『仮面ライダー響鬼』『仮面ライダー電王』などで特撮ファンにお馴染みの俳優、中村優一さんが初プロデュースにして初監督も務めた映画『YOKOHAMA』が4月19日から公開される。中村さんの生まれ故郷である横浜を舞台にした、3つの物語からなるオムニバス作品で、どのストーリーも狂気と不条理に満ちたサスペンスフルなドラマとなっている。その予測不能の展開からスリリングな映像体験になること必至! 今回、中村さんご本人に本作に賭ける意気込みをお聴きした。さらに特撮に対する熱い想いも語っていただいた!
取材・文/今井あつし
あらすじ
第1話「贋作」:妻に逃げられたノボル(賀集利樹)の前に、彼氏に浮気されたというサエコ(鶴嶋乃愛)が現れる。二人はいつしか奇妙な共同生活を送る。
第2話「横濱の仮族」:謎の爆破によって家族を失った富豪・横濱権蔵(高山孟久)が、家族と容姿が似ている人間を拉致し、自分を殺すように依頼する。
第3話「死仮面」:特殊造型家の田所(小嶋修二)が謎の自殺を遂げる。映画プロデューサーの益田(渋江譲二)は不審を抱き、田所が以前所属していた造型工房の経営者の米村(秋沢健太朗)に疑いの目を向けるが……。
●好みは後味の悪い物語!? 「狂想」をテーマにドラマ性の高さを目指した
――中村優一さんは『YOKOHAMA』で監督のみならず、企画・プロデューサーとして携われています。本作に参加された経緯から教えてください。
以前から役者活動を通して、「ゼロから作品を作ってみたい」という気持ちが強くあったんです。2020年のコロナ禍で非常事態になった際、「自分たちで出来ることをしよう」と自主映画に参加していたんですけど、やはり商業映画でより多くの人に作品を観てもらいたい。映像企画会社の玉井雄大さんに相談させていただいて、本作のプロジェクトを立ち上げることになりました。それで日頃お世話になっている方、気心知れた仲間たちに声を掛けていきましたね。
――本作は3つのストーリーからなるオムニバス映画で、タイトルが示す通り、いずれも横浜が舞台となっています。横浜を選ばれた理由を教えてください。
横浜は僕が生まれ育った土地なので、「いつか恩返ししたい」という思いがありました。ただ横浜を題材にした作品はごまんとあって、今さら僕が横浜の魅力を強く推し出したところで新味に欠けるだろうと。
それに僕はどちらかというと後味が悪い映画が好みなんです。だから「狂想」というワードをテーマに、人間の不条理や闇の部分を描いたサスペンスドラマにしたい。他のご当地映画との差別化もあって、横浜の様々な場所でロケをしつつ、ストーリーを練り上げて内容で魅せていく作品にしたほうが良いと判断しました。
●頼りなげな男の心情を描きつつ、不穏さを醸し出す第1話「贋作」
――第1話「贋作」で主演の賀集利樹さんは妻に逃げられた主人公のノボルを演じられています。そこに彼氏に裏切られたサエコ(鶴嶋乃愛)という不思議な少女が転がり込んでくるという、傷を抱えた者同士の静かなやりとりが特長です。
賀集さんと監督の金子智明さんとはYouTubeで『全力お悩み相談!』という動画を一緒にやっていたんですけど、やっぱり自分たちで本格的なドラマを作りたかったんです。賀集さんは『仮面ライダーアギト』や『はぐれ刑事純情派』などで爽やかなイメージが強いので、妻を追いかけることもできない頼りなげな男性という、今までとは真逆の役柄を演じてもらいました。
特に妻に別れを告げられて涙を流して泣くシーンでは、金子智明監督がかなり熱を込めて、「どのように見せていこうか」と何度も賀集さんとディスカッションしていたのが印象的でしたね。
――賀集さんが泣きながら想いを吐露する場面は観ていて引き込まれました。
金子監督の粘りもあって、賀集さんが感情を抑えきれない様子が自然と映し出されたと思います。さらに赤レンガ倉庫前で妻と浮気相手を目撃するシーンでの撮影で、僕は「これは金子監督でないと撮れない」と衝撃を受けました。
普通のドラマでは主人公と妻と浮気相手をそれぞれカット割りして見せていくところを、金子監督は一つのカットで三人を同時にカメラに捉えて演出した。それを大胆にも赤レンガ倉庫前で撮る。意外性のある構図だからこそ、ハッピーエンドで終わらない展開に強い説得力を与えている。僕もサエコの彼氏役で出演して、ラストで不穏さを醸し出しています。
●驚異の1カット長回し撮影!? エッジの効いた第2話「横濱の仮族」
――第2話「横濱の仮族」は全編1カット長回しという驚異の撮影方法で、横浜の豪邸に暮らす不思議な疑似家族を描いた作品です。中村さんは狂言回しのような執事役で出演されていますが。
第2話は映像作品ではあるけれども、最初から最後までカメラを止めることなく演技し続けなければならないので、舞台のような緊張のある現場でしたね。監督のヨリコ ジュンさんは舞台演出もされていて、出演者も全員ヨリコさんの舞台経験者で、互いに信頼関係が築かれているからこそ成立した撮影でした。
豪邸の中をカメラが目まぐるしく動き回り、僕たちもシーンごとに立ち位置が絶えず変化するので、準備にかなりの時間を費やしました。僕はどちらかというと、出演者よりもプロデューサーの立場から、「期限通りに撮り終えることが出来るのか?」とドキドキのほうが大きかったですね。
――実際に撮り終えて、手応えはいかがだったでしょうか?
自分でも意外なほど達成感がありました。「もっとクオリティを高く出来るのでは」とセッティングし直して、2テイク目を撮ったのですが、最初のほうが良い緊張感と新鮮さがあって、結局1テイク目のほうを使っています。
いずれにしても、企画の段階からヨリコさんには「エッジの効いた映像を作ってくれる」と絶大な信頼がありましたね。実際にヨリコさん自身がカメラを回されて、劇中のCGも自ら手掛けられました。本当に才能に溢れた方で、他の映画とは一味違うものになったと思います。
●初監督作品はダークなミステリー。巧みなカットと演出で緊張感溢れる心理戦
――中村さんの初監督作品である第3話「死仮面」は、ミステリー仕立てのダークな世界観です。映像作品の舞台裏を描きつつ、特殊造形アーティストの米村を演じた主演の秋沢健太朗さんの狂気じみた演技に圧倒されました。
秋沢くんとは10年ほど前に舞台と映像が連動した作品で共演したのをキッカケに、年が1つ違いということもあって親しくさせていただいていました。彼は「それまでの爽やかなイメージを覆すような癖のある役がやりたい」と言っていて、僕も「ダークな作品を作りたい」と思っていたので、図らずも想いが一致した。初監督作品に挑戦するにあたって、最初から彼を主演に据えようと決めていましたね。
――米村が殺人を犯し、それに感づいたプロデューサーの益田(渋江譲二)が追及していく。全編ヒリヒリするような感覚に満ちていて、音楽の使い方なども巧みでした。
映像作品は目だけではなくて、耳でも緊張感を味わうことができるじゃないですか。撮影監督の橋ヶ谷典生さんと二人で相談しながら、かなりこだわって音やBGMの編集作業を進めていきました。
米村と益田のやりとりは何気ない会話の中で心理戦が行われる場面で、僕も脚本段階から様々なアイデアを出しましたね。それぐらい二人のやりとりは一番の見せ場となるシーンなんです。益田が核心に迫ろうとすると、米村は内心ヒヤヒヤしながらも涼しい顔で話を逸らす。その緊張感を大切にしながらカットを繋いで演出を手掛けました。
●特殊メイクを巡るストーリーで、アナログの大切さを問いかける
――心理の盲点を突いた展開など、ミステリーとして完成度の高さを感じました。
脚本の作道雄さんは監督も務められている方で、一緒にケーブルテレビ局CACで『知多から巡る 優イチオシ』というレギュラー番組をやっているんですけど、本来は僕と同じように『古畑任三郎』や『金田一少年の事件簿』などのミステリーが好きで、いつかはそういったドラマを作りたいと言っていたんですよ。
出来上がった脚本を読むと、ミステリーながらキチンと人間ドラマも描かれていて、作品に厚みを感じました。しかも台詞だけではなくて、シーンによっては映像で見せなればならないようになっている。作道さんが0から1に組み立てた世界観に、僕が監督としてどこまで広がりと奥行きを持たせて、説得力のある映像を作ることができるのか。そういった意味では作道さんが上手く導いてくれたとも言えますね。
――特殊造型を巡るストーリーで、特殊メイクがキーポイントになります。劇中、「CGでも何でも出来ちゃうから、手を動かすことは必要とされないだろう」という台詞が印象的でした。
秋沢くんが所属しているアトリエレオパードキャスティングはメイク事務所で、社長さんも特殊メイクをやられる方なんですよ。だから特殊メイクを題材にして、物作りに携わる職人と、その葛藤を描ければと思いました。
近い将来、さらにAIは発達を遂げて、言葉を発するだけで理想の映像が作られるのかもしれない。それは素晴らしいことなのかもしれないけど、やっぱりアナログならではの魅力もあるはずです。その大切さに気付いてほしいというテーマでもありますね。
●特撮に卒業なし! いつか『仮面ライダー』を監督したい!?
――中村さんは数多くの特撮作品に出演されています。改めて特撮に対してどのような想いを抱いているのか教えてください。
僕は18歳の時に『仮面ライダー響鬼』に出演して、そのまま現役として今も特撮作品に携わり続けている。次の『仮面ライダーアウトサイダーズ ep.5』にも出演するので、仮面ライダーシリーズだけでスピンオフやパラレルワールドものを含めて、かなりのライダーに変身しています。
『ウルトラマントリガー エピソードZ』で僕が変身したイーヴィルトリガーは悪役でしたけど、ウルトラマンシリーズにも出演させていただいて、これは役者として貴重なことであり、本当に有り難いことです。もう特撮から卒業するなんて考えられない。
本作を撮り終えてから『ライダー』の現場に行くと、「こういう風にカット割りしてるんだ」と、今までとは異なる視点で撮影を見るようになったんですよね。不遜かもしれませんが、いつか僕も『ライダー』の監督をやってみたいという気持ちが沸き上がってきて……。僕が撮った『ライダー』観てみたいですか?
――是非観たいです! 本当に初監督とは思えないぐらいのクオリティでしたから。最後にこれから本作を鑑賞するファンの方にメッセージをお願いいたします。
今回の『YOKOHAMA』は、現時点で自分自身が出来ることを全力でやりきった作品です。さらに賀集さんや渋江譲二さんなど、『ライダー』出身の役者さんが多く出演しているのも本作の特色です。鶴嶋乃愛さんも『仮面ライダーゼロワン』のヒロインを演じられていましたよね。サスペンス溢れる世界観は特撮ファンの方の好みにも合うかと思われます。
有り難いことに、イオンシネマなどを含めて全国で31館もの映画館で上映する運びになりました。また東映のプロデューサーの方がご覧になられて、『ライダー』の監督に僕を起用するよう検討してくれたら嬉しいです(笑)。どうか劇場でご鑑賞くださいませ!
中村優一(なかむら・ゆういち)
俳優。1987年10月8日生まれ。2005年に『仮面ライダー響鬼』に桐矢京介役で出演。『仮面ライダー電王』(07年)に桜井侑斗役を演じる。特撮作品には他に『ウルトラマントリガー エピソードZ』(22年)、『スーパー戦闘 純烈ジャー 追い焚き☆御免』(22年)、『妖獣奇譚 ニンジャVSシャーク』(23年)などに出演。2024年5月12日から配信される『仮面ライダーアウトサイダーズ』「ep.5 創世の女神と第三のシンギュラリティ」に出演。
今井あつし(いまい・あつし)
編集・ライター。エッセイ漫画家まんきつ先生、かどなしまる先生のトークイベント司会、批評家・切通理作のYouTubeチャンネル『切通理作のやはり言うしかない』撮影・編集・聴き手を務める。
【公開情報】
映画『YOKOHAMA』は、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿、UPLINK吉祥寺ほか、4月19日全国公開!