商用、いやマルチスポーツカー
ホンダ N-VAN


 本誌の11月2日号(881号)はギアボックスをメーンテーマにお送りしました(まだの方は要チェックですゾ)。これをクルマで考えると使い倒せるギアで収納、いや積載量十分で自分流にカスタムできて、なおかつ趣味っぽい感じも得られるとなるとN-VANが筆頭候補ではないだろうか。まずボディカラーが商用車離れしているのが高ポイント。何となくカジュアル系(軽?)として街中でも「映え」そうだし、背が高くて使い勝手が良さそうだ。

 というわけで筆者が街中に乗り出したのはN-VANでも商用車チックを感じさせない+STYLE FUNグレードのクルマ。

ボディカラーはオプションのプレミアムイエロー•パール。これがニクいほどクルマに似合っておりまして、愛嬌のあるデザインと相まって雰囲気が安全第一定刻貨物輸送といった堅苦しい商用車然としてないのも◎。

 借り受けの際、間近でみた印象は意外にデカい! のが次の印象。調べたら全高が1945mmもあった。ホンダの走る中垣内祐一か!(編集部注:元バレーボール選手で東京五輪時の男子日本代表監督でした)と若干のコーフン口調になってしまったが、クルマを簡単に説明しなくては。

 N-VANはホンダの大人気軽スーパーハイトワゴン、N-BOXをベースに装備を簡素化したモデルで公式HPにも商用車として扱われるモデル。いつも乱暴な表現で恐縮だが、N-BOXから豪華装備の引き算をするとこのクルマになるわけです。最大の相違点は助手席側がピラーレスになっていること。その開口幅は1580mmと大きいのが特長。

シンプルデザインの運転席に陣取って、

いざエンジンスタート。これが商用車だという先入観もあったせいか、思いの外静か。ミッションはミッドシップ軽スポーツカー、S660譲りの6MT。ちなみにN-VANはターボモデル以外は6MTが選択可能。

筆者のようなヲタク系クルマ好きには6MTのポイントは高い。1速発進を試みたがギクシャクしやすいので2速からの発進に途中から変更。余談だがサイドブレーキはステッキ式。若人には実体験をした人以外にはなかなか伝わらないかもしれないが、回して解除するタイプ。そういえば某編集部のバイトさんがレギュレーター式ウィンドウを始めて見た、とカンドーしてこともあった。時代の流れはオソロシイ。閑話休題。

 走り出すと運転がなんか楽しいゾ。エンジンは658ccのNAで53PS。これがよく回る回る。さすがバイクのホンダ。いやF1のホンダ。試しに高速の合流で全開にしたところレッドゾーンまで一直線。それでも、もちろん法定度速度内。こ、これは見た目はワゴン、乗ればスポーツカーってヤツじゃないか。フットレストも存在しない硬派仕様の。オマケにヒール&トゥ(よりもトゥ&トゥの方がニュアンス的にあっている)もしやすいペダル配置だし合法的な速度で楽しい!

 ホンダ最初の4輪車は1963年に発売された軽トラック、T360。

このクルマに搭載されていたエンジンはなんと8500rpmまで回るのだ! 商用車が、である。現在の感覚としても超高回転でしょう。

 話は再配達のようにN-VANに戻る。運転席はなかなかに快適だが、座面の左右に対するサポート性は頻繁な乗り降りと左から降りる場合を想定した商用車のモノだった。車内はスペース効率を考え抜いた工夫のカタマリ。まるでクルマの寄木細工状態なのだ。しかも低床で荷物の積み降ろしがしやすい。例えば前席は左右で大きさが違うし、

助手席はフラットにもテーブルにもなる。外したヘッドレストの置き場所に困らないように助手席ドアに収納できるようにもなっている。

後席も!

簡単に倒せるし、倒してしまえばホントに平らになってしまう。

この平らのスペースがどのくらい広いかを筆者、身をもって体験しました! 車中泊で。

床が平らだからごくごくフツーに横になれる。快適性を求めれば寝袋下にマットでもひけば動くビジネスホテルに早変わり。よく運転席以外はエマージェンシー用か補助席と言われるが上記のような工夫や用途を考えればさもありなん。特に自転車やバイク趣味ならトランポとしてコスパ抜群だし、ワーケーションのベースとしてもいい。

 発想の転換でN-VANを茶室と考えてしまえば問題ないかも。流れを大事にする茶道は亭主(ドライバー)と客人の動線が重ならないように出入り口が配される。これぞ運転席と助手席の考えに相違ない。加えて数寄屋建築の茶室は天井が高い(実際は客人が座る場所)。N-VNAの車内も天井が高い! また茶道では流派などによって違いがあるけれど4畳半以下の座敷は小間といい、タタミも通常の4分の3の長さの台目畳を使う。これは登録車という座敷でもN-VANは通常よりもコンパクトな軽自動車となる、なるほど。

 もちろん、軽自動車であるから維持費も少ない。例えばタイヤサイズ。全モデル12インチを採用。このサイズ、某カー用品店ならば、もしかすると4輪交換しても2万円でお釣りがくる。装備だってビジネスモデルとして考えれば充実度は高い。Gグレード以外にはPM2.5対応の高性能集塵フィルターが標準装備でアレルギー持ちの筆者には誠にありがたい装備だ。またMTモデルだと一部機能が省かれるけれど最新安全装備のホンダセンシングは全モデル標準装備。使い勝手も悪くない。通常の荷室は坐禅を組めるほど広い。

もはや立派な趣味車として使えるN-VAN。運転を仕方なくする作業と考えるとCVTのほうがいいかもしれないが、体を動かす運動と考えられるならば貴重なMTを楽しむのはどうだろう。

N-VAN +STYLE FUN(FF)6MT


価格162万9100円〜
全長×全幅×全高3395×1475×1945(mm)
エンジン658cc直列3気筒
最高出力53PS/6800rpm
最大トルク64Nm/4800rpm
WLTCモード燃費19.8km/L

ホンダ https://www.honda.co.jp/?from=auto_header
問 Hondaお客様相談センター 0120-112010

  • 自動車ライター。専門誌を経て明日をも知れぬフリーランスに転身。華麗な転身のはずが気がつけば加齢な転身で絶えず背水の陣な日々を送る。国内A級ライセンスや1級小型船舶操縦士と遊び以外にほぼ使わない資格保持者。

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