眼鏡通なら知ってて当然!?
今さら聞けない「眼鏡レンズの素朴な疑問」


眼鏡ユーザーにとって、身近な存在である「眼鏡レンズ」。見た目は透明なプラスチックだが、快適な視界を提供するために、そこにはさまざまな技術が結集されている。私たちは日々その恩恵を受けているが、じつはまだまだ知らないことも多いのではないだろうか。

ということで、ここでは眼鏡レンズの材料を手掛けている三井化学に取材を敢行。ライフ&へルスケアソリューション事業本部ビジョンケア材料事業部 マーケティングチームリーダーの芦田裕介さんと、新事業開発グループ チームリーダーの高階 理さんに、今さら聞けないレンズにまつわる疑問について聞いてみた。

そもそもレンズって何からできているんですか?

——現在眼鏡レンズの素材は、プラスチックが主流です。プラスチックにも様々な種類があると思うのですが、眼鏡レンズに使用されているのはどのような性質を持ったプラスチックなのでしょうか。

芦田 弊社では、いわゆる「薄型レンズ」や「超薄型レンズ」といわれる高屈折率眼鏡レンズの材料「MR™」を作っています。この「MR™」の素材は、ウレタン樹脂に硫黄を加えた「チオウレタン樹脂」というものです。ウレタン樹脂というとマットレスや断熱材などにも使われていますが、この粘りのある「チオウレタン系樹脂」が薄くても衝撃に強い眼鏡レンズを可能にしました。

——ウレタン樹脂と硫黄ですか! もしかして、レンズを削って加工しているときに独特なにおいがするのは、硫黄が含まれているからですか?

高階 はい。この硫黄は、高屈折率化を実現するのに欠かせない原料なんです。1980年代に入り、それまでのガラスレンズに代わって軽くて割れにくいプラスチックレンズが主流になったのですが、当時の素材では屈折率に限界がありました。

——たしかに、昔作った眼鏡は今よりレンズが分厚かったように思います。

芦田 そこで、弊社では1982年に新しいレンズ素材の開発に着手。そうして、1987年に屈折率を高くしながらも軽くて割れにくく、滲みのないクリアな視界を提供する「MR™」が誕生しました。当時、開発にあたってはかなりの試行錯誤があったと聞いています。まずは屈折率1.60からスタートし、1991年には1.67を、2000年には1.74を発表し、今では多くのレンズメーカーさんの1.60以上の高屈折率レンズ材料として採用されるようになりました。

高屈折レンズ材料の開発により、度数が高いレンズでも薄くて軽く仕上げることが可能に。
厚みが気にならず、装用感も軽快だ。

——なるほど。その登場は画期的なものだったわけですね。ちなみに、さらにレンズの屈折率を上げるというのは技術的に難しいことなのでしょうか。レンズをもっと薄くしたいと願う人は多いと思うのですが……。

高階 原理上、素材における硫黄のコンテント(含有量)を上げると屈折率は上がっていきます。ただしそれには限界があり、上げ過ぎると耐久性や透明度など眼鏡レンズとして求められる機能を保てなくなってしまうんです。そのバランスを保ちつつ屈折率をできる限り高めたものが、1.74であると弊社では考えています。

眼鏡レンズでUVカットできるのはなぜ?

——眼鏡レンズの付加機能としてよく知られているのが、紫外線カットです。この透明なレンズで、どのように紫外線をカットしているのでしょうか。

芦田 簡単に言うと、紫外線の吸収剤をレンズに混ぜ込んでいます。日焼け止めクリームなどにも使用されているようなものですね。

——紫外線吸収剤が、素材自体に混ぜ込まれていると。

高階 そうです。弊社の「MR™」レンズは2種類の液体を混ぜてガラス製の型に流し込み、熱を加えて固めて作るんですが、その流し込む段階で紫外線吸収剤を入れています。混ぜ込んだ際に液が濁らないようにするというのも、レンズの品質を保つためには重要なことです。

ガラス製のレンズ型

そもそも、レンズに紫外線吸収剤を入れる理由は2つあります。一つには、素材の黄変(黄ばみ)を防ぐため。そしてもう一つが、目に入る紫外線を抑えるという点です。

——目を紫外線から守るためだけでなく、レンズの品質維持の意味合いもあったんですね。

高階 最初はUV380といって380nmぐらいまでの光の波長をカットしていたんですが、ユーザーの健康意識の高まりと紫外線吸収剤の性能の向上により、現在はUV400が主流となりました。雑貨のような安価なダテ眼鏡やサングラスは必ずしもそうとは言えませんが、眼鏡店で販売されているレンズであれば、その多くがUV400だと言えるでしょう。

目の健康を守るUV420

——御社では、さらにその上の420nmの波長までカットする「UV+420cut™」という製品も展開しています。

芦田 400~420nmの波長の光は可視光線(目に見える光)のなかでもエネルギーが高く、健康への影響が懸念されています。この波長の光を目が浴び続けると、長期的には加齢黄斑変性症の原因となる可能性があるとも言われているんです。そのため、紫外線より広範囲の有害な光線をカットしようというのが「UV+420cut™」ですね。

400~420nmの短波長光は大きなエネルギーを有するため、角膜や水晶体を透過し、網膜まで届いてしまう。

——たしかに最近は、「目の健康のために」とUV420のレンズを勧められることが多くなりました。こちらも、吸収剤を混ぜ込んでいるんですか?

高階 はい。この「UV+420cut™」は、視界はナチュラルなので普段使いしやすいのも特徴です。じつは可視光線の領域までカットしながら、レンズの透明性を維持するのはなかなか難しいことなんです。

——なるほど。レンズが透明であることを当たり前と思いがちですが、これは開発者の試行錯誤の賜物なんですね。

調光レンズはなぜ色付く?
調光レンズとは、紫外線を浴びることでレンズの色が濃くなるレンズのこと。紫外線の届かない屋内や夜間にはクリアなレンズが、日差しの強い屋外ではサングラスのように濃い色へと変化する。

——ここ数年、調光レンズの人気が高まっています。私自身も愛用していますが、よく考えたら透明なレンズが紫外線により色付くって不思議なことだなぁと。

高階 調光レンズは、構造的に大きく2種類に分けられます。レンズの表面に「調光層」というコーティングが施され、そのコーティングの薄い膜のなかに調光性色素が入っているタイプ。もうひとつは、先ほどの紫外線吸収剤と同じようにレンズを型に入れる際に調光性色素を混ぜ込んでいるタイプです。一般的には前者が多いのですが、当社では後者を採用しています。

調光性色素自体は透明な化合物ですが、紫外線のエネルギーにより化学的な構造が変化し、発色するという仕組みです。再び紫外線を遮断すると、調光性色素の化学構造が元に戻り、退色して無色透明になります。

——調光性色素をレンズに混ぜ込むというのは、難しい技術なんですか?

高階 レンズ全体が均一に、かつ十分な濃度で色づくよう色素を配合するには技術を要しますね。また、求められるレンズカラーを作り出すのにもテクニックが必要です。色の三原色である3つの色素の配合のバランスを見ながら作っていきます。

——調光レンズは、気温が高いと発色の反応が弱くなりますよね。それは、なぜなのでしょう? できれば、日差しが強い夏ほど色づいてほしいと思うのですが……。

高階 先ほどお話ししたように、紫外線のエネルギーで調光性色素の化学構造が変化するわけですが、一方で温度が高いほど色素が透明になろうとする反応のほうが強く働くんです。その性質上、冬はよく色づくわけですが、反対に退色しづらくなってしまいます。これは、化学物質自体の性質なので、なんともしがたいのですが……。このあたりは、克服できるよう各メーカーさんが頑張っているところですね。

——なるほど。御社では、この調光レンズの素材と技術を使って、紫外線で色が変わるボタンやアクセサリーも作られていますよね。この技術の転用は、目からウロコでした。

太陽光に反応して色付くボタン。眼鏡レンズ材料MR™を使用し、調光技術により紫外線で色付く特徴を生かしたアイテム。価格各1500円(1シート)。MOLpのオンラインショップで購入できる。
最新のレンズについて教えてください

——では、最後に三井化学が手掛ける最新のレンズ材料を教えてください。

芦田 現在弊社では環境調和型のグリーンマテリアルの開発に注力していまして、植物由来素材を活用した高屈折率メガネレンズ材料「Do Green™」シリーズの屈折率1.60を今年の4月1日に発売開始しました。同シリーズの屈折率1.74はバイオマス由来の新規脂肪族イソシアネートである STABiO™ PDI®を用いたもので、日本とアメリカでバイオマス製品の認定を取得しています。

——最近は眼鏡フレームでもサステナブルな素材への取り組みが始まっていますが、レンズにもその波はきているんですね。

芦田 はい。とくに欧米では、そうした意識の高まりを感じます。持続可能な素材の開発をはじめ、これからも時代のニーズに応えた付加価値のあるレンズ材料を提供していきたいと思っています。

「MR™」
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/special/mr/
「UV+420cut™」
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/special/uv420cut/
MOLp® | ONLINE STORE
https://molpec.com/products/

  • 眼鏡ライター。眼鏡専門誌『MODE OPTIQUE』をはじめ、モノ雑誌やWEB媒体にて眼鏡にまつわる記事やコラムを執筆している。TV、ラジオ等のメディアにも出演し、『マツコの知らない世界』では眼鏡の世界の案内人として登場。2015年から2017年まで、眼鏡の国際展示会「iOFT」で行われている「日本メガネ大賞」の審査員を務めた経験も。
  • https://twitter.com/mireiton