菊池雅之のミリタリーレポート さらば! 74式戦車! その歴史を辿る旅 後編


かくして、74式戦車は、冷戦時代の最前線である北海道へと優先的に配備が進められていきました。あわせて、機甲科を中心とした戦闘団を編成して戦う戦術をとるために、普通科や特科、施設科なども装甲車化し、戦車と共に行動できるようにしました。こうしてソ連の機甲戦闘大隊に立ち向かう体制が作られていきました。

北海道だけでなく、全国の各師団でも大隊規模で戦車部隊を編成しています。

北海道に74式戦車を配備することを優先したので、本州や九州の戦車大隊は、しばらく米軍供与のM41戦車と61式戦車が主力となります。M41が引退したのは1983年のことになります。北海道以外での74式戦車の配備は、80年代後半からとなりました。

当時は師団の他に、混成団という作戦基本部隊も存在していました。それが、第1及び第2混成団です。このうち第2混成団にのみ戦車部隊たる第2混成団戦車隊が編成されていました。なお、「戦車北転事業」(詳しくは前編)により、第2混成団戦車隊は廃止され、多くの人員は北海道へと渡りました。

1989年、東西冷戦は終結しました。

核戦争の脅威に震え、人類滅亡の危機とすら言われていた“20世紀の戦争”は、意外とあっさりと終焉を迎え、ソ連は崩壊し、ロシアとなりました。

74式戦車の生産も冷戦終結の年である1989年にすべて終了しました。

東西冷戦型の大規模野戦が生起する可能性は低くなったと見積もられ、陸自では90年代後半より少しずつ部隊の再編を行っていくことになります。

ここより、戦車部隊の削減が始まっていきます。

北部方面隊では、1999年から2005年までの間に、第317~第320戦車中隊が廃止になりました。後年となる2014年3月26日には第1戦車群も廃止となります。こうして、北部方面隊直轄戦車部隊はすべて廃止になりました。

中部方面隊では、1999年に第13師団が旅団化改編され、これを受け、第13戦車大隊は第13戦車中隊へと縮小されました。

東部方面隊では、2001年に第12師団が空中機動旅団化改編されることになり、これを受け、第12戦車大隊は廃止となりました。これが、本州で戦車部隊が廃止された初のケースとなりました。

その一方で、第2混成団を改編し、2006年に第14旅団が新編され、これを受け、第14戦車中隊が新編されました。

防衛庁(当時)は、いよいよ新戦車開発を行います。これが後の10式戦車です。当初は74式戦車の後継と考えられていましたが、配備直前には、新システム及びネットワークを搭載した都市型戦闘戦車という一面が強く押し出されていました。

2002年に東京、神奈川、埼玉など首都圏の防衛警備を担当する第1師団(司令部:練馬駐屯地)を政経中枢師団しました。同師団隷下の第1戦車大隊は、市街地戦闘をメインとするため、この部隊に2012年より10式戦車が配備されました。これが初の実戦部隊への配備となりました。第1戦車大隊は、2000年頃まで、61式戦車と74式戦車を配備するハイローミックス部隊であったので、一気に最新化されたことになります。

21世紀に入ると、中国は、覇権主義的海洋進出を進め、その手は日本南西諸島部へもかかります。

そこで、2013年12月17日に閣議了承された「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」(25大綱)にて、新たに「統合機動防衛力」という防衛力の指針が示されます。

鹿児島県から沖縄県の与那国島に至るエリアは無数の島々で構成されています。中国の侵攻を阻止するためといっても、すべての島々に部隊を配置するのは現実的ではありません。

そこで、「統合機動防衛力」の目的は、陸海空自衛隊を統合運用し、必要とされる場所へ必要とされる部隊を迅速に展開させて領土を守ることにあります。

そこで機動力と打撃力を併せ持つ新たな装備である16式機動戦闘車が誕生しました。

新戦術たる「統合機動防衛力」を押し進め、16式機動戦闘車の配備を進めていく上で、本州の74式戦車は、戦車部隊ごと廃止されることが決まりました。もはや移動に時間のかかる戦車は時代遅れという考えになったからです。

九州には、第8戦車大隊と第4戦車大隊という2個戦車部隊がありましたが、2018年に併合され、西部方面戦車隊となりました。そして同部隊から74式戦車は引退し、10式戦車部隊となりました。

本州の戦車部隊は、16式機動戦闘車を主戦力とした即応機動連隊及び偵察戦闘大隊へと生まれ変わっていきました。

こうして、74式戦車の引退は、戦車部隊の大削減と合わせて行われていったのです。

前編はコチラ

  • 軍事フォトジャーナリスト.。1975年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。講談社フライデー編集部専属カメラマンを経て軍事フォトジャーナリストとなる。主として自衛隊をはじめとして各国軍を取材。また最近では危機管理をテーマに警察や海保、消防等の取材もこなす。夕刊フジ「最新国防ファイル」(産経新聞社)、EX大衆「自衛隊最前線レポート」(双葉社)等、新聞や雑誌に連載を持つなど数多くの記事を執筆。そのほか、「ビートたけしのTVタックル」「週刊安全保障」「国際政治ch」等、TV・ラジオ・ネット放送・イベントへの出演も行う。アニメ「東京マグニチュード8.0」「エヴァンゲリオン」等監修も行う。写真集「陸自男子」(コスミック出版)、著書「なぜ自衛隊だけが人を救えるのか」(潮書房光人新社)「試練と感動の遠洋航海」(かや書房) 「がんばれ女性自衛官」 (イカロス出版)、カレンダー「真・陸海空自衛隊」、他出版物も多数手がける。YouTubeにて「KIKU CHANNEL」を開設し、軍事情報を発信中
  • https://twitter.com/kimatype75

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