格闘王・前田日明さんの葉巻道


1980年代から1990年代にかけて列島を大興奮の渦に包んだ、伝説的プロレスラーのひとりとして誰もが知る前田日明さん。その一方で無類の読書家で広く深く趣味教養の世界にも精通するが、葉巻もそのひとつ。「オレの人生に葉巻がないなんてあり得ない」と断言する前田さんが考える葉巻道、そしてダンディズムとは?

写真/青木健格(WPP) 文/下川冬樹

前田日明
Akira Maeda

1959年生まれ。元プロレスラー。博学、多趣味、最強の肉体と志をもつ格闘王。
空手を皮切りに1977年新日本プロレスでデビュー。その後UWF、リングスを経て
1999年に現役を引退。リングスCEO、HERO’Sスーパーバイザーを務めた後、
2008年に第2次リングスをスタートし、『THE OUTSIDER』をプロデュース。
プライベートでは葉巻を筆頭に多彩なジャンルでの収集癖も。
「好奇心旺盛で、これだ! と思ったら、なんでも集め出す。
なんでこんなに収集癖があるのかなと思ったら、
若いころに読破した“ハヤカワ・ミステリ文庫”の影響なんだよね(笑)」

■吉田 茂とボー・ブランメルから多大なる影響を受ける

お会いするなり、「吸いながらでもいいかな?」と葉巻を燻らし始めた前田さん。「どハマりしていた頃は1日中吸ってたよね。朝起きて、すぐ“チャーチル”とか(笑)」。葉巻を吸う姿もダンディな前田さん、葉巻との出逢いは英国で武者修行していた23歳のときだった。

「当時はマカロニ・ウエスタンが全盛で、クリント・イーストウッドが劇中で葉巻を吸っている姿がカッコよかったんだよね。それでレスタースクウェアの映画街の横に葉巻ショップがあったから買ったんだよ。どうせなら一番良いモノを! ってことで選んだのがキューバン・ダビドフのドンペリニヨン。当時は毎日のように試合があってすぐキャッシュが入るから、23歳の若造がカッコつけるくらいのお金はあったんだよ。ただ、吸い方を知らなくて煙を肺まで入れてしまって……。1/3ほど吸って気分が悪くなって。頭は痛いし吐くしでエラいめに遭って、欧米人と東洋人ではこんなに違うのか? と思い込んじゃって(笑)」

それ以来、葉巻から遠ざかっていたが、’90 年代前半に1冊の書籍と出会ったのをきっかけに再燃。

「小説吉田学校から吉田 茂に興味をもったんだよね。それで、彼の娘の麻生和子さんが書いた『父 吉田 茂』を読んだら、政治の舞台裏が出てくるのかと思いきや全編ほぼ葉巻の話でね。そのなかでも印象的だったのは親子でパリのサミットに行ったとき、葉巻を吸っている紳士がいて、すれ違った瞬間に吉田 茂が和子さんに『彼が吸っている葉巻の銘柄を聞いてこい』と言った話。和子さんが銘柄を聞きに行くと『お父さんは大変ご立派な趣味をお持ちですね』と言われたとか。その辺の会話が面白かったのと、ブランメルきっかけでダンディズムに興味を引かれていたので、その会話が何ともダンディだなと感じたんだよね」

その後、海外に行くたびに葉巻を買いあさったが、保管方法では致命的ともいえる笑えぬ失敗も。

「吉田 茂の時代はまだヒュミドールがなかったから、代わりにキャベツの葉を入れていたらしいんだよね。みんなやっているもんだと思って、自分も葉巻を保管する際にキャベツの葉を入れておいたわけよ。そしたら、知人に『君の葉巻は変な味がするね』と言われてキャベツの話をしたら、『ダメだよ、ニオイが移っちゃうじゃない』と諭されたりとかね(笑)」

■気持ちのいい冷静な時間がたまらない

1999年にプロレス人生に終止符を打った前田さん。2002年のリングス終了、ヒーローズで再始動する2005年まではむさぼるように葉巻を吸ったと語る。

「最盛期は葉巻に年間300万円くらい使ってたかな。主に海外で葉巻を買ってたんだけど、製造から20年以上経ったオイリーな葉巻が好きで熟成された葉巻はコクが違うんだよね。ちなみに、海外に行くときはサムソナイトのでっかいスーツケースふたつ持っていって、中身は現地で買った葉巻でパンパンみたいな感じだったよ」

そこまでのめり込む理由は?

「葉巻は酔うんだよね。ただ、頭は冴えてる状態。わかりやすく言えば、小学校時代、プールから帰って家で扇風機にあたって昼寝しているような、なんともいえないまったりとした感じかな。だから、孤独な大企業の社長がひとり黙って葉巻を燻らす気持ちもわかるよね。葉巻1本あれば、あとは何もいらない。チャーチルサイズはかのウィンストン・チャーチルがキューバにオーダーメイドしたのが由来で、彼は名うての短気頑固者だったんだけど、葉巻を吸っているときだけは短気がおさまるとかね」

さらに、前田さんによれば葉巻は熟成するのだとか。

「葉巻は熟成するんだよね。適湿適温をキープした葉巻は、超高級な鰹節のような香りがするんだ。鰹節といっても、削る前の塊のやつね。自分はできるだけ最後まで吸いたいからこまめに吸った後に息を吹いてニコチンを飛ばすなんてこともするんだけど、おかげでカシミアのセーターが火の粉で虫食いみたいに穴だらけになったり。あと、夏場にケースへ水を入れてしまって、水分を吸わせすぎて大量の葉巻をダメにしたこともあったよね(笑)」

ユーモアあふれる失敗談も含めて、知的好奇心の高さと博学ぶりを披露してくれた前田さん。

「自分たちの世代で高校時代に武道をやっていた人間は、本に埋もれてた人が多かった。僕は最初は戦記モノだったんだけど、空手を始めて先輩に勧められて読んだのが“太宰”だったんだよね」

葉巻やコーヒーなど道具にもとことんこだわる性分なのだそう。

「ハヤカワ・ミステリ文庫が好きでね。あれってモノの情報に溢れていて服や道具はどこの店であつらえたとか、どういう職人がこういう材料でつくったとか多いじゃない。それを意識したわけではないけど、僕もウイスキーはちょっと変わった年代のモノや、ほかにも使い道のない収集物がどんどん増えちゃって。葉巻の道具も家にはごっそりあるんだよね」

■自分で熟成させて育ててついニヤニヤしちゃうね

葉巻の達人である前田さんから、これから葉巻を始めたいビギナーへのアドバイスをぜひ!

「太くて長い葉巻ほど煙を低温で味わえるからマイルドでうまい。個人的に、今まで吸ったなかでの好きな銘柄は、キツい葉巻の2大巨頭であるボリバーのスペシャルセレクテッドとパルタガスのルシタニアスかな。ただ、最初はアメリカンシガーとか軽めのものから入るのがいいかもしれないね。あとは吸い方も大事。葉巻は生まれたての我が子に、そっとキスする感じで吸ったほうが断然うまいんだよね」

どんなときに葉巻を嗜むのが、一番気持ちいいですか?

「考えごとをしているときがいいね。葉巻はある種の精神安定剤だから、気持ち良く酔っているのに頭はちゃんとはたらいていて冷静。まさにリラクゼーション。一度、その愉しみを知ると、何をするにも葉巻がないと始まらないんだよね。あと、自分で熟成させていく愉しみもあるよね。どんどん育っていく自分の葉巻を見て香りをかいで“あ~、熟成しているな”って悦んでいたら、女房に“何ニヤニヤしているの、バカじゃない?”とよく言われるけどね(笑)」

わかるわかる、その感じ。ダンディズムの点でのメリットも⁉

「吸っているうちに葉巻のほうから自分の姿にハマってきてくれるのはあるよね。今の自分に足りないところにバチっとハマるんだよね、葉巻が。個人的には、今は社会全体が少し子どもっぽくなってきているかなという気もしているんだけど、背景には親になった経験のない人が増えていることもあると思っていて。子どもができて、“なるほど、俺も大人になったな”と思うことってあるじゃない。僕も若いころは新幹線で赤ん坊が泣いていると“困ったなぁ”って感じだったけど、親になってからは“あれっ、オシメかな、ミルクかな”って考えられるようになったからね」

最後の質問。そんな前田さんにとって“葉巻の魅力”とは?

「落ち着いた時間を与えてくれる道具。リラックス感もあるし、ひと区切りつけて、じゃあ次にあの件はどうしようかと考えをめぐらせるときとか、いろいろな場面に対応するんだよね。紙巻たばこだと吸える時間が短いから火をつけたり消したり忙しないけど、葉巻は1~2時間たっぷり愉しめるし。頭の回転を良くしてくれる、とても有能な“秘書”ってところかな」

■前田さんの膨大な葉巻コレクションのなかでユニークなのが『クレブラ』。「3本組になっているものをほどいて1本ずつ吸う葉巻。20年くらい前にキューバでつくりたてを買ったから、今がいい塩梅なんじゃないかな」

■写真はコイーバをはじめとする、自宅の葉巻コレクションのごく一部。現在でも1000本弱のストックがあるのだとか。「子どもが生まれたときに”こんな燃えるモノに年間200~300万円もかけてどうするのっ! と女房に吊し上げられたから、最近はほとんど買ってないな(笑)」。

■葉巻コレクションに加えてダビドフのバーナーや専用のカッターなど、こだわりギアも多数所有。「愛用品ってわけではなくて、たまたまカバンに入っていたモノなんだけどね。バーナーは彫金用のものでも充分。専用のカッターはあったほうがいいかもね」

YouTubeにメールマガジンに書籍執筆まで多方面で活動中!

無類の読書好きから発展した多趣味、博学ぶりをフル活用したYouTube、メルマガ配信が大好評。メルマガでは運気が上がる初詣の仕方などの時事ネタを、YouTubeでは葉巻道はもちろん、ノンジャンルで前田日明節を展開している。しばらくオカルト方面のネタが多かったということで、オカルト作家の山口敏太郎氏と最強タッグを組んだ著書が3月6日に発売。最近は習字に開眼。「李白の詩を引用して葉巻の詩(うた)もつくったんだよ(笑)」。

前田日明の『日本人はもっと怒ってもいいはずだ』

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