Sinnはどこから来て、どこへ行くのか? 第12回

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?part.8

時間とは二面性でできている。永遠と瞬間。果てしなく流れる持続性と、二度と取り戻せない断絶性。クロノスとテンプス。時を測るということは、持続性を確認するためか、断続性を確定するためか。近代の根幹であった計時作業。近代を超克して時間カルチャーの未来を拓くための哲理とは何か?

 

原克/早稲田大学教授。専門は表象文化論、ドイツ文学、メディア論、都市論。近著に『騒音の文明史 ノイズ都市論』(東洋書林刊)がある。著書多数。『モノ・マガジン』で「モノ進化論」を連載中。


ライン渓谷を望む。手前はドラチェンフェルス城跡。Photo/Shutterstock(slawjanek_fotografia)

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?日本中世文学の代表的な随筆『方丈記』。写真は鴨長明の自筆と伝わる、現存する最古の写本で、京都の大福光寺が所蔵する「大福光寺本」。

 

 鴨長明『方丈記』(1212年)は、「時」を想い、次のように詠嘆している。

 ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。
淀みに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。

 時間というものは、「川の流れ」のようなもので、決して絶えることがない。しかし、目の前にある川面では、次々と「うたかた」(泡)が出来ては消え、消えては出来、とどまるものはひとつもない。なんと儚(はかな)いことであろうか。

 源平合戦の騒擾ゆえか、厭世の歌人は時間について、揺るぎない永遠性と、はかない瞬間性にひとしく思いを馳せている。

 チェザレ・リーパ『イコノロギア』(1593年)は、イタリア・ルネサンス期、図像学の古典である。

 これによれば、「時間」には、ふたつの異なる顔がある。

 第一は「永遠」(Æternitas)という顔。第二は「瞬間」(tempus)という顔。これだ。

 永遠は、途絶えることなく、いつまでも流れてゆく「継続性」。瞬間は、たちどころに過ぎ去り、二度と取り戻せない「断続性」。継続性と断続性。時間というものは、これらふたつの違った特性から構成されている。こう言うのである。

 「ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」。

 平安末期の歌人も、文芸復興期の文人も、時間のもつふたつの異なる顔については、共通した想いを抱いていたようだ。

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?
左/チェザレ・リーパ(ca.1560~ca.1623年)はイタリア・ルネサンス期の文人。本名ジョヴァニ・カンパーニ。枢機卿アントニオ・マリア・サルヴィアティの料理長の傍ら文献資料を閲覧整理し大著『イコノロギア(図像解釈学)』(1593年初版)を表す。 右/『イコノロギア』(1669年版表紙)は古代ギリシア神話からエジプト・メソポタミヤ文化、キリスト教文化まで「図像」を中心に概観しヨーロッパ精神史を明かす図像学の古典となる。(Iconologia 1669)

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 Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?

 ドイツ海軍212クラスの非原子力潜水艦の外殻に使われている特殊鋼であるUボート・スチール。これを時計ケースに採用しているのが、SinnのUシリーズだ。今回紹介する “U50” のケースにも同様にUボート・スチールが採用されている。通常の時計ケースに使用されているスチールの場合、海水に長い時間さらされると腐食する可能性があるため、ダイビング後には淡水ですすがなければない。しかしUボート・スチールは、海水との長期間の接触に高い耐性がある。さらに、残留磁気を帯びずに反磁気性があり、ひび割れに対する高い耐性も備えている。ダイバーズ・ウオッチとして実に頼もしい仕様だ。

 ならば “U50” の特徴は・・・・・・。

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?

 上の写真の右がUシリーズの最初のモデルで最もベーシックな“ U1”。左が今回紹介する“ U50 ”だ。“U1” は直径44mm。“U50” は直径41mm。“U50” はダウンサイジングすることで、日常生活に快適な着用感を実現しつつ、従来と同等のスペックを確保したまま、ダイバーズウォッチにとって必要不可欠な要素のみに特化したシンプルな設計コンセプトを特徴とする。

 ムーブメントは、セリタのSW300-1(自動巻/25石/28,800振動)を搭載。パワーリザーブは約42時間。モデルU1のSW200-1(自動巻/26石/28,800振動)の約38時間より4時間長く駆動可能だ。

 また、逆回転防止ベゼルは特殊結合方式によりケースに取り付けられており、決して外れる事はない。リューズは手の甲に当たらないよう4時位置に装備している。

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?

model U50

ムーブメント:SW300-1(自動巻/25石/28,800振動)/時・分・秒(センターセコンド)/デイト表示/ケース:Uボート・スチール/ベルト:シリコンストラップ/風防:両面無反射サファイアクリスタル/特殊結合方式の逆回転防止ベゼル(テギメント加工)/リューズ:ねじ込み式/裏蓋:Uボート・スチール、ねじ込み式/防水性能:50気圧防水/負圧耐性/ケースサイズ:直径41mm×厚さ11.15mm/重量:74g(ベルトを除く)/ベルト幅:20mm/船級・認証機関DNV(旧ゲルマニア・ロイド)検定済み/シリコンストラップ仕様 税込価格38万5000円(税別価格35万円)、ブレスレット仕様 税込価格39万500円(税別価格35万5000円)

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Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?

model U50.SDR

ムーブメント:SW300-1(自動巻/25石/28,800振動)/時・分・秒(センターセコンド)/デイト表示/ケース:Uボート・スチール/ベルト:シリコンストラップ/風防:両面無反射サファイアクリスタル/特殊結合方式の逆回転防止ベゼル(PVD加工+テギメント加工)/リューズ:ねじ込み式/裏蓋:Uボート・スチール、ねじ込み式/防水性能:50気圧防水/負圧耐性/ケースサイズ:直径41mm×厚さ11.15mm/重量:74g(ベルトを除く)/ベルト幅:20mm/船級・認証機関DNV(旧ゲルマニア・ロイド)検定済み/シリコンストラップ仕様 税込価格39万6000円(税別価格36万円)、ブレスレット仕様 税込価格40万1500円(税別価格36万5000円)

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Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?

model U50.S

ムーブメント:SW300-1(自動巻/25石/28,800振動)/時・分・秒(センターセコンド)/デイト表示/ケース:Uボート・スチール(PVD加工+テギメント加工)/ベルト:シリコンストラップ/風防:両面無反射サファイアクリスタル/特殊結合方式の逆回転防止ベゼル(テギメント加工)/リューズ:ねじ込み式/裏蓋:Uボート・スチール、ねじ込み式/防水性能:50気圧防水/負圧耐性/ケースサイズ:直径41mm×厚さ11.15mm/重量:74g(ベルトを除く)/ベルト幅:20mm/船級・認証機関DNV(旧ゲルマニア・ロイド)検定済み/シリコンストラップ仕様税込価格45万1000円(税別価格41万円)、ブレスレット仕様税込価格47万8500円(税別価格43万5000円)

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 U50シリーズは、基本モデルの“ U50” のほかに、ベゼルにブラック・ハード・コーティングを施した “U50.SDR”、ケースやリューズすべてにブラック・ハード・コーティングを施した “U50.S” もラインナップ。ちなみに ”U50.SDR” の ”SDR”は「Schwarz(シュヴァルツ)=黒 / DrehRing(ドレーリング)=回転リング」。”U50.S” の ”S” は「Schwarz(シュヴァルツ)=黒」を示している。

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?

 極太のインデックスに同じ太さの長方形の針というインパクトのあるスタイルが高い視認性を確保。赤い色は深く潜った際に見えにくくなり、太陽光の届かない深海では白い部分だけがはっきりと認識できるようになっている。インデックス、時・分・秒針、ベゼルの12時位置のマーカーにはスーパールミノバ仕上げが施されており、暗所でも十分な視認性が確保されているのだ。

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?

 U50シリーズのUボート・スチール製ケースはザクセン時計技術社グラスヒュッテ、通称「SUG」で製作されている。通常はベルトが付いていて見えないが、ケースの6時位置に「SUG」の刻印がある。写真左の「SUG」の刻印の上に見えるのが、回転ベゼルの特殊結合方式を支えるビスだ。

 “U50.S” は、ケース全体にテギメント加工とPVD加工を組み合わせたブラック・ハード・コーティングを施しているので、ケースの12時位置と裏蓋にテギメントのマークが入っている。

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?

 さらに、Sinnの他のダイバーズウォッチと同様に、U50シリーズも船舶・船級認証機関DNV GLにより認証され、写真のように耐圧性能を証明する認定書がSinn社に対して発行されている。DNV GLは、500m(50気圧)の潜水深度に対する耐圧性、および欧州潜水器具規格EN250とEN14143に従って耐温度性と機能性を検査・認定している。

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 U50シリーズの時計は-30℃から+70℃までの動作テストを受けている。

 U50シリーズには、高い機能性と使用感、明確な読みやすさ、優れた耐久性と信頼性があるのだ。

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教会の古い時計。Photo/Shutterstock(Wlad74)

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?

教会の聖堂には時計がつきもの。ドイツ、バイエルン州ニュルンベルクの旧市街、世界三大クリスマスマーケットが開かれるハウプトマルクト広場にある聖母教会(フラウエン教会)。Photo/Shutterstock(Kiev.Victor)

 時間は英語で“time”だが、中世期の古期英語では“tima”。元来「しばらくの間」の意味であった。

 「はてしなく永続的な時間」という抽象的意味で使われるのは、14世紀後半のこと。

 そもそも、時間はラテン語で”tempus”だが、音韻論的には「瞬時」(tempus)と近接している。「テンプス」とは瞬間性・可変性・非反復性を意味する。ふたつのうち、ひとつの顔である。

 もうひとつの顔「永遠」(Æternitas)は、持続性という意味では、古代ギリシア語”khronos”にむしろ近い。「クロノス」とは「永くつづく時間」のこと。永続性・持続性・継続性の謂である。

 テンプスとクロノス。これらふたつの顔が英語に合流して、興味深い類語の言語サークルを作る。

 ”time”を中心にして、一方に”tempo”, “temporal”, “contemporary”、他方に”chronic”, “chronicle”, “chronology”。

 「テンポ」は音楽用語にもあるように、瞬間性・一時性に主眼をおく。「テンポラル・アクション(一時作用)」、「コンテンポラリー・アート(現代美術)」などがこれだ。

 テンポは、瞬間的なものにすぎず、はかなく消えてゆくことから、やがて、移りゆく時代、はかない現世というイメージが定着してゆく。その結果、「テンポラル」とは現世的、世俗的、同時代的、現代的という意味になっていった。

 他方「クロノス」は「クロニック・ディシーズ(慢性疾患)」、「クロニクル(年代記)」、「クロノロジー(年表)」など、持続性にまつわるイメージ世界を生みだす。

 テンポとクロノス。これが時間が持つふたつの顔である。

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『イコノロギア』ドイツ版(1758~60年)は銅版画の巨匠ヨハン・ゲオルク・ヘルテル翁による作画。 左/「運命」(Fortuna)。中央の女神フォルトゥナは球形の上に立つ。「不安定」の象徴。背後に「時の神」が「大鎌」を手に迫る。時間が運命を支配するからだ。 右/「永遠」(Æternitas)は洞窟として描かれる。断面が丸い。入口の大蛇は尾を呑む。右手の碑銘も「ウロボロス」。四人の少年天使は四季を表す。すべてが円環構造だ。(Iconologia 1758~60)

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ドイツ表現主義の画家、フランツ・マルク(1880〜1916年)の ”The fate of the animals” (1913年)。

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?

ドイツ表現主義映画の中でも最も古く、最も影響力があり、芸術的評価の高い作品『カリガリ博士』(1920年)。ロベルト・ヴィーネ監督によるサイレント映画。

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Sinnはどこから来て、どこへ行くのか? 

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか? 

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?ベルリン市内街頭を流し歩く「新聞売り」。1890年代。近代都市。急激な人口増加が新しい都市型ライフスタイルを生む。情報分野も同じこと。情報は確度にも増して「鮮度」が必須条件になる。新情報ツール「日刊紙」誕生のメディア論的背景だ。宅配は後発。黎明期は街頭販売が主流だった。1904年に全面廃止。(Berlin im 19. Jh.)

 キオスク(Kiosk)はペルシャ語の「ケスク」(kösk)を語源としている。

 イタリア語の「キオスコ」(chiosco)等を経て、18世紀末ドイツに伝わった。

 原義は、飲料水を販売した「天幕」・「屋台」の謂。後に、街頭販売の小型建造物をさすようになった。

 ベルリンでは19世紀末、繁華街や交通量の多い交差点に、設置されることになる。

 1882年、出版業者ゲオルク・シュティルケは、ベルリン市電駅構内に、新聞販売のためのキオスクを設置する許可を取得した。

 都市の近代化とは情報の近代化でもある。シュティルケは見抜いていたのだ。

 1904年、それまで主流だった街頭での「新聞売り」が禁止された。交通の妨げとされたのだ。

 これを機に、1905年シュティルケは有限会社ドイツ・キオスクを設立し、ベルリン市内各所に新聞販売のブースを設置した。1921年には、90店舗を数えるまでになる。

 キオスクの設計は、高架鉄道の設計にも携わったアルフレート・グレナンダーが担当した。

 要点はなんといっても、大都会の喧噪の中で目立たなくてはならない。そこで、アクセントを屋根に置くことにした。目立つ屋根をつくるのだ。

 個性があってよく目立ち、背の高い屋根。素材は銅製。場所によっては、大型の時計を設置することも可能にする。近代都市では、時間も重要な情報なのだ。

 本体の素材は鉄とガラス。広告や写真をはりだせるように、ガラス面をじゅうぶんに取る。あらゆる細部に、情報を発信しようという意匠が見てとれる。

 新聞雑誌に、大型時計、電話ボックス、待合ベンチを組み合わせる。単に情報発信センターであるばかりでなく、大都市コミュニケーションの基本的な機能を一点に集中する。

 近代都市の哲理そのものを形にしたもの、それがキオスクであり、屋根の上の大時計だったのである。

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?左/ベルリン都心随一の目抜き通りクア・フュルステンダム通りのキオスク。1983年。通勤途中や外出先で簡便に最新情報を入手できる都市型施設。 右/ベルリン市内シュツットガルト広場の新聞販売キオスク。1905年。建築家アルフレート・グレナンダー設計。本連載第二回目「高架鉄道の鉄柱」で言及した。伝統的装飾と20世紀型機能主義との混淆デザイン「ユーゲント様式」の代表者。屋根に伝統的要素を残す。(Berlin und seine Bauten 1980)

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?左/ベルリン市内アウグステ・ヴィクトリア広場の新聞販売キオスク。1905年。アルフレート・グレナンダー設計。1896年版『ベルリン建築白書』に「キオスク」の項目はない。1905年建築専門誌が「色彩効果が面白い」「形態も特異」と評価。 右/エルンスト・ロイター広場のキオスク。グレナンダー設計。1905年。軒下左側の円形は大型時計の収納ケース。上図4枚すべて屋根に時計収納スペースが設置されてある。(Berlin und seine Bauten 1980)

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?繁華街ベルリン動物園駅(通称「ツォー駅」)の高架下街頭風景。1935年。1920年代ワイマール時代は大衆社会確立の時代。都市空間に匿名性の高い「大衆」が往来し社会関係を構築する。「標準時間を共有する」。時間単位の共有は近代の初期設定になった。街頭の大型時計は近代必須のインフラ装置だ。(Berlin, Berlin 1987)

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木版画「悪魔のバグパイプ」(1530年頃)。宗教改革時代の政治パンフレット。カトリック教会派による新教派ルターへの批判。笛を吹く悪魔、笛としてのルター。ルターの背後で悪魔が演奏する。演奏(操作)する悪魔、演奏(操作)されるルター。笛の音=説教の言葉。音響イメージの二重化。「ルターの言説は悪魔の言説だ」。(DesTeufels Sackpfeife ca.1530)

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか? 

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?上左/「太陽」の素顔。Photo/NASA 上右/「ガイコツ」の群れ。月岡芳年画『和漢百物語大宅太郎光圀』(1865年)より。 下右/悪巧みする「キツネ」。ティエボー版『狐のレナードの物語』(1760年)より。 下左/「フクロウ」の像。アクロポリス博物館所蔵。

 チェザレ・リーパ『イコノロギア』は図像学の古典である。

 そも図像学(iconology)とは、象徴や寓意など、図像(icon)に込められた意味を読み解く。絵を、あたかもテキストででもあるかのように、解読する学問である。

 たとえば、「太陽」は「真理」を、「ガイコツ」は「死」を、「キツネ」は「悪だくみ」を、「フクロウ」は「知恵」をそれぞれ象徴する。まるで、絵で描いた暗号のようだ。

 つまり図像学とは、絵を暗号解読する学問と言いかえてもよい。

 もちろん「時間」も図像化されている。

 「時間」はひとりの老人として描かれている。

 翼をもつ姿は、ギリシア神話の「時の神(クロノス:Khronos)」を想起させる。

 翼は「迅速」の表徴である。天宮「十二宮の輪」に乗っているのは、天体の運行を示す。

 注目すべきは、両手に持っているものである。

 右手には「鏡」を持っていて「自分の姿」が映っている。左手には「ヘビの輪」を持っている。

 これを図像解釈しなくてはならない。

 「鏡」に映る姿は虚像である。写し絵ではあるが実体を欠く。切りとった時間の断片にすぎず、蜻蛉(かげろう)のようにはかない。つまりは「うつろい易さ」のイコンである。

 題辞に曰く、「時」は「足早に立ち去り」、「汝に戻り来ることあらじ」。

 「ヘビの輪」とは、「尾を飲み込み円環状になったヘビ」のことだ。別名「ウロボロス」(uroboros)と呼ばれ、始まりも終わりもない、永遠の循環をあらわす。つまりは「永遠不滅」の記号である。

 題辞に曰く、「我には、初めも終わりもなかりけり」。

 西洋文化でも、時間は鏡とヘビの輪という両面性において、つまり、瞬間性と永遠性、継続性と断絶性において、表象されたのである。

 鴨長明であれば、「ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」と嘆じたところだ。

 さて、時間と真正面から取り組んできたSinnである。単なる計時装置であるにとどまらず、その先にある「時間の新次元」を切り拓こうとするとき、何が問われるべきなのか?

 それは、おそらくSinnが最後まで、「鏡」と「ヘビの輪」が示す哲学の根本を見失わずにいたとき、おのずと見えてくるに違いない。期待して待ちたい。

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?ヘルテル作画『イコノロギア』(1758~60年)「時間」(Tempus)。「時の神」(サトゥルヌス)が両手に「鏡」と「ウロボロス」を持って「十二宮の輪」の上に立つ。鏡像は瞬間性をヘビの輪は永遠性を。二組の少年天使は「過去」と「未来」、「事実」と「夢」を表す。(Iconologia 1758~60)

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?左/中世後期のビザンチンギリシャの錬金術写本から描いたウロボロス。 中/ウロボロスのレリーフ。Photo/Shutterstock(Andrey Khusnutdinov) 右/初期の錬金術の図版。真ん中に「すべてはひとつ」を意味する文字。

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 Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか? 

 腕時計を選ぶ場合、一般的なごく普通の三針の腕時計のシンプルさがとても似合うケースは多いです。でも、どうせ手首にはめるならもうひとつふたつ機能が欲しくなるのが男の子。文字盤の中の情報量に胸躍らせるものなのではありませんか?代表的なあったらいいなという機能といえば・・・そう、たとえばストップウォチ。いえ、たしかにもう何年も時間を競うとか、何秒でタスクをこなすかなんて測ったことはありません。どうしても例をあげろと言うならば自分じゃなくて映画『ラストターゲット』でジョージクルーニーがライフルの分解組み立てをクロノグラフで計測していたシーンしか思い出せません。

 そう、あの場面ではクロノグラフという機能がもつシビアな時間計測という仕草が物語を引き締めておりました。

 本来、航空機の運航操縦に必要とされていたパイロットウォッチのクロノグラフ機能。秒針に30分積算計もしくは60分積算計、そしてさらに12時間積算計をぎっちりとムーブメントに収め、正確無比に時間を測るクロノグラフ。強靭かつ精密なムーブメントを備えたSinnが刻むミリセコンドの秒針のリズムに見入ってしまうのです。

Sinnはどこから来て、どこへ行くのか?織本知之/日本写真家協会会員。第16 回アニマ賞受賞。『モノ・マガジン』で「電子写眞機戀愛」を連載中。

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■Sinnはどこから来て、どこへ行くのか? 連載記事 アーカイブ一覧

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