湾岸戦争でBレーション(野外炊事場で調理することを前提とし、生鮮食品や冷蔵・冷凍食品を使用せず、缶詰や保存食を用いた戦闘糧食)を食べる兵士たち。テーブルのそこかしこにチリソースが置かれており、時代が進んでも戦場の食卓を彩る役目に変わりはない様だ。この戦争では兵站能力をフル活用したにも関わらず戦闘部隊への温かい食事が遅れ、何十日もMRE漬けになった兵士が続出した。
ベトナム戦争で兵士のためのレシピブックを作ったマキルヘニー社。タバスコがミリメシの一員となって喜んだのも束の間、機能性は向上したものの味については未だ兵士たちのお墨付きを得られないMREを見て黙っているワケにはいかない。MEAL READY TO EATをMEAL READY TO EXCITEに変身させるために再び作られたレシピブックを見るとレーションとタバスコの絆の深さが見えてくる。
MRE(Meal Redy-to-Eat, Individual)の登場
レトルトパウチの採用で戦場メシ=缶詰という常識を打ち破ったMREは小型で軽量、開封も簡単で実に機能的。採用後も改良が重ねられメニューも増えたこのレーション、果たして兵士たちの評価はいかに。
MREの中身は従来のMユニット、Bユニット、Dユニットに当たるメインコース、ブレッド、デザートの他にサイドディッシュも用意され、1993年には専用ヒーター(左下)も加えられた。採用当初はMCIと同じ12種類だったメニューは1998年以降24種類に倍増している。
MRE専用ヒーターは使い捨てカイロと同じ原理を応用し水を入れて待つだけでレーションを温められる優れ物。パッケージにその使用方法がプリントされている。FRH(Flameless Ration Heater=無炎レーションヒーター)と名付けられた新メンバーの誕生で戦場の食事はさらに手間要らずに、そして安全になった。
2006年にはFRHに入れて飲み物を温めるベバレッジバッグが登場し、これを使えば温かいココアやコーヒーも楽しめる。
MREは従来のCレーションと同様トレーや皿を使わず直接スプーンですくって食べる場合がほとんど。因みにこのスプーンはイラクで近接格闘に巻き込まれたレンジャー隊員にナイフ代わりとして使われ相手を倒した実績を持っている。
塩や砂糖、ガムなどが入った昔ながらのアクセサリーパックは1988年からタバスコのミニボトルが加えられ、ベトナム戦争で兵士を支え続けた小さな相棒は晴れてミリメシの公式メンバー入りを果たした。
MREは毎年の様にメニューが変更され、採用時から生き残っているのはビーフシチューしかない。2010年からはベジタリアン向けのメニューまで登場したバラエティー豊かな顔ぶれの中でも写真のチリビーンズは2006年から続く定番中の定番で、サイドディッシュはメキシカンコーン。飲み物のバニラシェイクは不味くはないがバニラの風味はあまりしないらしい。毒々しい色のスプレッドはストロベリージャムで、真っ赤に輝くのはデザートのシナモンキャンディーである。
2003年からメニューに加えられたローストビーフは翌年に野菜和えとしてリニューアルした後2012年には廃盤となってしまった。サイドディッシュはドライフルーツのクランベリーでスプレッドはピーナツバター、デザートのクッキーに見える粒々はなんとM&Msのチョコレートで、心使いは嬉しいが普通のチョコクッキーではいけないのかという疑問が一瞬頭をよぎる。飲み物のココアは人気の品だが甘さが半端ではないという意見もある。
なぜ、MRE用レシピブックが必要になったのか?
MREの味については辛口のコメントが多く、頭文字ももじったMeal Rejected by Everyone(全ての人々に拒絶された食べ物)やMaterials Resembling Edibles(食べ物の様な物)など数々の有難くない呼び名を付けられてしまった。特に兵士たちを戦慄させたメニューはオムレツで、そのスポンジの様な食感とぼやけた味は調味料を総動員しても食べるのに勇気が要るという。これらの声と共にレシピブックに助けられたという意見も良く聞かれ、戦場の食事を巡る戦いは当分終わりそうにない。
そこでマキルヘニー社のレシピブックが登場した次第。以下にその一部を紹介しよう。
これが『非公式MREレシピブックレット (戦地で)移動中の食事を楽しくする方法』 の表紙。
このページでは、最初にこのレシピブックで紹介しているレシピはすべてMREにパッケージされている材料を使用していることが書かれている。続いて、ビーフシチュー、チーズ、タバスコをよく混ぜ合わせ、クラッカーにのせて食べる「空挺部隊のポットラックパイ」 と、ココア飲料粉末、フリーズドライコーヒー、熱湯をよく混ぜ合わせた、寒さを吹き飛ばす「キャンティーン ココアモカ」 のレシピを紹介。
ポークチョップにリンゴとタバスコを加えた「フォートポーク ポーク&アップル」 、別名「ポーク・ア・ラ・ノルマンディー」 と、バターソース麺、チーズスプレッド、タバスコを混ぜ合わせた「核兵器級に刺激的なヌードル&チーズ」 のレシピを紹介。
プレッツェル、ナッツミックス、シリアルビスケットを混ぜ、さらにタバスコを振りかけてよく混ぜ合わせる「ペンタゴン・パーティーミックス」 と、細かく裂いた鶏肉、パイナップル、タバスコを混ぜ合わせ、焼きそば麺にトッピングする「チェックポイント チキンチャウメン」 のレシピを紹介。
ビーフステーキを1.3cm角に切り、好みでポテト、タバスコ、チーズを加えてる「フォックスホールハッシュ」 と、ブラウニーの上にピーナッツバターを塗り、ピーナッツとM&M’s® で飾った「ピーナッツバター・ビバークブラウニー」 のレシピを紹介。
ビーンズとタバスコを混ぜ、スナックパンに塗り、チーズをサッとかけて溶かした「ビーンウィッチボンバー」 と、ケーキを半分に切り、片方にジャムを塗り、もう片方のケーキを乗せたらミックスフルーツをトッピングする「トゥッティフルッティ・コンバットケーキ」 のレシピを紹介。
レシピページが終了し、最後の見開きには3コマの漫画が。◎1コマ目「例の『カブのキャセロール・クッキー』をもう少しもらおうか、クッキー(料理番の名前)」「あいよ」 ◎2コマ目「サージ(スノーケル軍曹)、あんな味のしないもんをどうやって平らげるんです?」「ひどい料理人に対抗する、とっておきの解決策(隠し味)があるのさ」 ◎3コマ目「タバスコだよ」
最終ページでの上官のひと言。「なあクッキー(料理番)、またやってのけたな。新しいレーションを上層部が何と呼ぼうが勝手だが、俺たちの仕事は、それを楽しく食えるようにすることだ。(なにしろ奴らに食わせなきゃならん)」