わなかったことは申しわけありませんが、出来る限り多くの写真や資料を掲載しました。東映さんのオンラインショップなど、ネットや書店、劇場でも手に入りますので、お手数ですが探してみてください(編注/本文の最後に発売している場所の情報を掲載しています)。

五十嵐:仮面ライダーの本作りに関わってから昨年で30年になりますが、この本はその総決算になりました。仮面ライダー50周年記念だからこそ作ることができたはずで、これだけの内容の本は二度と出せません。庵野さんのこだわりを存分に活かした一冊となっているので、映画『シン・仮面ライダー』を楽しんだあとは、本書を読んでその原点に触れていただければと思います。

第72話と第73話は和歌山県の南紀白浜でロケーションが行われた。その時に撮影されたダブルライダーの写真にも多くのページを割いている。

三好寛(KAN MIYOSHI)

「仮面ライダー資料写真集1971-1973」の編集担当。認定NPO法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)の事務局長として、アニメや特撮のアーカイブ活動や「庵野秀明展」「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」などに携わっている。

五十嵐浩司(KOJI IGARASHI)

「仮面ライダー資料写真集1971-1973」の構成を井上雄史氏、岡本智年氏とともに担当した。「仮面ライダー大図鑑6」(1992年/刊)以来、仮面ライダーの出版物に係わる。株式会社タルカス代表。

「仮面ライダー資料写真集1971-1973」

発売/カラー
販売/グラウンドワークス
価格/8800円

「仮面ライダー資料写真集1971-1973」は東映オンラインショップ、EVANGELION STOREなどのオンラインショップ&ネット書店のほか、仮面ライダーストア東京、紀伊国屋書店 新宿本店ほか全国書店、新宿バルト9、T・ジョイSEIBU大泉、梅田ブルク7、T・ジョイ博多、京都太秦映画村など映画関連施設で発売中!!

※本誌4-16日号(4月1日発売)にも「仮面ライダー資料写真集1971-1973」の記事を掲載。ぜひご覧ください!

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https://www.shin-kamen-rider.jp/

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