
最先端のAI技術が取り入れられ、実装的な社会が進む今、人を中心としたWell-beingで快適な暮らしや幸福感を感じられる、理想的な社会のあり方が重要視されている。
そんな中、イタリア外務・国際協力省が毎年推進しているプロジェクト「イタリアン・デザイン・デー(Italian Design Day)」が開催され、「RE-DESIGN」=「再生」をテーマに、東京のイタリア文化会館で、持続可能なデザインが話し合われた。
講演会の冒頭では、イタリア文化会館シルヴァーナ・デマイオ(Silvana De Maio)館長が登壇し挨拶を述べた。

「『イタリアン・デザイン・デー』における、本講演は、現代の私たちに有益なものです。デザインを通して対話を促し、相互作用に汲みするものになるでしょう」と述べた。
さらに、ジャンルイジ・ベネデッティ (Gianluigi BENEDETTI)前駐日イタリア大使も登壇し、開催を記念したスピーチを発表。

「講演のテーマ『RE-DESIGN』は、空間、オブジェクト、アイデア、関係性の再生として理解され、非常にタイムリーなテーマです。イタリアでは、再生は経済競争力、環境の持続可能性、そして技術革新のための戦略的なプロセスです」
「イタリア文化会館とヴァルテル・マリオッティ氏のおかげで、デザインの美的または機能的な側面を超えて、現代建築の哲学的、社会的、政治的役割に触れることができることでしょう」と述べる、ジャンルイジ・ベネデッティ 前駐日イタリア大使。
さらに、自身の経験についても触れて語る。「過去4年間、私たちはこのアイデアを東京の大使公邸で、実践しようと努めてきました。私たちは、倉庫から当時の家具を回収して修復し、既存のものを強化し、欠陥ではなく時間が物語の一部となるようにしました」
「この経験から、最高のプロジェクトとは、必ずしも交換や近代化を行うものではなく、伝統を尊重しながら認識し、修復し再生するプロジェクトだと実感しました」。
「つまり、再生とは、諦めることではありません。限界のある現実の中で生き、知性と感受性、そして洞察力をもってそれを変革していくことを、学ぶことを意味するのです」と述べ、締め括った。

講演会では、建築とデザインの分野で世界的に高い評価を受けるイタリアの雑誌『Domus』の編集長である、ヴァルテル・マリオッティ(Walter Mariotti)氏が登壇。
「亀裂に住まうー世界の不完全な美を再生する」と題し、物質と技術の視点を指摘するマルティン・ハイデッガー(Martin Heidegger)の「ゲシュテル(Gestell)」を起点に講演が行われ、変わりゆく現代の状況をデザインの力で、捉え直す試みが示された。

「Domus(ドムス)」は、1928年に建築家ジオ・ポンティ(Gio Ponti)によって、イタリアで創刊された、長い歴史を誇る建築やデザインの美術雑誌だ。
現代建築からインテリア、工業デザインまでを網羅し、毎号革新的な視点でプロジェクトを紹介しており、世界から常に注目を集めている。

ヴァルテル・マリオッティ氏は、日本伝統の修復技法「金継ぎ」に触れ、壊れた痕跡や継ぎ目を、金や銀、錫などの金属粉で装飾することで、唯一無二の美しさへと生まれ変わらせる技術に言及。
デジタル化が進み、アルゴリズムで消費される現代において、時代の中に見出された亀裂の中に、人々は「再生」を見出すことができるだろうと説明した。

西洋文化が「破損」を欠陥や廃棄の対象と見なしてきたのに対し、日本の伝統技法は、使われたものを捨てるのではなく、歴史の印として後世に引き継いでいくものだと説明する。モノを修理することは、職人の技術を守り育てることにもつながるのだと語る。

さらに、マルティン・ハイデッガーが表現した「森へ行く」という言葉は、現代の社会の支配的な仕組みに飲み込まれるのではなく、必要なのは“隙間”を見つけることだと語る。「森へ行く」という、自然回帰を意味する思想は、現代社会における抵抗でもあるのだ。

その上で、イタリアの東洋学者・考古学者である、ジュゼッペ・トゥッチ氏(Giuseppe Tucci)やイタリアの写真家であり、登山家、人類学者、東洋学者でもある、フォスコ・マライーニ(Fosco Maraini)氏の歴史的な活動を紹介する。
ジュゼッペ・トゥッチ氏、フォスコ・マライーニ氏らいずれも、歴史的に重要な研究者による、東洋文化の研究は、西洋と東洋の文化的な融合を実現し、哲学的な対話を生み出した。その結果、独創的で新しい文化が誕生したと話す。
「小説家のレナード・コーレン(Leonard Cohen)が著作の中で語った、東洋に代表される美学「侘び寂び(wabi-sabi)」は、不完全な美しさを表現するとともに、最も人間的な美しさを表すものでもあります」と語るヴァルテル・マリオッティ氏。

「金継ぎ」の技術をはじめとした、日本の伝統的な技法においても、工業的な美しさのみならず、歪であったり、不完全で未完全であることが、「侘び寂び」の美学として、世界から高く評価されているという。
新しい製品に意義を唱える“サステナビリティの美学”や、資源やモノの価値を十分に生かしきれず無駄になることを惜しむ、日本伝統の環境配慮・感謝の概念にも注目した。

ケニアのワンガリ・マータイ(Wangari Muta Maathai)氏が唱えた、「MOTTAINAI」キャンペーンにもつながる発想だ。
壊れたモノを全て廃棄物として扱うのではなく、モノが内包する価値を見出すこと、それこそが「RE-DESIGN」の考え方になる。職人の仕事に敬意を示し、再生して繰り返し使い続けることは、循環経済への誘いでもある。

こうしたサステナブルな考え方は、今やテーラーメイド以外にもいえることだ。
マルティン・ハイデッガーが語った「詩人的に人間は住む(dichterisch wohnet der Mensch)」という呼びかけとも、深くつながっている。
住まうとは、単に空間を占有することではなく、モノや場所の「在り方」に、心を配ること。その実践がここでいう「RE-DESIGN」だ。
建築においては、歴史的な建物の修復する時、全てを現代的に再生する必要はないという。古びた箇所が、歴史を象徴する役割を担うからだ。

ユネスコの世界遺産に登録されているシエナでは、老朽化した地区の歴史を再生する再開発を行なうことで、美しい街を守り続けているという。
また、デンマークの首都 コペンハーゲンの海辺の工業地帯に、2019年に建てられた、廃棄物エネルギー・プラント「コペンヒル(CopenHill)」も興味深い。

内部は、コペンハーゲン周辺の約10万世帯へ供給する再生電力用の最新鋭の巨大タービンが回る発電所でありながら、なんと屋根には、人工スキー場を設け、さらにはジョギング、ハイキングやボルタリングもできるレクリエーションセンターとしても稼働している。
世界初のカーボンニュートラル都市になるという、目標を掲げる都市に誕生した、人と自然を繋ぐ先駆的な建物だといえる。

さらに、ヴァルテル・マリオッティ氏は、「金継ぎ」の原理は、物質的なものだけでなく、人や社会にもいえる考え方だと話す。
そうした感情は、日本が誇る作家の大江健三郎氏や、三島由紀夫氏、村上春樹氏といった、日本の美意識を体現する作家の作品からも理解することができると語る、ヴァルテル・マリオッティ氏。
「侘び寂びの思想が示すように、美は完璧さではなく不完全さの中に宿ります。荒廃した都市空間は、歴史の重なりを生かすことで再生でき、使い込まれたモノは、意識的な修復によって、新たな価値を得ます。一見時代遅れに見えるアイデアも、創造的な統合によってよみがえるのです」と、熱意をもって語る、ヴァルテル・マリオッティ氏。
さらに、「日本の著名な作家の作品からも分かるように、困難を乗り越えた先にある人々の関係は、深いものです。“耐久性のある再生”は、今を生きる私たちの考え方を、根本から変えるきっかけになるでしょう」とも話す。
日伊の感性が交差する時、「RE-DESIGN」とは、こうした物質と技術の狭間にある、倫理的かつ美学的な意味を成す。本物の美へと向かう、持続可能な視点や実践こそが、クリエイティブで再生的なデザインへとつながるのだ。
デジタル化が進む今こそ、技術のための技術ではなく、一度原点に立ち返ることができれば、シンプルで意義のある生き方を実践することができるようになるだろう。こうした他を尊重する丁寧な暮らし方が、サステナブルな未来につながるのだろう。


































