菊池雅之のミリタリーレポート
アジア太平洋地域の安全保障に欠かせない!
フランス軍と陸自の交流 後編


陸上自衛隊のチヌークから展開するフランス陸軍兵士たち。第6軽機甲師団隷下の歩兵部隊や外人部隊が来日した。

日仏防衛協力の賜物ARC21

 統合幕僚監部は、10月6日に「フランス軍統合参謀長との電話会談について」とのプレスリリースを出しました。10月4日に統合幕僚長山崎幸二陸将と仏統合参謀総長ティエリー・ビュルカール陸軍大将による電話会談を行ったという内容でした。ここで、両者は、厳しさを増す安全保障環境について意見交換をし、2021年3月から5月にかけ、『ARC21』をはじめとする日仏間で行われた諸訓練の成果を話し合い、その意義について確認したとのこと。最後は、日仏間の連携を進めていくことで一致したそうです。

 日仏間の防衛協力はかなりの急ピッチで進んでいます。それについては前編を是非お読みください。

 その一つのシンボルとなったのが、2021年5月11日から17日に渡り、九州及び同周辺海域において行われた『ARC21』だったのです。日本国内において、フランス陸軍が訓練するのは初めてのこと。ましてや日仏に加え、米豪軍も参加した多国間訓練ともなり、自衛隊が新たなステージへと進んだことをも意味します。

 訓練に先立ち、5月9日、佐世保港に仏揚陸艦「トネール」、フリゲイト「シュルクーフ」が入港しました。海上訓練は東シナ海、陸上訓練は、相浦駐屯地(長崎県・佐世保市)や霧島演習場(宮崎県・えびの市)と2つのパートにわかれています。この陸上訓練に参加するため、「トネール」にはフランス陸軍第6軽機甲師団の兵士たちが乗り込んできました。その中には、誉れ高い外人部隊も含まれておりました。興味は尽きない陣容です。

 フランス陸軍を出迎えたのは、水陸機動団と米海兵隊第3偵察大隊等でした。この顔ぶれからも分かるように、今回は水陸両用戦が主となっています。なお、オーストラリアについては、海上訓練のみの参加となりました。

 こうして、5月11日、相浦駐屯地にて、「ARC21」開会式が行われました。

陸自水陸機動団のバックアップの元、フランス陸軍が部隊を進める。

訓練スタート

 開会式直後より、陸上訓練はスタートしました。相浦駐屯地内では、ヘリボーン(ヘリによる展開)訓練、市街地戦闘訓練など、課目ごとに実施していく機能別訓練が行われていきました。しかし、これら機能別訓練は、残念ながら報道公開されませんでした…。その代わりとして、防衛省では、TwitterなどSNSなどで写真をアップしていきました。

 そして、5月14日、「トネール」をはじめ、日仏米豪艦隊が、佐世保を出港していきました。海上訓練のスタートです。

 日本からは護衛艦「いせ」、「あしがら」、「あさひ」、「こんごう」、輸送艦「おおすみ」、ミサイル艇「おおたか」、「しらたか」、潜水艦(艦名非公表)が参加しました。「いせ」が訓練の旗艦を務め、「あしがら」「こんごう」という2隻のイージス艦が脇を固めました。

 アメリカからはドック型揚陸艦「ニューオリンズ」、オーストラリアからはフリゲイト「パラマッタ」がそれぞれ参加しました。

 これら日仏米豪艦隊は、対空戦闘及び対潜戦闘、対空戦闘など、考えられる一通りの“海戦”を戦い抜きました。なお、対艦訓練については、航空自衛隊のF-2戦闘機も参加しました。また、フランスの揚陸用舟艇L-CATを「おおすみ」に収容するなど、日仏間の相互運用性を高める訓練も行われました。

大雨の中、警戒に付くフランス軍兵士。かまえている小銃は、H&K416。
敵が仕掛けた障害を爆破筒で処理しようとしているフランス軍。

大迫力の陸上パート

 本番ともいえる総合訓練が、5月15日から17日に渡り、霧島演習場(宮崎県・えびの市)で実施されました。これまで実施してきた機能別訓練をすべて盛り込んだ巨大シナリオ訓練となっています。

 同演習場内には、無人の街が作られた市街地戦闘訓練場があり、ここを敵に制圧された空港と想定し、日仏米が協力して奪還するというシナリオです。

 しかしながら台風級の大雨が九州を襲いました。鹿屋基地(鹿児島県)にて待機していた米海兵隊のMV-22Bオスプレイは、飛び立つことが出来ず、訓練参加を見送りました。また、「いせ」には、戦闘ヘリAH-64Dアパッチや大型輸送ヘリCH-47JAチヌークが搭載されていましたが、こちらも使うことが出来ませんでした。

その代わりに、あらかじめ演習場に置いたCH-47JAを使い、ヘリボーン訓練を行いました。置きっぱなし(1度何とか飛び立てましたが…)のチヌークの後部ハッチから日仏米隊員たちが展開していきます。そして徒歩にて空港へと進出します。

 敵は地雷を埋めるなど障害を設けていましたが、陸自の援護の元、フランス軍がこの障害を除去していきます。その間、敵は日仏米軍へと攻撃を仕掛けてくるので、それに応戦します。

 最後は、敵が潜伏する3階建てのビルへと集中攻撃していきます。一瞬の隙を突き、仏軍は前進し、建物へと突入していきました。こうして、見事敵の制圧に成功し、訓練は終了しました。

 冒頭のように、日仏それぞれの指揮官は、『ARC21』の成果は十分あった!と考えております。早ければ、1~2年後に、第2回目となる『ARC21』の開催があるかもしれません。その時は今回のお返しとして、陸上自衛隊がフランスへ渡り訓練をする可能性もあります。

霧島演習場内にある市街地戦闘訓練場を敵に占領された空港と想定。フランス軍が最初に建物へと突入していく。
オブザーバーとして訓練を視察するオーストラリア軍幹部。次回こそは、豪陸軍も参加するのだろうか。
  • 軍事フォトジャーナリスト.。1975年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。講談社フライデー編集部専属カメラマンを経て軍事フォトジャーナリストとなる。主として自衛隊をはじめとして各国軍を取材。また最近では危機管理をテーマに警察や海保、消防等の取材もこなす。夕刊フジ「最新国防ファイル」(産経新聞社)、EX大衆「自衛隊最前線レポート」(双葉社)等、新聞や雑誌に連載を持つなど数多くの記事を執筆。そのほか、「ビートたけしのTVタックル」「週刊安全保障」「国際政治ch」等、TV・ラジオ・ネット放送・イベントへの出演も行う。アニメ「東京マグニチュード8.0」「エヴァンゲリオン」等監修も行う。写真集「陸自男子」(コスミック出版)、著書「なぜ自衛隊だけが人を救えるのか」(潮書房光人新社)「試練と感動の遠洋航海」(かや書房) 「がんばれ女性自衛官」 (イカロス出版)、カレンダー「真・陸海空自衛隊」、他出版物も多数手がける。YouTubeにて「KIKU CHANNEL」を開設し、軍事情報を発信中
  • https://twitter.com/kimatype75

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