菊池雅之のミリタリーレポート
陸自最大規模の大演習!?
“陸演”とは何だったのか?


集成補給隊の元へと民間の運送会社のトラックが次々と物資を運んでくる。
官民一体となった兵站の姿。

陸自史上“最大”かつ“地味”な訓練!?

 日本を取り巻く安全保障環境はますます厳しくなっています。2021年度は、とにかくいろいろありました…。

 中国、ロシア、北朝鮮は相変わらず―。

 なんと、2021年10月には、10隻もの中露海軍艦艇が津軽海峡を抜け、太平洋側を南下、犬吠埼の沖を抜けるという事案が起きました。公海上とは言え、初めて中露海軍が共同で同海峡を通峡したという事実は、決して看過できることではありません。

 世界では、タリバン政権がアフガニスタンを掌握し、元の木阿弥に…。
ロシアがウクライナへと侵攻…。
後の世界史に残る重大な出来事が次々と起きています。

 これまでの日本ならば、「遠い外国で起きたこと」と対岸の火事を決めることもできたでしょう。しかし、防衛省自衛隊は、在外邦人輸送のためアフガニスタンへ、ウクライナへの支援物資を運ぶためポーランドへと輸送機を派遣しました。今の自衛隊は国内にとどまらず、世界中でも活躍する組織となったのです。

もちろん領土を守るため、部隊の改編、そして実践的な訓練も数多く行われました。

 その中で、“陸演”が実施されました。正式名称は「令和3年度陸上自衛隊演習」です。名前の通り、陸上自衛隊全体で行う演習です。前回行われたのは、1993年までさかのぼるそうです。そこから数えて、実に約30年ぶりとなります。それより以前については記録がないので分からないとのこと。

 実施期間は、2021年9月15日から11月下旬まで。陸自だけで、人員約10万人、車両約2万両、航空機約120機が参加しました。さらに、海自や空自、在日米軍も参加しており、規模は30年前の実施回よりも大きいそうです。と言うことは、それ以前に実施したかどうかあやふやであるならば、今回の陸演が、陸自史上最大規模の演習と言ってよいでしょう。 

 シナリオの詳細は公表されていませんが、間違いなく、対中国を念頭に置いた 日本南西有事です。
 そこで、西部方面隊を支援するため、北海道や本州の各部隊が、続々と九州へと送り込まれました。

 陸演は、この“大移動”そのものが訓練なのです。あるメディアは「自衛隊のお引越し」と称しました。
 陸上幕僚監部広報室は、「一般人から見ればかなり地味な訓練」と自嘲気味に語っていました。というのも、陸演の訓練課目は、「出動準備訓練」「機動展開等訓練」「出動整備訓練」「兵站・衛生訓練」「システム通信訓練」となっており、戦闘訓練や実弾射撃訓練などは組み込まれていませんでした。

 しかしながら、興味がわきませんか?陸自史上最大の地味な訓練に!

米陸軍の揚陸艇LCU2009により、横浜ノースドックから佐世保基地まで運ばれてきた
第22即応機動連隊の16式機動戦闘車(写真・米海軍)
高速道路や一般道などを使い、自衛隊車両は、次々と九州を目指していった。(写真・第2師団)

各部隊の大移動!

 9月に入ると、各部隊が続々と西を目指して大移動を開始しました。

 ある日、買い物へ向かうため、家族で環状八号線沿いを歩いていました。すると偶然にも、自衛隊車両群が走り抜けていきました。その車列に16式機動戦闘車が含まれていたのです。さすがにカメラを持っていなかったので、網膜に焼き付けることしかできませんでしたが、「これが陸演か!」と驚かされました。

 SNS上でも、私と同じように自分の家の近所の道路、駅、港で、自衛隊車両を目撃した人が写真と共に次々とアップし、タイムライン上を賑わせていました。

 主たる訓練実施部隊となったのが、第2師団(旭川駐屯地・北海道)、第6師団(神町駐屯地・山形県)、第14旅団(善通寺駐屯地・香川県)でした。私が目撃したのは、第6師団の第22即応機動連隊でした。

 移動距離、時間を最もかけたのが第2師団です。北海道からフェリーや航空機を使い、大分県にある日出生台演習場並びに十文字原演習場へと展開しました。

 10月4日、第2師団の各部隊が“日出生台島”にて陣地を構築する様子が取材できることになりました。ほぼ師団隷下すべての部隊が参加しました。中には会計や補給など、あまり野外戦闘訓練に参加しないような職種も含まれています。総員約5,200名、戦車・火砲を含む約1800両がはるばる九州までやってきました。

民間トレーラーから下ろされたコンテナには「霞ヶ浦」の文字があった。
関東補給処から運ばれてきたのだろう。

日出生台島を守れ!

 まず集成補給隊の指揮所へと向かいました。名前の通り、ここで各地から集まった物資等を管理しています。物資輸送を担ったのは、民間の運送会社でした。トラックの運転手と自衛官が、書類とコンテナの中身を確認します。迷彩服を着ている人物がいるので、物々しさはありますが、スーパーマーケットへの商品搬入のようなものです。中身を確認すると、フォークリフトを使って車両からコンテナを下ろします。有事の際も、後方地域では、こうして官民一体で任務に当たることになるのでしょう。

 演習場では、燃料や弾薬を積載した自衛隊のトラックが、土煙をあげて走り抜けていきます。陸演では、こうして、各所でトラックが大活躍していました。

 森の中には、擬装網で覆われた場所があり、燃料が入ったドラム缶が並んでいました。一か所に集中させず、何カ所かに分散し、万が一敵の攻撃を受けても、すべての燃料を失うリスクを回避していました。

 このように、機動展開と兵站構築に軸足を置いた、陸演が繰り広げられていきました。

 確かに派手さはないものの、非常に重要な訓練課目の数々でした。成果は十分あったと思います。もしかすると、3回目も実施されるかもしれません。

第2師団は、隷下部隊である第2戦車連隊の74式戦車を日出生台演習場まで展開させた。
(写真・第2師団)
日出生台島と想定した演習場内では、トラックなどの輸送車両が縦横無尽に走り回っていた。
  • 軍事フォトジャーナリスト.。1975年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。講談社フライデー編集部専属カメラマンを経て軍事フォトジャーナリストとなる。主として自衛隊をはじめとして各国軍を取材。また最近では危機管理をテーマに警察や海保、消防等の取材もこなす。夕刊フジ「最新国防ファイル」(産経新聞社)、EX大衆「自衛隊最前線レポート」(双葉社)等、新聞や雑誌に連載を持つなど数多くの記事を執筆。そのほか、「ビートたけしのTVタックル」「週刊安全保障」「国際政治ch」等、TV・ラジオ・ネット放送・イベントへの出演も行う。アニメ「東京マグニチュード8.0」「エヴァンゲリオン」等監修も行う。写真集「陸自男子」(コスミック出版)、著書「なぜ自衛隊だけが人を救えるのか」(潮書房光人新社)「試練と感動の遠洋航海」(かや書房) 「がんばれ女性自衛官」 (イカロス出版)、カレンダー「真・陸海空自衛隊」、他出版物も多数手がける。YouTubeにて「KIKU CHANNEL」を開設し、軍事情報を発信中
  • https://twitter.com/kimatype75