大規模シミュレーター体験施設「シムピットストア」

軽飛行機ベースでの初心者でも扱えるフライトから、実機同様のF-35BやF/A-18のコックピットに座ってのリアルなフライトシミュレーターでのフライト体験までが楽しめる施設「シムピットストア」が、東京の葛西にオープンしました。シムピットストアは、長年にわたり防衛省や航空宇宙産業、名だたる企業に業務用シミュレーターなどを納入してきたエイムス株式会社が運営する施設で、同社が培ってきたプロフェッショナル向けの技術とノウハウを一般の人にも開放し、手軽に空の散歩や戦闘機の操縦、レーシングカーの運転までを体験してもらおうというものです。

店舗には飛行機6台、自動車2台計8台のシミュレーターが「ピット」というかたちで設置されており、子どもやまったくの初心者から実機の知識を持つマニアまで、利用者の好みや操縦スキルに合わせて幅広く対応することができます。

たとえばピット1は「初心者・ファミリー用フライトシュミレーター」で、ヨーク(操縦輪)の操作だけで簡単に飛行を体験できるほか、ピット5は旅客機、ピット6は本格的な計器パネルが再現されたセスナ172のシミュレーターになっています(ピット2、3はレーシングカーとF1)。また戦闘機のピットAとピットBは個室となっており、それぞれF/A-18CホーネットとF-35BライトニングⅡのフルスケールのコックピットシートが用意されています。スティック(操縦桿)やスロットルはもちろん、コックピットのボタン・スイッチ類、MFD(多機能ディスプレイ)も機能し、プレイヤーは実機とほぼ同じ物理空間で操縦を体験することができます。

取材で操縦を体験させてもらったF-35Bは、同機の特徴とも言える大画面タッチ式ディスプレイも操作可能で、21個ものメニュー画面から飛行状態に応じて適切な画面を呼び出して操作します。高度に自動化されている反面、状況に応じてタッチ式ディスプレイというデバイスを駆使して第5世代戦闘機独特の操縦をこなす必要があります。その操作はじつにリアルで、B型ならではのSTOVL性能を使っての、空母(本来なら強襲揚陸艦ですが)の甲板への垂直着艦も体験できます。

また、8台のピットすべてに202°の超広視野をカバーするシムピットスクリーンが採用されており、シートに座ると両目の視界の隅にまで景色が広がります。その没入感は通常のシミュレーターのモニターとは別次元で、実機に乗っているかのように景色が視界の外に消えていく光景は、ときには飛行機酔いを感じてしまうほどです。

そして「シムピットストア」には、パイロット経験のあるアドバイザーが常駐していることも大きな特徴です。アドバイザーは航空自衛隊や民間航空会社で活躍していたOBで、いずれも戦闘機や旅客機での豊富な操縦経験を有しており、シミュレーターの基本操作やプレイの補助だけでなく、プレイヤーが望めば操縦中に実機の知識をもとに解説やレクチャーもしてくれます。

写真中央の4名がアドバイザーで、前列左から相澤 司氏、田中久一朗氏、平賀一範氏、松﨑清伸氏。(後列右はエイムス岩井代表、同左は海老原店長)。相澤氏はF-4飛行隊での長い飛行経歴のほかT-2での教官経験を持っており、アメリカでT-38の教官コースも卒業しているとのこと。田中氏はF-4、F-15での部隊勤務に加え、芦屋基地のT-1での訓練の教官も経験しているそうです。また平賀氏と松﨑氏はANAの出身で、平賀氏はボーイング727、767、747-400に搭乗、その後IBEXに移籍しCRJにも搭乗し、社内教官も歴任した一方、松﨑氏は727、737、767、777と乗り継いで、ANA退職後には千葉科学大学でパイロットコースの教鞭にも立っていたそうです。フライトシミュレーター歴の長いベテランユーザーにとっても、こうしたアドバイザーの指導による操縦が貴重な体験になることは間違いありません。

シムピットストアでのシミュレーター体験には、公式サイト(冒頭のQRコードまたは下記リンク)からの事前予約が必要です。前述のような多様なコースが30分、3,960円(税込)から設定されており、それぞれのレベル・要望に応じてセレクトできます。また店舗にはレクチャールームなどもあるため、将来的には広い空間を利用して航空会社等の研修や企業のプロモーションなどに活用したり、一般向けに団体での貸し切りやイベント等が開催するようなこともできればと考えているそうです。

アドバイザーの方々もそれぞれ、シムピットストアでのお客様対応を楽しみにしているとのこと。

「私は大学の航空部でグライダーに乗ってフライトの感動を覚えました。ここに来てくださる小中学生や高校生のお客様にも、空の楽しさや飛行機の魅力に気づいてもらえるとうれしいですね。ここでシミュレーターを体験したお客様が、パイロットデビューしてくれたりしたら最高です」(平賀氏)。

「子どものころ、航空大学校の飛行機が飛ぶのを見て憧れていました。今はそうした飛行機の操縦がバーチャルでできる。ぜひ体験しにきていただきたいと思います」(松﨑氏)。

「身近に飛行機のない環境で育ったのですが、今ならそういった人にもシミュレーターでその魅力を味わってもらえます。とくに戦闘機の操縦なんて、非日常の体験です。カッコいい部分や楽しい瞬間もありますが、逆に厳しい部分、そして世界を取り巻く難しい情勢などもあります。そんないろいろなことを、シミュレーター体験を通じて感じてもらえればうれしいです」(相澤氏)。

「実際の自衛隊の訓練では厳しい訓練を積み重ねて一人前のパイロットに育て上げますが、ここではいらっしゃるお客様の要望を汲んで丁寧にイチから説明していきますので、ご安心下さい(笑)。あなたもマーヴェリック、トップガンの世界を体験しにきてください」(田中氏)

シムピットストア
134-0085 東京都江戸川区南葛西1-12-16
ユーセンスビル2F
TEL:080-4751-5023

取材協力:布留川 司

  • 1967年千葉県生まれ。1991年4月に(株)文林堂入社。『航空ファン』『世界の傑作機』『航空ファン・イラストレイテッド』など航空雑誌の編集に携わり、2022年10月から『航空ファン』編集長。
  • https://note.com/bunrindo_kokufan

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