
(Paolo Barone)
地形、地質、気象等の面で、極めて厳しい条件下にあるといわれる日本では、地震を始め、洪水などの水害、台風、土砂災害などの災害が頻発に起こり、今後もあらゆる災害が起こる危険がある。
それは、ヨーロッパ地域においてもいえることで、日本と比べると少ないが、近年の地球温暖化に伴う気候変動や火山の噴火、地震、津波など、自然災害リスクの高まりやそれへの対応は、喫緊の課題になっている。
特に火山大国であるイタリアには、ベスビオ火山、フレグレイ平野、ストロンボリ島、ブルカーノ島、エトナ火山など多くの火山が存在し、噴火の危険性をはらんでいる。
こうした自然災害に立ち向かうためには、防災における正しい知識や情報を、日頃から身につけ、いざという時に備えることが大切である。
そうした中、欧州最大の活火山 エトナ山を抱く国イタリアでは、火山活動における防災を中心に、非常事態の予測、防止、および管理などを担当する「国家市民保護局」が防災活動を強化している。
7月にはイタリア大使館にて、市民保護・海洋政策担当大臣を務めるネッロ・ムズメッシ上院議員が来日し、イタリア国立地球物理学火山学研究所(Istituto Nazionale Geofisica e Vulcanologia, 略称: INGV)の活動を中心に、各国の防災政策の比較と、ベストプラクティスの共有がなされた。

今後の防災活動のあり方とはどんなものだろうか? その様子をお伝えしよう。
そもそもイタリアでは、1992年より国家機関である、国家市民保護局が非常事態の予測や防止、管理などを担当している。「Protezione Civile(市民保護)」という用語は、日本語の「防災」に相当し自然災害という被害などから生命、財産、居住地、環境を守るために、州が行使する全ての施設や活動の概要を示している。

その国家市民保護局と協力して、火山活動など自然災害の監視観測や研究を行うのが、イタリア国立地球物理学火山学研究所(INGV)だ。火山活動や地震活動、地中海沿岸で発生する津波などといった、地球物理現象の観測、早期警戒と予測活動に力を入れている。

Simone Antonazzo / ENIT SpA
発表会には、INGV所⾧を務める、ファビオ・フロリンド氏がオンラインで参加し、カルデラ火山の活動に関する研究が紹介された。
火山活動の分析は、火山性地震の解析や火山性噴火の確率評価、溶岩流シミュレーションなどを含み、火山観測所の計測データをもとに、初期から緊急まで、火山活動のレベルが4段階で評価される。
具体的には、モニタリング上で地震の発生を検知した後、警告が発生された場合、支局を経由して、市町村レベルまで通知され、WEBやソSNSを通して、一般にも広く伝達される仕組みだ。
エトナ火山の熱観測は先進的で、AIを使用し、いくつものバロメーターにより総合的に判断される。

さらにINGVは、地中海沿岸における津波のモニタリングネットワーク網も構築しており、ジブラルタル海峡の西100kmからマルマラ海まで、20か国の海岸を含む地中海沿岸全域における、津波の監視も行っている。

Simone Antonazzo / ENIT SpA
発表会では、フィレンツェ大学学⾧ イタリア大学学⾧会議(CRUI)執行委員会メンバーのアレッサンドラ・ペトルッチ氏もビデオレターで参加し、INGVとの協力関係や、最新の防災活動を報告した。

さらにINGVと、防災科学技術研究所(以下NIED)の協力については、NIED火山防災研究部門 部門⾧を務める藤田 英輔氏が登壇し、これまでの日伊の研究協力事例や、フグレイ平野のカルデラ火山と硫黄島の火山研究の比較、今後のカルデラ火山の活動に関する発表など、知見交換が行われた。

日本には活火山が111存在するといわれており、現在50の火山が常時観測火山とされている。常時観測火山は、気象庁が24時間体制で常時観測・監視をしているという。
こうした背景をふまえ、山梨県富士山科学研究所 富士山火山防災研究センター 主任研究員 本多亮氏は、近年の防災活動の状況に加え、山梨県火山灰走行体験など訓練の様子を発表した。

「市民の命を災害から守ることは、重要な責務です。国家間レベルで、日伊における防災のアプローチを再考し、協力していく必要があります。各国のリスクへの対応能力を発展させ、プラットフォームを構築することが、今後災害リスクの軽減につながります。こうした相互支援の姿勢が大切なのです」述べるのは、ジャンルイジ・ベネデッティ駐日イタリア共和国大使。

「欧州の中でもイタリアは、自然がもたらす脅威を受けやすい国です。そのため、市民保護を目的とした緊急対策に課題をもって臨んでいます。近年は教育にも力を入れており、学校で災害のリスクを伝える授業も盛んです。常に “ゼロリスクは存在しない” ということを、心に留めておかなければならないのです」と語るのは、市民保護・海洋政策担当大臣を務めるネッロ・ムズメッシ上院議員。
防災システムの構築、情報インフラの構築が重要なのはもちろんだが、実際に災害が起こってしまった場合には、避難所での支援も重要だ。
2011年に、東日本大震災において、陸前高田市支援に参加した、イタリア人のボランティア クリスティーナ・モリーニ氏は、震災直後から現地へボランティアとして入り、イタリア人被災者をサポートした。

東日本大震災の復興活動「Italians For Tohoku(東北のためのイタリア人)」を設立し、避難所で約2万人分のイタリア食を提供するなど、被災地の人々を全面的に支援するものだった。
「草の根的な協力により、イタリアならではの安らぎを届けることができたと思います」と話す、クリスティーナ・モリーニ氏。

自然災害の危険が迫る欧州では、ARISTOTLE-ENHSP「欧州自然災害科学パートナーシップ」が提携されており、世界規模で24時間365日の運用ベースで、独自のマルチハザード アドバイス サービスを提供することにより、緊急対応調整センター(ERCC)と、その状況認識セクター(SAS)の監視および分析機能を、継続的に実施することで防災力を強化している。
そこでは、早期警報・情報システムを提供するとともに、イノベーションと研究活動にも重点をおいている。
こうした国や地域、連携を包括した欧州型のパートナシップを始め、イタリアの国家市民保護局のような公的機関と民間機関、中央機関と地方機関からなる統合システムの構築は、災害時のより迅速な対応を意味する。
本来の災害対策をスムーズに行うことができるようになれば、現場での支援活動にも、時間を割くことができるようになるだろう。
現在日本でも、防災デジタルプラットフォームの構築が進められており、AIなどの最新技術を駆使した、民間レベルの取り組みも活発になってきている。防災関係機関が横断的に協力して防災基盤を作りあげていくことが、今後より重要になるだろう。