監督とメインキャストのオリジナルトリオで早や35年! 最新作公開中! 奇跡の巨大ヒーローの偉大な歴史を振り返る『電エース』スペシャル座談会:特撮ばんざい!第32回


「バカ映画の巨匠」こと河崎実監督のライフワークとも言える『電エース』シリーズ初の劇場作品『電エースカオス』が昨年12月22日から公開された。本作を記念して河崎実監督のもとに、シリーズにゆかりのある破李拳竜、加藤礼次朗が集結。出演者のプライバシーを破壊し、「金を無駄にしたい人は観てください」と監督が豪語。ますます破天荒で「特撮映画史上、最高にして最低の傑作」として話題を集めている本作の魅力について座談会を行った。

写真・取材/モノ・マガジン編集部 文/今井あつし

河崎実監督を囲んで、電次郎役の加藤礼次朗(左)と宮田日出海役の破李拳竜。池袋シネマ・ロサで観客と一緒に『電エースカオス』を鑑賞。せっかく集まったからと、ボリューム満点の中華ランチを食べつつ座談会がスタート!

【映画『電エースカオス』あらすじ】

気持ち良くなると身長2000メートルもの巨人に変身する電エースこと電一(河崎実)が地球に来訪して35年。ハリウッド星人(ハリウッドザコシショウ)を倒したものの失恋の痛手から立ち直れない50番目の弟・電五十郎(小林さとし)、兄弟最強の能力を持ちながら昭和歌謡曲をフルコーラスで歌わないと変身できない電五十二郎(タブレット純)の前に、人類の邪悪エネルギーを利用するムクリタ星人が出現。ここに『電エース』シリーズ史上、最高最低の戦いの火蓋が切って落とされた――。

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オリジナルキャストのまま35周年を迎えた『電エース』

左から、ムクリタ星人、メカニシャンス、電エース。

――『電エースカオス』はシリーズ初の劇場作品で、上映時間も112分というボリュームで圧倒されました。

河崎 『電エース』の歩みを見せたくて、旧作をダイジェスト風に足していったところ、上映時間が長くなってしまったんですよね。特に本作は『電エースキック』(19年)と『電エースQ』(22年)と直接繋がりのあるストーリーだから、おさらいとしてその2本を丁寧に見せる必要があった。

破李拳 映画の冒頭で第1作目の『電エース(電エース・ファースト)』(89年)が映し出されたのも良かったですね。

これが第一作『電エース』だ‼ 河崎監督演じる電一(でん・はじめ)が、ビールを飲んで気持ち良くなり変身する。

加藤 電一役の河崎監督の若い姿が見れて懐かしかった。僕も弟の電次郎役として初期から参加しているけど、そもそも『電エース』はバンダイから発売された『電影帝国』というビデオマガジンの1コーナーだったんです。しかも『電影帝国』は隔月発売なので、『電エース』の撮影も2カ月ごとに行われたので、第1話は曇天だったのに、第2話ではいきなり晴天になったりしてバラバラなんですよね(笑)。

河崎 それが35年後に劇場作品まで登り詰めたという。『実相寺昭雄監督作品ウルトラマン』(79年)は、『ウルトラマン』(66年)から13年後に公開されたオムニバス映画だけど、『電エースカオス』は35年前のオリジナルキャストのままで新しいストーリーが展開されるんだよ。『ウルトラマン』ができなかったことを俺たちはやっている(笑)。

映画は映し鏡。重厚な演技で現実世界のリアルな悪を描く

左から、チャンス大城、清水綋治。

――今回のラスボスであるムクリタ星人クースの人間態としてベテラン俳優の清水綋治さんが出演されていて、非常に存在感がありました。

河崎 清水さんは実相寺昭雄監督の常連俳優だったから、最初に「僕は実相寺昭雄監督の弟子みたいなものです」とお伝えしたら、実相寺監督の思い出をいろいろと語ってくれたんですよ。あれは嬉しかったね。

加藤 清水さんは俳優座出身ということもあって、大仰な芝居も非常に様になっていて悪役として完璧でした。

左から小林さとし、勝呂誉、タブレット純。

河崎 『怪奇大作戦』(68年)の勝呂誉さんもゲスト出演されて、現場で勝呂さんと清水さんがお会いした時は良かったよね。勝呂さんは元文学座で、清水さんとは同世代だから。

――清水さん演じるムクリタ星人はSNSを巧みに利用した作戦を展開しますが、そこに妙なリアルさを感じました。

河崎 「人間の承認欲求を利用しようとするとは恐ろしい宇宙人だ」ということで、『ウルトラセブン』(67年)の「狙われた街」みたいな話なんだけど、「現代の悪は何か?」と考えていくと、そういう人間の欲望に行き着くんだよね。SNSで相手を貶めたり、煽ったりする。現在放送中のヒーロー作品では描きづらい悪を『電エース』では描けるわけですよ。

破李拳 世の中を風刺しているわけですね。

河崎 最初の『ゴジラ』(54年)からして風刺だったからね。そういう要素がないと、単なる勧善懲悪で、ただ楽しいだけの作品になってしまう。映画は時代を映す鏡でなくちゃいけないんだよ。

昭和第2期ウルトラマンシリーズを彷彿とさせる怪獣たち

左から、ムクリタ星人、電エース、メカニシャンス。

――ムクリタ星人クースの正体は奇抜ながら、どこか懐かしさを感じさせるデザインでしたが。

河崎 造形担当の梶康伸くんがデザインも手掛けてくれたんだけど、昭和第2期ウルトラマンシリーズに登場したグロテス星人テンペラー星人やみたいに、ユルい造形の星人にしてくれと注文したからね。

破李拳 確かに『ウルトラマンタロウ』(73年)に登場しても違和感がないデザインで、愛嬌すら感じさせますね。

――チャンス大城さん演じる部下のシャンスが変身するメカニシャンスというロボット怪獣もインパクトがありました。

加藤 メカニシャンスの両眼から発射されたビームが虹色でしたよね。「やっぱり『ゴジラ対メカゴジラ』(74年)のように、映画に登場するメカ怪獣の光線はこうでなくちゃ」と興奮しました。

河崎 20年以上前の監督作『恋身女子戦隊パティーズ』(02年)に登場したジャイアントホストという怪獣の胴体・手足のパーツがまだ残っていたので、メカニシャンスに流用したんだよね。もう使い回しも良いところだよ。それこそ『タロウ』の改造ベロクロン二世みたいなもの(笑)。

破李拳 私はジャイアントホストのスーツアクターでしたけど、メカニシャンスがその改造だったとは気付かなかった。改造ベロクロン二世は、超獣マッハレスを改造して無理やりベロクロンに仕立てたものの流用で、オリジナルとは似ても似つかないんですよね。

河崎 でも、そのユルさが良いんだよ。『レッドマン』(72年)に登場したカネゴンやガラモンにしても、アトラクション用で顔がひん曲がったり首が伸びたりして、別の怪獣みたいだったでしょ。

加藤 同窓会でオジサン・オバサンになった同級生たちを目の当たりにしたような気分ですよね。僕だって、この35年間で25キロも太りましたから。『カオス』で過去の自分の姿を見て、現在のあまりの劣化ぶりに自分でも驚いた(笑)。

35年前は、別人のようにスリムだった電次郎こと加藤礼次朗。

『電エース』はドキュメンタリーでもある!?

左から、小林さとし、タブレット純、西恵子、佐野光洋。西と佐野は『ウルトラマンA』TACの美川のり子隊員と吉村公三隊員役でも知られ、約50年ぶりの映像共演が見もの。

河崎 本作の主演の1人である元キックボクシング世界チャンピオンの小林さとしさんは、『電エースキック』で、ちかまろさん演じるスナックのママに振られちゃう役柄だったんだけど、それをキッカケに実生活で2人の交際が始まって、遂に結婚したんだよね。

破李拳 すごい。電エース婚だ(笑)。

加藤 僕なんて過去の『電エース』で自分の結婚披露宴の映像が使われましたよ(笑)。しかも今回の『カオス』では僕の汚い部屋まで映し出されて、『電エース』に関しては僕にプライバシーなんて一切ないんです。

河崎 やっぱりストーリーの合間に実話やドキュメントを入れ込むと、お客さんたちに受けるんだよね。

破李拳 そういった意味では、今回の『カオス』で薩摩剣八郎さんの登場シーンは本当に感慨深かったです。薩摩さんに連絡しても電話に出なくて、「どうしたんだろう?」と心配していた矢先の訃報でしたから。スクリーンでの薩摩さんの笑顔が非常に眩しかった。

ミスター平成ゴジラ・薩摩剣八郎氏。VSゴジラシリーズでも共演した破李拳竜と電エースでも共演。

河崎 薩摩さんの勇姿を残すことができて良かった。ゴジラのスーツアクターも破李拳竜と喜多川務さんだけになってしまったね。

破李拳 喜多川さんが参加されたミレニアムシリーズは、カットごとにミニチュアを飾り替えしての撮影だったわけでしょう。東宝の第8、第9ステージでスタジオいっぱいにミニチュアセットを組んだ時代のゴジラのアクターは私が最後になります。

――破李拳さんは『ゴジラVSデストロイア』(95年)でゴジラジュニアを演じられましたから。

河崎 ゴジラがステーキなら、電エースは駄菓子なんだよね。特撮はステーキどころか、駄菓子をも包括する懐の深さがある。

破李拳 私はステーキも駄菓子も経験していますから(笑)。ステーキにはない、駄菓子ならではのキッチュな味がここにはある。生半可に手を出すと痛い目に遭う世界で、河崎監督は35年間も駄菓子を作り続けたわけですよ。それが素晴らしい。

『電エース』は人生そのもの。目指せ50周年!

左からスーツアクターの谷口洋行、加藤礼次朗、河崎実、破李拳竜。
池袋シネマ・ロサの上映後にファンに囲まれて、サインをサービスするオリジナルメンバーの3人。
大超獣もたまげる濃厚キャスト陣。小林さとし、タブレット純、西恵子、佐野光洋、ちかまろ、永野希、破李拳竜といった『電エース』ファミリーが結集し、現代の怪奇を暴く!

――最後にこれから『電エースカオス』をご覧になられるファンの方たちにメッセージをお願いします。

河崎 庵野秀明監督・樋口真嗣監督は過去の作品を新しく作り直してるから、初めて観る人でも内容がわかるけど、俺の映画は過去作を知っていて、元ネタの知識がないと何を描いているのか分からない内容なんだよね。だけど、それが俺の人生だから。まさに『電エース』は俺の人生そのものですよ。東京だけではなくて、新潟、神戸、名古屋などの地方でも上映しますので、「お金を無駄にしたい」と思ったら観に来てほしい。

加藤 お金を無駄にしたい人なんていないでしょ(笑)。僕にとっても35周年記念である『電エースカオス』は、「こんなにも自分に贅肉が付いたんだ」と突き付けられる作品で、記録を残すのも考えものだなと思い知らされました。だけど、映画はとても楽しい内容なので、是非ご覧いただければと思います。

破李拳 私は最初、『電エースに死す』(92年)という作品で電エース役だったんですよ。1990年の暮れに撮影が行われて、その後、川北紘一特技監督に新年の挨拶に行ったら、スタッフさんたちから『電エース』の評判を聞いていたらしくて、「『ゴジラVSキングギドラ』(91年)に参加しないか?」と声を掛けてくれました。これも『電エース』のおかげで、私のキャリアの中でも非常に重要な作品となります。『カオス』では可愛いアンドロイドの嫁さんと、聡明な息子を持った宮田日出海という親父役で出演していて、河崎監督のおかげで家庭を築くこともできました(笑)。

河崎 スーパー戦隊シリーズが2025年で50周年でしょ。よくよく考えたら、『電エース』もあと15年続けば50周年を迎えられるわけ。15年後の俺は80歳だけど、それまで頑張れると思う。これからも『電エース』を楽しみにしていてよ。

<河崎実・プロフィール>
河崎実(かわさき・みのる)
映画監督。東京都出身。『地球防衛少女イコちゃん』(87年)で商業作品デビュー。以後、『いかレスラー』(04年)、『日本以外全部沈没』(06年)、『突撃!隣のUFO』(23年)など精力的に発表。一貫して特撮コメディ作品を作り続ける「バカ映画の巨匠」。

<破李拳竜・プロフィール>
破李拳竜(はりけん・りゅう)
漫画家・スーツアクター。栃木県出身。『ゴジラVSキングギドラ』(91年)でキングギドラ役に抜擢され、以後、平成ゴジラシリーズにスーツアクターとして参加。『ギララの逆襲/洞爺湖サミット危機一発』(08)など、河崎実監督作品のスーツアクターも担当した。

<加藤礼次朗・プロフィール>
加藤礼次朗(かとう・れいじろう)
漫画家。東京都出身。86年に『まんが音楽家ストーリー ベートーベン』でデビュー。2005年に実相寺昭雄監督演出のオペラ『魔笛』の衣装デザインを手掛ける。ラジオフチューズで『SF空飛ぶリヤカー!』のメインパーソナリティを森野達弥と共に務めている。

<ライタープロフィール>
今井あつし(いまい・あつし)
編集・ライター。エッセイ漫画家まんきつ先生、かどなしまる先生のトークイベント司会、批評家・切通理作のYouTubeチャンネル『切通理作のやはり言うしかない』撮影・編集・聴き手を務める。

電エースカオス』映画公式HP
池袋シネマ・ロサを始め、全国各地で順次公開中!

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