
時代劇のヒーロー「一心太助」が最新テクノロジーによってサイボーグに生まれ変わり、巨大な悪の陰謀を打ち砕く――!? 『いかレスラー』『ヅラ刑事』『日本以外全部沈没』など、長年にわたって特撮コメディ作品を作り続けてきた「バカ映画の巨匠」こと河崎実監督が生み出した特撮ヒーロー映画、それが『サイボーグ一心太助』です。
『超伝合体ゴッドヒコザ』(2022年)『突撃!隣のUFO』(2023年)に続いて、愛知県幸田町の全面協力を得て作られた“町おこし”映画の三作目である本作は、当地にゆかりの深い江戸時代の武将「大久保彦左衛門」に仕えた魚屋の若者「一心太助」のキャラクターを現代に置き換え、一心太助が超人的な能力を備えたサイボーグ1(ワン)ハートに変身し、困っている人たちを助けつつ、邪悪な死の商人「ブルーゴースト」にも戦いを挑む、破天荒にもほどがある痛快特撮ヒーローコメディ映画となりました。
ここでは『サイボーグ一心太助』主役の「一心太助=サイボーグ1ハート」をさわやかかつ情熱的に演じた小松準弥さんのスペシャルインタビューを敢行。『仮面ライダーリバイス』(2021年)での小松さんは、次々に襲い来る過酷な試練を乗り越え、巨悪を叩くため全力を尽くした正義の男・門田ヒロミ(仮面ライダーデモンズに変身)を1年間にわたって務めました。今回、仮面ライダーとは一味違って「底抜けに明るく、前向きで明朗快活な江戸っ子ヒーロー」という新たな一面を見せてくれた小松さんから、撮影時の裏話をいろいろとうかがいました! いよいよスクリーンでの上映も5月10日からの沖縄「桜坂劇場」がラスト! 今後は配信、ソフト化、そして続編も? 痛快作の蔵出しインタビューです!
取材・文/秋田英夫

――小松さんはかつて、『仮面ライダーリバイス』で自分の生命を危険にさらしながらも人類を守るため戦い続けるストイックな男・門田ヒロミ(仮面ライダーデモンズ)を演じて人気を博しました。今回は二度目の特撮ヒーロー、そして初のコメディ映画主演になるわけですが、出演のお話が来たときのお気持ちから聞かせてください。
小松 小さいころから「仮面ライダーになりたい」「ヒーローになりたい」と願っていたので、『仮面ライダーリバイス』にヒロミ役で出演したときは、子どものころからの夢が叶った! という喜びでいっぱいでした。そして今回の『サイボーグ一心太助』では、あのときの「ヒーローになることができた」という喜びを、また新たな気持ちで感じることができました。僕は、『仮面ライダー』や『サイボーグ009』で有名な石ノ森章太郎先生と同じ、宮城県石巻市の出身なんです。「石ノ森萬画館」は家から徒歩で行けるくらい近くにあって、子どものころからよく遊びに行っていました。町には仮面ライダーや009のモニュメントが置かれていて、すごく親しんでいました。だから「サイボーグ」や「改造人間」というキーワードにはとてもなじみが深いんです。『サイボーグ一心太助』という題名を聞いたとき、この作品に出演できるのは嬉しいなって、率直に思いました。
――イキでいなせな一心太助という人物像について、最初にどんな感想を抱きましたか。
小松 台本をいただくまで、一心太助について何も知らなかったんです。僕の母のほうが知っていたかもしれません。台本を読んでいくと「てやんでえ!」「べらぼうめ!」といった威勢のいい江戸っ子気質で、周りの人たちをエネルギッシュに巻き込んでいくとか、人を助けようと一生懸命になるところとか、旧き良き時代の「人情」に満ちた男だなっていう感想を持ちました。しかし昔ながらの人間は、情報化が進み、各方面への配慮を考えなければならない現代の世の中だと、なかなか生きにくいんじゃないかと思いました。一心太助を演じるにあたっては、現代社会で大事にしないといけない部分と、昔から受け継いでいきたい人と人とのつながり、人情を「融合」させた人物像を作るよう意識しました。
――河崎実監督は、ご自身が作っている映画と同じくらい底抜けで楽しいキャラの持ち主ですね。最初に小松さんが河崎監督と会ったときの印象はどうでしたか。
小松 「勢い」がすごいなって思いましたね。初めてお会いしたときから、映画作りにかける情熱に圧倒されました。撮影していたころ、僕の髪は今より短かったんです。河崎監督は「キミのその髪型がいいんだよ! 一心太助っぽくて!」って、勢いよく褒めてくれました(笑)。また「仮面ライダーをやっていたから、特撮のことはだいたいわかるよね、大丈夫だよなッ!」って、大きな信頼を寄せてくれました。実際、グリーンバックの前で演技したときなんて『仮面ライダーリバイス』での経験がとても活きました。監督の熱量がすごかったので、それに応えられるよう頑張ろう! と気を引き締めて臨みました。

――映画での一心太助は「超伝工業」に勤務する若手サラリーマンで、通勤の途中でも、町で困っている人を見かけたら助けずにはいられない、まっすぐであたたかな青年ですね。小松さんの中にも太助に似た要素はありしますか。
小松 太助ほどエネルギッシュではありませんが(笑)、性格的には似ているんじゃないか? と自分でもふと思うところがあります。かなり前の話ですけど、見ず知らずのカップルが喧嘩しているのを見て、思わず止めに入ったことがあります。たぶんああいった状況に置かれたら、太助も後先考えずに止めるんじゃないかな。いいか悪いかはともかく、自分の善性を信じて飛び込んでいくっていう感覚は、太助に近いものがあるかもしれません。
――超伝工業の専務で、亡き友人・知恵蔵の息子である太助の親代わりとなり、そして瀕死の太助にサイボーグ手術を施して「サイボーグ1ハート」を作り上げた大久保博士役・堀内正美さんと共演したご感想はいかがでしたか。
小松 それはもう大先輩ですから、撮影が始まる前までは緊張していたんです。でも堀内さんは「それで小松くんはどうなの?」「そうだよな、小松くん!」とか、常に僕のことを気にかけて、緊張することなく撮影できる空気を作ってくださいました。とても嬉しかったですし、大感謝しています!
――撮影の舞台となった愛知県幸田町のみなさんとの共演について、ご感想を聞かせてください。
小松 いやあ、楽しかったですね! 楽しいと同時に、とてもいい「気持ち」をプレゼントしていただいた思いです。本職の役者ではない地元の方の中で特に印象に残っているのは、太助が仲子(演:中川知香)を誘って食事をした居酒屋の大将を演じられた、小川修さんです。太助が「大将の腕があっての刺身定食だよ!」と絶賛すると、喜んだ大将は「アッハッハッハ~ッ!」って笑うんです。その笑い方がめちゃくちゃ面白くて、カットがかかると周りのみなさん大爆笑でした(笑)。先日、幸田町で行われた試写会でも、そのシーンで爆笑が起きたんです。そういう光景を見ていると、地元の方々が楽しんで映画作りに参加されたんだなあ……としみじみ思えてきて、あたたかい気持ちになりました。これから先もきっと、この映画がある限り、みなさん「映画に顔が映ったよ」「うちの店が撮影に使われた」「私にはセリフがあったよ」なんていう話題で盛り上がるでしょうし、ずっと思い出に残りますよね。そんな楽しい映画に僕も参加させていただいたのがほんとうに嬉しいです。みんなで映画を作るぞ! という活気に満ちていて、幸田町のみなさんひとりひとりが一心太助であるかのような、パワフルさが素敵でした。
――太助の新しい姿=サイボーグ1ハートの姿を間近で見たとき、どんな感想を抱きましたか。
小松 マスクやスーツが完成する前、河崎監督からは「小松くんの面長な顔に寄せて、マスクを作ってるんだ」と言われたんです。僕の顔のイメージに合わせてくれたのか! と思い、出来上がってきた1ハートに強い愛着がわきました。江戸っ子できっぷがいい魚屋という「一心太助」には、ねじり鉢巻きの印象があって、サラリーマンの太助は鉢巻きの代わりにネクタイを締めて頑張るぞ! みたいな感じでしたから、1ハートの頭に鉢巻きがデザインされているのを見て、僕がイメージしたとおりのサイボーグ1ハートだ! と感激しました。
――太助をライバル視する岩山進次郎役で『手裏剣戦隊ニンニンジャー』(2015年)のアカニンジャー役で活躍した西川俊介さんが出演されています。かつて「変身」した方同士、現場でお話をされたことはありましたか。
小松 生身での戦いがありましたし、お互いサイボーグに変身した後はアフレコも一緒にやりましたね。でも、出番の関係で西川くんと話す機会は多くありませんでした。西川くんとのことで印象に残っているのは、彼がとてもサウナ好きだってこと。撮影が早めに終わったとき「俊介、これからどうするの」と聞くと「サウナ行ってきます!」って言うんです。「また? 昨日も行ったじゃないの」「もう一ヶ所、いいサウナがあるんです」なんてやりとりをしていました(笑)。

――本作のヒロイン・宮田仲子を演じる中川知香さんの印象はいかがでしたか。
小松 中川さんは同い年なのですが、すごく落ち着かれていて、大人っぽい女性という印象を持ちました。とてもいい雰囲気でお芝居ができたと思います。
――小松さんは本作で、本家の「一心太助」よろしく、天秤棒を使った立ち回りも披露されていましたね。
小松 事前に立ち回りの手をつけていただき、本番ではそのとおりに動くわけですが、決めポーズであったり、足のスタンスだったり、殴りのテンポ感、迫力の出し方といった部分は、自分なりに考えて表現しています。『リバイス』出演時にいろいろと経験し、学んだことが役に立っていますね。
――太助が銃で撃たれて倒れるところは、明るく陽気な本作の中で数少ないシリアスなシーンでした。
小松 とても印象に残っている出来事があります。最初にテストで撃たれる演技をしたとき、河崎監督もカメラマンさんも「あっ、撃たれた!」と思ったそうなんです。弾着も何も仕掛けていないのに「弾道が見えた」……弾丸が身体を突き抜けるかのようだったと言われました。僕のリアクションだけでそういう感覚になってもらえたのは、ほんとうに嬉しかったですね。
――サイボーグ1ハートとして蘇った太助は、ふだんは人間の姿でいますが、戦闘の時にはサイボーグに変身します。1ハートを演じたスーツアクターの谷口洋行さんとは、事前に打ち合わせをされたりしましたか。
小松 撮影が始まって間もないころ、僕と谷口さんとで「太助は江戸っ子なので、こういう仕草をするだろう」と、特徴的な動きを合わせるようコミュニケーションを取りました。先に僕が演技をして「こんな感じで動いていました」と伝えると、谷口さんも「じゃあ、1ハートもその動きをしましょう」なんて、合わせてくれました。『リバイス』で仮面ライダーデモンズに変身したときも同じ思いを抱きましたが、「一心太助=サイボーグ1ハート」というキャラクターは、太助を演じる僕、スーツアクターの谷口さん、そしてサイボーグ1ハートそのものの「3人」がひとつになって作り上げるものだ、という感覚で取り組んでいました。サイボーグ1ハートの戦闘シーンを試写で観たときは、少年時代に戻ったかのようなワクワク感がありましたね。大人になってもワクワクするなあって再確認できましたし、幅広い世代の方たちでもすぐ童心に帰って楽しむことのできる作品だと、改めて思いました。
――作品の根底には「発達していくAI(人工知能)に、これからの人間はどう向き合っていくか」といった今日的なテーマが流れていますね。AIをはじめとする最新テクノロジーには人の細やかな感情がわからない、と否定的だった太助が、そのテクノロジーのおかげで命を救われることで「人間とAIの共存・発展」という明るい方向へ行くのも、バッチリ決まっているなと思いました。
小松 発達したAIが人間の仕事を奪うかもしれない、みたいな問題提起を映画の中でもしていますよね。しかし一方で、AIをはじめとする技術の進歩のおかげで今まで人間の技術で不可能だったことが、可能になるってこともあるはず。科学の発展にともなって、新たな問題が出てくることもあるけれど、向き合い方次第では、人間の心がより豊かになる。そんな世界になってほしいですし、きっとなってくれると信じています。
――最後は敵も味方も、町の人たちもみんなで「ゴッドヒコザ音頭」を踊ってハッピーエンド、というのも、痛快そのものでしたね。
小松 ご当地映画、地元映画の「良さ」だなあって思いました。いろいろな事件や騒ぎがあったけど、最後はみんな平和に仲良く踊ろうよって(笑)。演じている僕たちも同じですけど、観ている方たちもなんか「良かったね!」と思えるような、ハッピーさが魅力になりました。
――スタッフ・キャストのみなさんは撮影の合間に、幸田町で何かおいしいものを召し上がったのではないですか。
小松 ご用意してくださったお弁当が美味しくて、それが毎日の楽しみでした。ちゃんと「祝 サイボーグ一心太助」と書かれた掛紙がかけてありました(笑)。あとは、撮影の終わりごろにキャスト・スタッフのみんなで行った、駅前の焼肉屋さんが思い出深いです。東京のお店だと、最近は換気が行き届いているところが多いですけど、昔ながらの、店全体に焼肉の煙がモクモクしているようなお店で、地元に帰ったような安心感を覚えました(笑)。幸田町のみなさんには大変お世話になりました。活気ある町の人々のあたたかさは、実際に行った人のほうが強く感じられると思うので、映画を観て気になった方はぜひ一度、幸田町を訪れてほしいですね。パンフレットには、撮影で使われたお店の紹介記事も載っています。ぜひ幸田町へいらしてください! とお薦めしたいです。
――映画には『超伝合体ゴッドヒコザ』のゴッドヒコザ、『突撃!隣のUFO』のフデガキ星人が助っ人に来るシーンがありました。もしかしたら、今後も幸田町を舞台にした映画が河崎監督によって作られるのであれば、サイボーグ1ハートの再登場もありえるかと……。もしもふたたび一心太助=1ハートが登場するチャンスがあれば、どういう活躍をしてみたいですか?
小松 それは面白い質問! そうですね……、またサイボーグ1ハートが立ち上がる日が来るならば、こんどはより「勢い」を増して戦ってほしいですね。嵐のような勢いとパワフルさで、敵を翻弄してもらいたい! 悪い奴らが作戦を緻密に重ねていたとしても、1ハートがやってきて「そうじゃない! こっちだ! こっちへ来い! 悪い考えを改めやがれい!」と、ものすごい勢いで崩していく。そうして、ふたたび幸田町の人たちを守ってみたいと思います!
――『サイボーグ一心太助』のファンの方たちに向け、小松さんからひとことメッセージをお願いします。
小松 みんなを「幸せ」にする映画です。自分のことは後回しにしてでも目の前で困っている人を助けたいと全力でがんばる一心太助の姿を見て、何かと厳しい現代社会で重苦しさを感じている人の心が少しでも軽くなってくれたらいいなと思っています。肩の力を抜いて、気軽に楽しんでもらえる作品ですので、これからもたくさんの人たちに観ていただきたいです!

『サイボーグ一心太助』は5月10日より沖縄県・桜坂劇場で上映されます。今後の上映スケジュールは、公式サイトを参照してください。

小松準弥
こまつ・じゅんや 1993年12月23日生まれ。宮城県石巻市出身。2013年に「第13回『FINEBOYS』専属モデルオーディション2013」でグランプリを受賞。俳優として数々の舞台で活躍する一方、初のテレビドラマ出演作『仮面ライダーリバイス』(2021年)で門田ヒロミを演じ、幅広い世代のファンを獲得した。東映Vシネクスト『リバイスForward 仮面ライダーライブ&エビル&デモンズ』(2023年)では日向亘(五十嵐大二役)とのダブル主演を果たす。

秋田英夫
あきた・ひでお フリーライター。『宇宙刑事大全』『大人のウルトラマン大図鑑』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『上原正三シナリオ選集』『DVDバトルフィーバーJ(ブックレット)』など特撮書籍・ムック等の執筆・編集に携わる。河崎実監督の『電エース』シリーズにおける電兄弟のひとり「電七郎」役で出演経験もあります。