
2025年1月24日から全国劇場にて上映中の映画『サイボーグ一心太助』は、バカ映画の巨匠として日本のみならず世界でも注目されている河崎実監督がまたまた放つ、特撮ヒーローコメディ映画です。『超伝合体ゴッドヒコザ』(2022年)『突撃!隣のUFO』(2023年)に続いて、愛知県幸田町の全面協力を得て作られた“町おこし”映画の三作目である本作は、当地にゆかりの深い江戸時代の武将「大久保彦左衛門」に仕えた「一心太助」の舞台を現代に置き換え、なんと最新科学技術によって一心太助がサイボーグとなって大活躍するという、大胆な発想のSFストーリーが展開しました。
古くから歌舞伎、映画、テレビドラマなどで多くの人々から親しまれた時代劇のヒーローが、何かと息苦しい現代日本でどのような動きをするのか、まさに常識を突き破る痛快な暴れっぷりが期待されているようです。ここでは40年以上にわたって「明るく楽しい娯楽映画」にこだわり続けてきた河崎監督と、本作のヒーロー「サイボーグ1ハート」などのキャラクターデザインを手がけた漫画家・加藤礼次朗さん、そして一心太助(演:小松準弥)をサイボーグに改造した科学者・大久保博士を演じる俳優・堀内正美さんの3人がいかにして、さまざまな娯楽要素が詰め込まれた本作『サイボーグ一心太助』を作り上げたのか、その秘密と作品の見どころを熱く、熱~く語りあっていただきました!

写真/熊谷義久 文/秋田英夫
実相寺昭雄監督がつないだ縁

河崎 堀内さんと初めてお会いしたのは、俺の師匠にあたる実相寺昭雄監督の手伝いをしようと、(加藤)礼次朗と一緒に『ウルトラマンダイナ』(1997年)の現場に行ったときなんだよね。
加藤 第38話「怪獣戯曲」。怪獣ブンダーが来る~ッ! って、堀内さんが叫びまくる舞台俳優の役で出ていて、俺と河崎監督はその背後にいる劇団員の役でエキストラ出演していました。
堀内 そうだったね……。
加藤 そのとき、堀内さんとご挨拶して、これどうぞって単行本を差し上げたんです。
堀内 「男根童子(ぼっこ)」ってタイトルだったね。
加藤 堀内さん、ちゃんと帰りの電車の中で読んでくださったんですよね。エロ漫画ですけど! 初対面で堀内正美にエロ漫画を渡した人間は、他に誰もいないんじゃないですか。
河崎 初めて会ったときの、俺たちの印象はどうでしたか?
堀内 印象ねえ……。ひとりは監督だっていうし、もうひとりは漫画家……。なんか、とんでもない人たちだなあって思ったね。
河崎 監督や漫画家に見えなかったんですかね(笑)。

加藤 その後、実相寺監督が映画『姑獲鳥の夏』(2005年)を撮るっていう話があって、それに堀内さんも出ていらっしゃった。人づてで「堀内さんが俺のことを覚えていてくれてた」と知り、さっそく電話をしたんです。そこで「僕たち、実相寺監督を囲んで飲んだり食ったりする『実相寺会』って集まりをやってるんですけど、一度いかがですか?」とお誘いしたんです。
堀内 誘いを受けたとき「その集まり、役者は来るの?」って聞いたよね。
加藤 そうでしたね。「いえ、集まるのはフィギュア関係者とか、雑誌編集者とかで、役者は堀内さんだけ」って答えたら、「じゃあ行く」って(笑)。
堀内 俺、俳優同士のプライベートな付き合いをしないんだよ。
河崎 あの会は、俺も行ったんだ。
堀内 そのときまで、実相寺さんとプライベートで一緒にご飯を食べるとか、全然しなかった。あれがきっかけでよくみんなと集まるようになりました。
加藤 飲みの席で、俺が堀内さんから聞いたお話でよく覚えているのは「実相寺さんがなぜ俺を使ってくれるのか、その理由がわかったよ。監督にとっての俺は、フィギュアと同じなんだ」ってこと。
堀内 たとえば、石橋蓮司、清水綋治、岸田森、そして今回は堀内だ……って、カメラの前に俺たち役者を好きなように置いて、自分で遊ぶために呼ばれたんだなって。
加藤 自分の好きな構図の中に、好きなフィギュアを置いて、こう撮ろうかな、ああ撮ろうかなっていろいろ考える……それが実相寺監督だったってことですね(笑)。
堀内 役者が何かを考え、好きに動くんじゃなくて、フィギュアのごとく監督の言うとおりに動いていればいいんだって、思ったんだよね。礼次朗は「実相寺監督は、お気に入りのフィギュアじゃないと並べないですよ」って言ってくれたんだ(笑)。
河崎 なんたって、顔がよくないといけませんからね(笑)。
堀内 実相寺さんはよく「俺はコレクターだからね」って言っていたなあ。
河崎 他人には何の価値もないようなつまらないものでも、本人が「いい」と思えばそれが収集に値するお宝になる。自分の好きなモノをひたすら集めて、きれいに整理し、それを眺める。男なら……というか人間なら、誰もが抱く夢ですよね。
堀内 とにかく何かを集め、記録しているのが好きだったな~。切った自分の爪だとか、耳垢だとか、瓶に入れてるときもあった。正直、実相寺さん何やってんだろうって思ってた(笑)。
河崎 実相寺監督は、常人の理解を越えたマニアでしたね。
堀内 あるとき2人で電車に乗ってて、こっちがしゃべりかけようとしても「今話しかけるな」というオーラを出しながら窓の外をじっと見ていた。そして駅に着くと、小さな手帳を出して懸命に何か書いてるんですよ。電信柱の数を数えていたのかなあ。乱数表のような数字を細かく書いていて「何ですかそれ?」って訊いても「まあまあ」なんて、教えてくれなかった。
「電エース出演……そして『サイボーグ一心太助』へ」


河崎 堀内さんが俺の作品に出演してくれたのは、『電エース ザ・ファイナル~気楽に生きよう~』(2007年)でした。『電エース』とは俺が「電一」、礼次朗が弟の「電次郎」役で出ているシリーズ。このときは『ザ・ファイナル』ということで、『ウルトラマン』(1966年)最終回(第39話)のパロディをやろうと思い、命を失った電一を蘇生してくれる「電兄弟の長男」=「電零」役のオファーをしたんです。
加藤 実相寺監督が惜しくも2006年に亡くなって、その後堀内さんと会ったとき「実相寺さんがいなくなって、もう俺を使ってくれる監督なんて、誰もいないよ……」と、寂しそうに話されていたんです。その言葉を聞いて、以前に堀内さんが「お前と河崎監督はいいよなあ。バカみたいに屈託なく笑っててさ。俺はほら、イケメンだから顔を崩せないんだ。お前たちみたいにワハハハーって笑えるような作品なら、俺も出たいよ。でもイケメンだからオファーがこないんだよな」なんて、自慢なのか何なのかわからないことを言ってたのを思い出したんです。そこで俺から河崎監督に「堀内さんはコメディに興味あるそうです。声を掛けるなら今ですよ!」ってけしかけた(笑)。
河崎 それで早速、神戸のお宅へ『電エース』のDVDをお送りして、観てもらったんです。
堀内 それまで『電エース』を観たことがなかったからね……。「こういう内容です」という説明と共に送られてきたDVDを自宅で観ていたら……とてもしょうもなくてさ(笑)。うちの奥さんが僕の後ろを通りすぎながら「何これ」って聞くから「河崎くんっていう監督の……」と説明をしかけた途中で「まさか、これに出るつもりじゃないでしょうね」って冷やかに言われたなあ(笑)。
一同 (爆笑)
河崎 実にいいシーンだよね。監督として、堀内さんがDVDを観ていて奥さんに声をかけられる、その様子をカット割りして、映像化してみたいですよ(笑)。「ああ、出るよ……」って堀内さんが冷静に答えるんでしょうね(笑)。

「堀内さん、逆です!逆!」二枚目はボケもさらりとスマートだ。
堀内 『サイボーグ一心太助』で久しぶりに河崎作品に出たね。いつ以来だったかな。
河崎 『三大怪獣グルメ』(2020年)ですね。その後も映画を撮ったけど、なかなか堀内さんに合う役がなくて。堀内さんほどの役者だと、それなりの役にしないとダメでしょう。無理やり出すってわけにもいきませんし。
堀内 その点、今回はもう「僕しかいないでしょ!」って感じの役だったよ(笑)。
加藤 大久保博士は一心太助の親代わりで、彼の勤める「超伝工業」の専務、そしてサイボーグ研究を行うマッドな科学者って設定ですから、まさに堀内さんにピッタリ。
河崎 大久保博士は『8マン』(1963年)でエイトマンを作り上げた谷博士をイメージしました。谷博士はヒーローを生み出した「正義側」の人ではあるけど、たたずまいからとてもマッドな雰囲気があるじゃないですか。


堀内 『8マン』といえばさ、俺は小学生のころ、エイトマンってニックネームで呼ばれていたよ。顔が似てたんだ。
加藤 確かに、若いころの堀内さんは東探偵~エイトマンのイメージ。
堀内 今回の役は、入る前にけっこう悩んだんだよ。わりと社会性があるじゃない。今までの河崎監督作品に社会性なんてみじんも感じさせなかったのに。
河崎 そんなことないですよ(笑)。今回は「人間とAI技術の共存」がテーマ。今はAIが発達してきて、文章やイラストとかもぜんぶ自動でやってくれるようになった。はるか昔、産業革命が起きて旧時代の労働者の仕事が奪われ、クビになるみたいな騒ぎがあったけど、現代も似たようなことを繰り返しているわけですよね。
堀内 そうそう。
河崎 人間の仕事を奪うモンスター(AI)に対して、人はどう立ち回ればいいのか……。やっていることはコメディであり、徹底的なエンタテインメントですけど、そのベースとなる部分に社会性を入れてみたんです。最終的に大切なのは、人の心の有無だっていう。
堀内 いいテーマだよね。
河崎 一心太助がサイボーグ「1(ワン)ハート」になる。エイトマンは胸に「8」の文字があるけれど、こっちは「1」をつけました。
堀内 一心太助と聞くと、僕の世代だと中村錦之助(萬屋錦之介)の映画『一心太助 天下の一大事』(1958年)のイメージがあったね。
加藤 一心太助のトレードマークといえば腕の「刺青」。サイボーグ1ハートのデザインを描くとき、刺青の意匠をどこかに入れようと思い、両肩のブルーのラインとしてあしらいました。デザイン画の段階ではもっと刺青っぽい感じだったんですけど、造形の段階でイメージが少し変わってしまいましたね。
河崎 平面のデザインから立体に造形する時点で、どうしても変わってしまうんだよね。サイボーグ1ハートで特にこだわったのは、顔です。エイトマンにも『ジャンボーグA』(1973年)にも寄せたくなかった。
加藤 顔のところは、一心太助を演じる小松(純弥)さんに寄せたイメージになりましたね。
河崎 堀内さん、今回はすごく出番が多かったですよね。いまNHKの朝ドラ『おむすび』にも出ているけれど、あまり出番もセリフも少なくて、もったいないなって思っていました(笑)。大会社の専務が、実はマッドな科学者だったって設定、そこにこだわりました。

加藤 ハードな動きのシーンもありましたね。
河崎 芝居もセリフも多くて、大変だったかもしれません。サイボーグの状態から元の助けに戻る方法として、一定のいなせなアクションをする見本を大久保博士が示すところ、堀内さんの動きがあまりにも激しすぎて、あそこまでやるとは……と驚きました。
堀内 だって、あそこは激しくやってくれってニュアンスで言ってきたじゃないの(笑)。
河崎 1ハートのスーツアクターをやっている谷口(洋行)がガチで激しい動きでしたし、それにつられたかもしれません。
堀内 そりゃあ1ハートのあの動きを観たら、僕だってしっかりやらないとダメだと思いますよ。でも、あのあとホテルに帰ったら、鼻血が止まらなくなって大変だったな(笑)。
河崎 映画の撮影現場って、タイトなスケジュールの中でいつ、何があるかわからないわけですよ。何かあったときでも、それをどうにかして撮影を終えなければいけない。そういった苦労は毎回ありますね。
「幸田町のみなさんに感謝」

堀内 今回は愛知県幸田町の方々が全面的に協力してくださったんだよね。
河崎 そうです。『超伝合体ゴッドヒコザ』『突撃!隣のUFO』に続いて、幸田町の町おこし映画という側面の強い作品です。
堀内 毎日出るお弁当も美味しかった。とにかく町の人たちの熱意がすごいなあって印象でしたね。何本も河崎監督の映画をやって慣れてるってのもあるんだろうけど。
加藤 町の人たち、誰でも気さくに声かけてくれるんですよね。堀内さんもおばさんから声かけられたんじゃないですか。
堀内 君ね、なんでおばさんって言うの? どうして若い子が……とか思わないの? まあ、僕と同じくらいの齢のおばさんから「昔のドラマ観てました」なんて言ってもらったけどね(笑)。
河崎 映画のラストシーンは敵も味方も、町の人たちもみんな一緒に明るく楽しく「ゴッドヒコザ音頭」を踊ります。俺はこれこそが重要なポイントだと思ってるんです。エイトマンだって、スパイダーマンだって、苦悩するシリアスなヒーローでしょ。でも今回の1ハートは、悩み一切なし! 人間がサイボーグになったら普通は悩むものですけど、太助は「母ちゃん! おれサイボーグになったよ!」って『刑事くん』みたいにハツラツとしている。東宝の『若大将』シリーズの明るさも強く意識していますね。

堀内 この映画、他の町の自治体の人にこそ観てもらいたいよね。こういう形の「町おこし」もあるんだよって。
河崎 町おこし映画って、都会に疲れた若者がふと訪れた田舎で、素朴な生き方を経験する……みたいな内容を思い浮かべるんですけど、そういう内容だとワクワクしないから、俺は撮りませんよ!
加藤 『新オバケのQ太郎』のQ太郎と同じメンタルなんですよ。「それでおしまい? 怪獣は出ないの?」っていう。だから河崎監督の映画には怪獣やロボットがジャンジャン出てくる(笑)。
河崎 まあでも、俺の映画で町おこしって、こんな形はまずないよね。プロデューサーの都築数明さんが仕掛人なんだけど、あの人は幸田町で仏具店を営んでいて、円谷プロに許可を取って「ウルトラ木魚」を作って販売した人。そんな人だから、俺と話が合うんだよ(笑)。
加藤 『サイボーグ一心太助』も公開されましたし、堀内さんにはまた新しい作品に出演してもらいたいですよね。次に何かやるなら、どんな役がいいですか?
堀内 一度やってみたい役があるんです。怪獣の中に入る人の役。頭にハチマキしめて、俺ももうそろそろリタイヤかな~って言いながら、まだまだ怪獣の演技にこだわっているとかさ。
河崎 いいですね! 実相寺監督も「怪獣映画は、ぬいぐるみの中に人が入るという昔ながらの撮影技法を失くしてはいけない」と常々言っていましたし。ぜひまた!



『サイボーグ一心太助』は池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷、テアトル梅田、アップリンク京都ほかで上映中。
今後の上映スケジュールは公式サイトを参照してください。
Ⓒ『サイボーグ一心太助』プロジェクト2024

河崎実
かわさき・みのる 1958年、東京都出身。映画監督。『地球防衛少女イコちゃん』(87年)で商業作品デビュー。以後、『いかレスラー』(04年)、『日本以外全部沈没』(06年)、『突撃!隣のUFO』(23年)など精力的に発表。一貫して特撮コメディ作品を作り続ける「バカ映画の巨匠」。

堀内正美
ほりうち・まさみ 1950年、東京都出身。俳優。桐朋学園大学演劇科在学中にスカウトされ、1973年のTBS金曜ドラマ『わが愛』で俳優デビュー。以後、多くのテレビ・映画・ラジオ・舞台に出演し、多様な役柄を演じる。東京から神戸に移住して11年目となる1995年1月17日、阪神淡路大震災に遭遇してからは、被災者の方々を助ける市民ボランティア・ネットワーク「がんばろう!!神戸」を結成。数々の支援活動を精力的に行っている。

加藤礼次朗
かとう・れいじろう 1966年、東京都出身。漫画家。86年に『まんが音楽家ストーリー ベートーベン』でデビュー。2005年に実相寺昭雄監督演出のオペラ『魔笛』の衣装デザインを手掛ける。ラジオフチューズで『SF空飛ぶリヤカー!』のメインパーソナリティを森野達弥と共に務めている。

秋田英夫
あきた・ひでお フリーライター。『宇宙刑事大全』『大人のウルトラマン大図鑑』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『上原正三シナリオ選集』など特撮書籍・ムックの執筆・編集に携わる。バカ映画の巨匠・河崎実監督の『電エース』シリーズにおける電兄弟のひとり「電七郎」役で出演経験もあります。
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