
今年の夏、イギリス海軍空母「プリンス・オブ・ウェールズ」が来日しました。
「オペレーション・ハイマスト」と命名された長期展開作戦の一環で、派遣期間は実に8ヵ月にも及びます。空母打撃群「CSG25」を編成し、イギリスを出港後、インド洋を経て、太平洋地域へと遥々やってきたのです。
主役となった「プリンス・オブ・ウェールズ」は、「クイーン・エリザベス」級の2番艦として2019年12月10日に就役しました。満載排水量は6万トンを超えており、イギリス海軍史上最大の軍艦でもあります。
ネームシップである「クイーン・エリザベス」は、2021年に初来日を果たします。しかし、世界では新型コロナウイルス感染症が暴威を振るい、混乱の残る中での来日となりました。
そのため、大々的な出迎え行事や一般公開などは一切行われず、ひっそりと横須賀米海軍基地へと入港し、燃料や食料などの補給を受けたのち、これまたひっそりと出港していくという、実に寂しいものとなってしまいました。
今回はそれとは大違い。大規模な出迎え行事、各種式典や研修などが目白押し。イギリス海軍側もそれに応えるべく、日本滞在中は、空母を広告塔とした積極的な広報活動を繰り広げました。
そもそも、イギリス海軍が遥々インド太平洋地域へと展開してくる目的は何でしょうか?
一番の目的は、日本だけでなく、太平洋に面した国々と交流を深めることにあります。
欧州各国軍はNATOとして一心同体です。…有事の際にも一枚岩となれるのかは疑わしい所もありますが、いずれにせよ、欧州では安全保障上の強固な絆があります。
一方で、太平洋地域との軍事的繋がりは、距離的な溝がある分、希薄です。しかし、イギリスにとっても、東シナ海をはじめ、西太平洋地域へと進出を続ける中国は厄介な存在です。太平洋地域の平和と安定に名を連ねることは、イギリスにとって非常に重要な戦略であると考えているのです。
その目的を達するため、まずは、7月13日から26日の間、オーストラリアにて開催された米豪主催多国間共同訓練「タリスマン・セーバー25」へと参加しました。
これを終え、日本を目指す途上、西太平洋上にて8月4日から8月12日にかけ日英米豪西諾共同訓練を実施しました。こちらには海上自衛隊から護衛艦「かが」「てるづき」が、米海軍から空母「ジョージワシントン」が参加しました。訓練の一環として、イギリス軍のF-35Bが「かが」に着艦するという史上初の出来事もありました。
基本的に空母は、単艦での行動はしません。空母を守るため、防空能力の高い艦艇やマルチに戦える多目的艦などを従えます。それが空母打撃群「CSG」です。
今回の「CSG25」は、「プリンス・オブ・ウェールズ」を中核として、原子力潜水艦「アスチュート」、45型駆逐艦「ドーントレス」、23型フリゲート「リッチモンド」、タイド型補給艦「タイドスプリング」「タイドフォース」、そしてスペイン海軍のアルバロ・デ・バサン級フリゲート「メンデス・ヌニェス」、ノルウェー海軍のフリチョフ・ナンセン級フリゲート「ロアール・アムンセン」という陣容でした。ただし、「アスチュート」は別行動をとったのか、途中からその名は消えました。原子力潜水艦の行動はトップシークレットなので、それも当然と言えば当然です。なお「メンデス・ヌニェス」も、オーストラリア出港後、CSG25と別行動をとり、一足早く日本を目指し、7月24日に海上自衛隊横須賀基地へと入港しました。7月27日に横須賀基地を出港すると今度は7月29日に海上自衛隊呉基地へと入港しました。



8月12日、ようやく「プリンス・オブ・ウェールズ」が米海軍横須賀基地へと入港します。一方、「ドーントレス」「ロアール・アムンセン」は海上自衛隊横須賀基地へと入港しました。ここで、乗員たちは休息を取ります。後の記者会見にて、「プリンス・オブ・ウェールズ」艦長・ウィリアム・ブラケット大佐は、「(横須賀停泊中に)念願だった富士山登頂に行ってきた。乗員の中には沖縄旅行に行った者もいる」と語っております。日本を満喫できたようで何よりです。

「ロアール・アムンセン」については、一旦8月19日に東京国際クルーズターミナルへと入港しました。横須賀から東京までの区間を使い、関係者を招待して体験航海を実施したようです。8月22日には再び横須賀へと戻りました。

8月28日、「プリンス・オブ・ウェールズ」は、イギリス大使館関係者や招待客、一部記者を乗せ横須賀基地を出港、同日東京国際クルーズターミナルへと入港しました。ここでの停泊中では、艦内にて安全保障に関するフォーラムや武器見本市を行いました。また事前応募制で一般公開も行われたのですが、なんと90人の募集枠に対し、4万人もの応募があったそうです。


こうして、「プリンス・オブ・ウェールズ」を含むCSG25は、9月2日に東京港や横須賀基地を続々と出港していきました。日本列島に沿って北上し、津軽海峡を抜け、日本海側へと出て、九州まで南下するという日本一周をした模様です。
そして、9月9日から9月14日までの間、東シナ海から西太平洋へと移動しながら日英米豪加諾共同訓練を実施しました。こちらには再び護衛艦「かが」が参加しました。これが終わると、CSG25はようやく帰路に着きました。


































