ホラー好きならではの想いが炸裂!?『悪魔がはらわたでいけにえで私』主演・詩歩さんインタビュー:特撮ばんざい!第38回


ホラー映画の名作にオマージュを捧げながらも、どこか人を喰ったかのようなタイトルで話題を集めている『悪魔がはらわたでいけにえで私』。鮮血と吐瀉物にまみれながらチェーンソーで悪魔たちを切り刻むスプラッターホラーかと思いきや、中盤から予想もつかない展開の連続で、物語はカテゴライズ不可能な前人未到の境地へと登り詰める。自ら「血糊まみれになりかった」と語り、刺激的で強烈な個性を放つ世界観を見事に体現した主演の詩歩さんにお話を伺った。

取材・文/今井あつし

<あらすじ>
ハルカ(詩歩)、ナナ(平井早紀)、タカノリ(板橋春樹)の3人は、突然連絡が途絶えたバンドメンバーのソウタ(遠藤隆太)の家に訪れる。ソウタの自宅は千葉県の郊外にあるだが、窓という窓がことごとく新聞紙で塞がれており、不穏な空気を醸し出していた。さらに3人の目の前に現れたソウタの様子も挙動不審でどこかおかしい。そんな中、ナナは納屋の壁に貼られていたお札を発見。不思議な力に導かれるように外してしまう……。

<映画公式HP>

●本作の元となる『往訪』は、ホラー好きならではの描写が目白押し

――本作は監督の宇賀那健さんが2021年に発表された『往訪』という短編のスプラッターホラー映画が元になっています。最初に詩歩さんが『往訪』に出演された経緯から教えていただけないでしょうか。

宇賀那さんとは7、8年前にワークショップで知り合って、宇賀那さんが監督を務めた映画『魔法少年☆ワイルドバージン』(19年)に出演するなど、以前から仲良くさせていただいていたんです。それで『往訪』という映画は、宇賀那さんや役者仲間と食事をする機会があって、「とにかく自分たちが面白いと思うものを全力でやりたい」と皆と話が盛り上がったのがキッカケですね。というのも、宇賀那さんは幼稚園児の頃、レンタルビデオ店で『それいけ!アンパンマン』と一緒にホラー好きのお母様がサム・ライミ監督の『死霊のはらわた』(81年)を借りて、その2本を続けざまに観てたという。宇賀那さんはそういう原体験を持った人なんですよ(笑)。それに私自身も当時はコロナ禍で「なんとかしなきゃダメだ」と思い悩んでいたこともあって、「思いっきりスプラッターホラーを作って弾けたいですよね」と監督の背中を押しました。

本作の元となった短編映画『往訪』で詩歩さんは血しぶきホラーを体現。なお『往訪』は『Visitors』というタイトルで海外でも展開。『悪魔がはらわたでいけにえで私』の英題が『Visitors -Complete edition-』なのもそのためである。

――『往訪』は主人公のハルカが悪魔に変貌した友人たちと死闘を繰り広げる内容で、徹底した血しぶき描写に圧倒されました。詩歩さんご自身もスプラッターホラーにご興味があったのでしょうか?

役者になってからホラー映画にハマって、ずっと観続けていました。ホラーってフィクションだからこその世界観じゃないですか。「いつか血糊まみれになりたかった」と思っていた私にとって、『往訪』はやっと夢を叶えてくれた作品です。食事会の時点で「チェーンソーで相手を切り刻みたい」「千枚通しで目を突き刺したい」といった願望を箇条書きにして、宇賀那さんにお渡しました(笑)。実際に『往訪』はやってみたかったシーンがズラリと用意されていて非常に楽しかったです。想像以上にチェーンソーが重かったり、血しぶきを浴びるので何回もテイクを重ねられなかったりと、常に緊張感が伴うハードな撮影でしたけど、不思議と疲労感はなかったです。アドレナリンなんですかね(笑)。特にチェーンソーで斬り落とした生首を蹴り飛ばすシーンは、「生首が地面に付くか付かないかの絶妙なタイミングで蹴ってほしい」と言われてお粗末な蹴りでしたけど、意外と可愛くて撮られていて、私自身お気に入りのカットです。

●ホラー愛が炸裂! トロマの総帥ロイド・カウフマンもカメオ出演

――それで本作『悪魔がはらわたでいけにえで私』では冒頭で改めて『往訪』を差し挟みつつ、その後のストーリーが描かれるわけですが。

『往訪』は海外の映画祭で公開されて、有り難いことに高く評価されました。宇賀那さんが新しく長編映画を撮ることになった際に、プロデューサーの方々に「『往訪』の続きをやりたい」と提案したそうなんです。それでなぜか私が演じたハルカは両腕がチェーンソーに改造されているという(笑)。もう宇賀那さんの趣味が全開ですね。『死霊のはらわたⅡ』(87年)で主人公アッシュの片腕がチェーンソーになるじゃないですか。「ならば、こちらは二刀流だ」と(笑)。

悪魔との戦いに年季が入ったハルカ。「劇中、ハルカの両腕が改造された経緯について特に説明はないですが、私自身はずっと戦い続けてきて、「もっと強くならなきゃいけない」と自分で改造を施したんだと解釈しました」(詩歩)

――ホラー映画の愛すべき要素がさらに詰め込まれた内容になっていますよね。『悪魔の毒々モンスター』などで知られるB級映画の老舗・トロマの設立者であるロイド・カウフマンさんがカメオ出演されているのも本作の特徴です。

私が一番好きなホラー映画は『トロメオ&ジュリエット』(96年)なんですよ。カウフマンさん指揮の下、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(14年)のジェームズ・ガン監督が『ロミオとジュリエット』を下敷きにして手掛けた作品で、台詞にシェイクスピアそのままの表現もありつつ、スプラッター描写のオンパレードという意表を突いた構成になっているんです。だけど、原典通りに結末で愛の結晶が描かれるという。人に勧められて観たところ、完全に心をぶち抜かれました。今回の映画でのカウフマンさんのシーンは宇賀那さんがニューヨークで撮ったものなので、撮影現場ではお会いしていないです。だけど、アメリカのファンタスティック映画祭にこの映画が出品することになって、カウフマンさんがお越しになられていたんですよ。私も現地でご挨拶させていただいて、ビールを奢ってもらいました。非常に紳士な方でしたね。

数々のホラー映画を手掛けてきたロイド・カウフマンが本作にカメオ出演。昨年のファンタスティック映画祭でリブート版『悪魔の毒々モンスター』がワールドプレミア上映されるなど、今もなお健在ぶりをアピール。監督の宇賀那健一はカウフマンのお気に入りだという。「向こうのパーティーでカウフマンさんが「日本の友達が来てるんだよ」と舞台上から宇賀那さんを紹介していて、本当に愛されているんだなと思いました」(詩歩)

●驚愕!? 悪魔へと変貌を遂げた主人公に託された想いとは?

本作の中盤で自身も悪魔と化してしまったハルカ。狩る者から狩られる者へ。ここから物語は狂気と常識が反転して、予想もつかない展開を迎える。

――本作の後半ではハルカが悪魔と化してしまうという予想の斜め上を行く展開を迎えます。初めて脚本に目を通された際はどのように受け取りましたか?

もう何と言っていいんですかね。悪魔になると人語を発せず、「ギャギャ」と喚き声しか口にしないんですけど、脚本でも台詞は「ギャギャ」と書いてあるだけなんですよ(笑)。辛うじてト書きはありますが、普通に読むと意味が分からない。だけど、脚本を読み進めていく内に泣いてしまったんです。宇賀那さんが脚本に込めた想いが伝わってきて、「この役は私でないとダメだ」と感じるぐらい、ハルカに自然と感情移入できました。読み終わってから宇賀那さんに「この映画は実は人間側ではなくて、悪魔側の物語ですよね」とLINEで感想をお送りしたところ、「そうだよ」と答えてくれて、私の解釈と宇賀那さんが作品に込めたメッセージが見事に一致して嬉しかったです。

脚本を読んで思わず涙を流したという詩歩さんは「悪魔となったハルカはただ「人間と友達になりたい」という気持ちなんですよ。この映画はゲームで言うと、勇者ではなくてスライムの物語なんだなって」と語る。

――一筋縄ではいかない展開で、宇賀那さんは独特の世界観を描かれたわけですが、詩歩さんから見て宇賀那さんは改めてどのような方でしょうか?

映画的な作家性を確立していて、自分が抱えている感情や思想を自然と作品に醸し出せる人だと思っています。今回の映画には不条理なものに対する怒りが込められている。社会って未だに自分とは違う存在を認めようとしない雰囲気があるじゃないですか。宇賀那さんは「会話する手段があるじゃないか」とコミュニケーションの大切さをこの映画で訴えたんだと思います。だから、ハルカは単に悪魔になったのではなくて、人間と悪魔の狭間に位置する存在だと思って演じました。現場では私が一度「たぶんこの時のハルカはこういう心境でしょう」と演じてみて、宇賀那さんが「もっと感情を出していいよ」とうまくチューニングしてくれました。宇賀那さんは元役者ということもあって役者のことを信じてくれる方です。

●特殊メイクでテンション爆上げ!? 喜怒哀楽が伝わってくるクリーチャー

――悪魔に変貌してからは終始特殊メイクを施しての出演となりますが、いかがだったでしょうか?

メイクさんたちの念頭に『エクソシスト』(73年)のリーガンのイメージがあったので、悪魔っぽさを出すためにゼラチンのようなもので額を盛り上げて、眉間の彫りを深くしています。完成するまでに1時間ぐらい掛かりましたね。基本的に特殊メイクに関して私はされるがままだったんですけど、宇賀那さんのこだわりで私だけツノを生やすことになって、和のテイストも加えられて鬼になっちゃった(笑)。自分でも「カッコ良いな」と印象に残っています。やっぱりホラー好きとして特殊メイクもやってみたかったことのひとつですから。

――特殊メイクなのに感情豊かで、観ていてハルカの喜怒哀楽が素直に伝わってきました。

特殊メイクをすると恥ずかしさがなくなって、完全に役に入り込んじゃうんですよね。悪魔になってからは終始テンションが高い。それまで感情を抑えた芝居を意識していたので、ギャップを出すことができて良かった。ただ終盤でハルカが哀しみに暮れるシーンは、「特殊メイクの上からでも哀しい表情は伝わるのかな?」と正直不安ではあったんです。だけど、完成した映像ではちゃんと哀しい顔になっている。宇賀那さんと撮影の小美野昌史さんの手腕のおかげです。実際に試写を鑑賞してくれた方からも「ホロッときた」「胸を打たれた」といった感想をいただいて手応えを感じましたね。

悪魔は両目が白く濁っているという設定。専用のカラーコンタクトを使用しているのだが、詩歩さんは両腕がチェーンソーになっている役どころなので、メイクさんに装着してもらったという。「しかもアップカット用のコンタクトは本当に真っ白で何も見えないんですよ。撮影に入る前にスタッフさんに立ち位置まで連れてもらって、手探りの状態で芝居をしました」(詩歩)

――本作のVFXを担当されている若松みゆきさんは『ベイビーわるきゅーれ』(21年)などの話題作に参加されている方ですが、現場などでやり取りはされたのでしょうか?

生首からニョキニョキと生えてくる足や斬り落とされた片腕がピクピクと動いているところはグリーンバックを使って撮影されていましたが、私個人とは特にやり取りすることはなかったですね。ただ私の両腕がチェーンソーになってから戦ったり踊ったりするシーンで、どうしてもチェーンソーを持っている手が見えてしまっているところがあって、それを若松さんが1コマずつ消してくれたんですよ。すごい労力だったと思います。もう本当に若松さんを労う会を開きたいぐらい感謝しています。

悪魔へと変わり果てたハルカの友人・タカノリ(板橋春樹)。なぜか口から大量のゴキブリが湧き出てくる。「口から出てきたゴキブリは食用の本物ですが、物語後半で倒れたタカノリから無数のゴキブリがウジャジャと這い出てくるシーンは、すべてVFX担当の若松さんが1匹ずつCGで作ったものです」(詩歩)

●ホラー好きの魂が込められたタイトル題字

タイトルの題字は詩歩さん自らが担当したという。50回ほど練習を重ねて、直筆で書き上げた渾身の作。

――詩歩さんは習字が得意ということで、本作のタイトルの題字も手掛けられたとのことですが、本当に達筆でビックリしました。

ありがとうございます。直筆なんですよ。『悪魔のいけにえ』(74年)や『死霊のはらわた』のポスターを見ると、筆で書かれたようなフォントが使われているじゃないですが。今回のタイトルを聞いた際に、「私がタイトルを書きたいです」と申し出ました。私のこだわりとして『悪魔のいけにえ』の「悪」は旧字体だったので、この映画では新字体にしています。さらに「悪魔」と「私」は少し崩した楷書体なのに対して、平仮名の部分は臓物っぽいフォントにして、「悪魔」と「私」がはらわたで繋がっているイメージに仕上げました。自然と墨が垂れてくるように壁に半紙を貼り付けて立ちながら書き上げましたね。

――まさにホラー好きの魂が込められた題字ですね。最後にこれから本作をご覧になられるファンの方にメッセージをお願いします。

ホラー好きな方はもちろんのこと、ホラーが苦手な方は冒頭の15分を我慢していただければ、従来のホラーとは全く異なる面白さに出会えるはずです。意味が分からないシーンでも、宇賀那さんの想いの強さが伝わってきて自分の中で不思議と腑に落ちてくると思います。ご覧になられた方がいろんな解釈で肉付けしていって、一緒にこの映画を育ててもらえたら嬉しいです。

詩歩(しほ)
1994年5月10日 千葉県出身。大学卒業後はOLとして働いていたが、一念発起で役者を志す。主な出演作に映画『21世紀の女の子』(18年)、『#平成最後映画』(19年)、『魔法少年★ワイルドバージン』(19年)、『親密な他人』(22年)、『沈黙のパレード』(22年)、『啄む嘴』(22年)などがある。宇賀那健一監督の『悪魔がはらわたでいけにえで私』で長編映画初主演を果たした。公開待機作に、映画『みーんな、宇宙人。』が控えている。趣味は日本酒、特技はジャズダンス、エレクトーン、習字。

今井あつし(いまい・あつし)
編集・ライター。エッセイ漫画家まんきつ先生、かどなしまる先生のトークイベント司会、批評家・切通理作のYouTubeチャンネル『切通理作のやはり言うしかない』撮影・編集・聴き手を務める。

【公開情報】映画『悪魔がはらわたでいけにえで私』は、ヒューマントラスト渋谷、池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿ほか、2月23日全国公開!

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