これからの未来を象徴する大屋根リング 建築家 藤本壮介氏インタビュー【万博ズームアップ】

万博会場の最大の目玉になるのが、ギネス世界記録™に世界最大の木造建築物として認定された大屋根リング。設計監修を手掛けたのは、会場デザインプロデューサーを務める、建築家の藤本壮介氏。大屋根リングについて詳しく話を聞いた。

写真/熊谷義久 文/モノ・マガジン編集部

近年海外ではサステナブルな建築として、大規模な木造建築が推奨されているという。「日本には、1000年を超える木造建築の伝統があり知見もあります。そこで考えたのが、清水寺にも使われた伝統的な貫(ぬき)接合に、現代の工法を加えた建築でした。くさびに金属の部品を使いましたが、この現代的なアップデートが大変でした」とも語る。大屋根リングは会場の主動線として円滑な交通空間であると同時に、雨風、日差し等を遮る快適な滞留空間として利用される。開放感ある大きな通路が広がる円環状の建物は、ベンチがあって休憩もでき、歩いているだけでも楽しめる。上部の展望台では、各国パビリオンを見下ろしたり、大阪の眺望を臨むこともできる。©大林組
※最大の木造建築物(2025年3月4日、大阪市此花区夢洲)

 1970年代と比較して約2倍もの参加国が一堂に会する今万博。世界の約8割の国々が大阪に集まるというから驚きだ。

「プロジェクトが始まったのは、2020年春。感染症が始まった時期です。“分断” という言葉がよく使われた『分断の時代』に、ひとつの場所に集まる意義が高まりました。そこで、世界がリアルにひとつに繋がることができる場所を実現しようと考えました。小さな敷地なので混雑しないように、円環状の建物に決めました。人々が分散しながら過ごせて、さらに各国パビリオンを囲む円環状の建物の回遊導線には、雨や日差しを避ける屋根も必要です。その結果、人と人が繋がりあえる、希望の未来を示すような、大屋根リングの構想が浮かんだのです」と話す藤本氏。

©大林組

「静けさの森」を真ん中に置いたことも、意味があるという。「多様性の時代、必ず皆が通ることで寛げる場所を作りたかった」と、藤本氏は語る。「しかも植えられている木は、万博記念公園や大阪城公園などに生えていた木を選定しています。適正な環境で木が息を吹き返す。本万博のテーマである『いのち輝く未来社会』にも繋がります」。

日本の神社仏閣などの建築に使用されてきた伝統的な貫(ぬき)接合に、現代の工法を加えて建築している。大屋根リングの柱と梁は、柱をくり抜いた開口部に梁を差し込む貫接合により組み立てられている。©大林組

 まだ議論中だというが、将来的に大屋根リングを後世に残していきたいと思っているという藤本氏。

「万博を体験した若い世代の人々が、ひとつに繋がりあう世界を目の当たりにして、国と国、人と人とが繋がっていくという感覚をずっと記憶していってほしいと思ってます。70年の大阪万博を見て、人生が変わったという人が多くいますが、そんな体験を若い人にもしてほしいです」

 「世界中がバラバラになり始めている、何とも不安定な現代。そんな中、世界の沢山の国がひとつの場所に集うということは、万博が本来本質的に持っている価値だと思います」

 「世界の知らなかった文化を目の当たりにした70年代とは違う感覚で、リアルに人と出会い、知らないことを実体験できる場所になるのではないかと考えています。人々が衝撃を受けて、50年先、100年先に繋がるような未来を作っていってほしいです」と話してくれた藤本氏。世界の多様化をも意味する今万博。これまでにない新たな視点で、世界的な建築物である大屋根リングに触れてみたい。

建築家 藤本壮介氏
東京大学工学部建築学科卒業後、2000年藤本壮介建築設計事務所を設立。2014年フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞(ラルブル・ブラン)に続き、2015、2017、2018年にもヨーロッパ各国の国際設計競技にて最優秀賞を受賞。国内では、2024年には「(仮称)国際センター駅北地区複合施設基本設計業務委託」(宮城県仙台市)の基本設計者に特定。

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