菊池雅之のミリタリーレポート
富士総合火力演習とは?
【最終回 日本の島嶼防衛戦術を知る②】

遂に最終決戦へ!偵察部隊の活躍


 これまでの戦闘の報告を受けた師団長は、いよいよ攻勢転移を決心しました。
 この攻勢転移とは、聞きなれない言葉ですが、自衛隊では重要なキーワードです。なぜならば、防勢(防御)から攻勢(攻撃)へと転じる、非常に重要な作戦となるからです。
 師団長の方針に従い、富士教導団長は、「速やかに攻撃を開始せよ」と、各部隊に命じました。これまでの戦闘において判明した敵情に加え、新たに偵察部隊が、情報収集を行います。機甲教導連隊の戦闘中隊と偵察隊、及びUAVが行動を移します。
 偵察隊の87式偵察警戒車とオートバイ、戦闘中隊の16式機動戦闘車が展開します。ここで威力偵察を実施。これは、敢えて敵に攻撃を仕掛け、それに反撃してきた敵の打撃力を分析し、敵勢力の規模を測る危険な方法です。
 87式偵察警戒車と16式機動戦闘車、60㎜迫撃砲(B)にて、敵の活動兆候が見られる畑岡一帯に対して射撃し、その成果をオート班が観測します。
 これにより敵の細部位置を確認。戦車含む車両多数が残存することが判明した。

総攻撃開始!


 敵防空火器をMLRS、敵電子戦部隊を96式多目的誘導弾、敵指揮官車両を中距離多目的誘導弾で射撃していきます。ただし、MLRSは、東富士演習場では射撃が出来ないので、モニターにて、過去に実施した射撃訓練の模様が流されました。
 富士教導団長は、敵の戦車をせん滅するため、増強戦車中隊による攻撃を開始しました。
 74式戦車と89式装甲戦闘車が稜線上に配置に付き、敵戦車や装甲車を発見するたびに射撃をしていきます。
 その間、最終決戦に備え、部隊を前進させるため、移動経路上に敵が仕掛けた地雷を処理します。こうした戦闘を行うのが戦闘工兵たる施設科です。
 さらに後方地域から、155㎜りゅう弾砲FH70などが射撃をし、敵の戦力を少しずつ削いでいきます。これを攻撃前進支援射撃と言います。
 こうして会場前では、これでもかと攻撃が続いていきます。観覧する自衛官もさすがに耳を覆います。
 敵の地雷原を撃破するため、92式地雷原処理車と70式地雷原爆破装置からロケット弾が発射されました。このロケット弾の中には、数珠つなぎとなった爆薬が収容されています。それが、地雷原上空で、ロケット弾の中から出てきます。パラシュートを開いて、ゆっくりと地雷原へと落下していき、一気に誘爆処理するのです。これにて人員用通路が開設しました。さらに施設小隊の隊員が通路拡幅し、戦車や装甲車が問題なく通れるようにします。

これぞ総火演!火力&火力で敵をせん滅


 休むことなく、各特科火砲は火を噴き、弾着地に砲弾の雨を降らせます。会場目の前の74式戦車と89式装甲戦闘車も、交互に攻撃していきます。
 これほど74式戦車が活躍する総火演は久しぶりです。間もなく引退する戦車であり、最後に花を持たせたのでしょうか。轟く咆哮は、惜別の声にも聞こえ、寂しくなります。
 敵もやられるままではいません。攻撃ヘリを差し向け、こちら側の戦車を攻撃しようと試みます。これを撃破するために87式自走高射機関砲が、35㎜対空機関砲を射撃しました。これにより攻撃ヘリを見事撃墜しました。
 いよいよ富士教導団長より、突撃命令が下達されました。
 最後の突撃支援射撃が開始されます。目前に迫る敵戦車に対し、とどめを刺していったのは90式戦車でした。
 1個小隊にあたる4両が、会場左から姿を現し、前進しながら射撃します。そのまま歩みを止めず、別の目標へと射撃しました。90式戦車の後を、89式装甲戦闘車や96式装輪装甲車が続きます。
 突入は見事成功。さらなる後続部隊の前進を支援するため、突入部隊は一斉に発煙弾を発射しました。これで敵の目を完全に塞ぎます。
 ここで状況終了となりました。後段の終了であるとともに令和3年度富士総合火力演習の終了を意味します。

来年こそは!


 さて、こうしてコロナ禍の中、行われた総火演は終了しました。
感染予防の観点から、20年、21年と、2年続けて一般公開中止となってしまいました。果たして来年こそは、再び多くの方が総火演を見られる状況となるのでしょうか?
 そうなることを是非とも望みたいものですね!

今回の総火演では、前段と後段合わせて大活躍を見せてくれた74式戦車。間もなく引退せまる装備ではあるが、ばっちりと存在感を示した。
偵察部隊の進出。注目は偵察用オートバイ。部内では“オート”とだけ略して呼ぶ。カワサキのKLX250がベース。
オートバイを盾にして敵に対して射撃をする偵察隊員。こちらから敢えて攻撃を仕掛ける威力偵察を実施。
射撃する87式偵察警戒車。偵察用の戦闘装甲車だ。今後16式機動戦闘車とセットで使う局面が予想される。
射撃姿勢をとるMLRS。さすがにこの場所では射撃はできない。点ではなく面を制圧するロケットシステムだ。
92式地雷原処理車より発射された対地雷用のロケット弾。
地雷原上空で、数珠つなぎとなった爆薬がロケット弾からでてくるところ。
最後の最後、まさにオオトリを務めた90式戦車。残存する敵に対し、120m滑腔砲が火を噴いた。

菊池雅之(masayuki kikuchi)
  • 軍事フォトジャーナリスト.。1975年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。講談社フライデー編集部専属カメラマンを経て軍事フォトジャーナリストとなる。主として自衛隊をはじめとして各国軍を取材。また最近では危機管理をテーマに警察や海保、消防等の取材もこなす。夕刊フジ「最新国防ファイル」(産経新聞社)、EX大衆「自衛隊最前線レポート」(双葉社)等、新聞や雑誌に連載を持つなど数多くの記事を執筆。そのほか、「ビートたけしのTVタックル」「週刊安全保障」「国際政治ch」等、TV・ラジオ・ネット放送・イベントへの出演も行う。アニメ「東京マグニチュード8.0」「エヴァンゲリオン」等監修も行う。写真集「陸自男子」(コスミック出版)、著書「なぜ自衛隊だけが人を救えるのか」(潮書房光人新社)「試練と感動の遠洋航海」(かや書房) 「がんばれ女性自衛官」 (イカロス出版)、カレンダー「真・陸海空自衛隊」、他出版物も多数手がける。YouTubeにて「KIKU CHANNEL」を開設し、軍事情報を発信中
  • https://twitter.com/kimatype75