特撮ばんざい!第76回:あの『ムカデ人間』が、まさかの4K化!? カツロー役・北村昭博インタビュー 「初めてムカデ人間になった時、自分が違う生き物になってしまった衝撃に脳が処理しきれなかったです」

「人間の口と肛門をつなげて究極の生命体を創りたい」
ドイツの人里離れた屋敷に住む外科医、ヨーゼフ・ハイター博士のおぞましき禁断の欲望を描き、全世界を震撼させた究極のインモラル映画『ムカデ人間』。2011年に日本で公開されるや否や、連日超満員の大ヒットを記録。今回15年の時を経て、奇跡の4Kリマスター版となってスクリーンに蘇る! ムカデ人間の “先頭部” ことカツロー役を演じたのは、アメリカで活躍する日本人俳優、北村昭博さん。『ムカデ人間』でアブノーマルな地獄絵図を体現した北村さんにインタビューし、当時の思い出を振り返っていただいた。

取材・文/今井あつし

<あらすじ>
2人の美しいアメリカ人女性がドイツの森の中で立ち往生してしまう。助けを求めて彷徨っているうちに、一軒の大邸宅にたどり着いた。次の日、目覚めるとそこは地下に作られた病室のベッドの上。隣には彼女たちと同じように、日本人男性が寝かされている。家の主であるドイツ人男性は、人類史上始めて人と人の胃腸を繋ぎ合わせて、“ムカデ人間” を創り上げるという野望を抱いていたのだった……。

『ムカデ人間』4Kリマスター版 公式HP

●まさかの4K化にドッキリとしか思えなかった

——今回『ムカデ人間』4Kリマスター版全国公開のニュースをお聞きして、北村昭博さんは最初どのような感想だったでしょうか?

「『ムカデ人間』が4K化? ありえないだろう」という気持ちでした(笑)。しかもシネコンを含めて全国50館で上映と、公開規模が前回よりも大きいので、「何かのドッキリじゃないか」って(笑)。にわかに信じられなかったのが正直なところです。

だけど、劇中でムカデ人間を生み出したヨーゼフ・ハイター博士役のディーター・ラーザーさんがコロナ禍だった2020年に亡くなったんですよね。さらに、日本で『ムカデ人間』の宣伝と配給を担当された伝説の映画人である叶井俊太郎さんも一昨年、天国に旅立たれて……。そういった人たちの情熱が注ぎ込まれた映画であることに間違いはなく、作品そのものに非常な強度がある。今回4Kとして復活することで、まさにムカデのような生命力を感じました。

——今回の4Kリマスター版は非常に映像が鮮明で驚きました。北村さんご自身はすでに4K版をご覧になられたのでしょうか。

いや、まだ観てないですね。公開時に舞台挨拶で日本に呼んでもらえるので、その際に劇場で観客の皆さんと一緒に観ようと思っています。だけど、そんなにも映像が綺麗なんですか。『ムカデ人間』の撮影監督(グーフ・デ・コーニング)はヨーロッパでコマーシャルを手掛けられていた方ですから、この映画も意外と緻密に撮影されているんですよね。「綺麗に見えるは、それはそれで恐ろしいな」と思いながら、4Kの映像をすごい楽しみにしている自分がいます。

——『ムカデ人間』はドイツの博士の邸宅が舞台になります(ロケ地はオランダ)。手入れの行き届いた庭、洗練された室内のインテリアなどを4Kの鮮明な映像で観ると、ナチスドイツ時代にアウシュヴィッツ収容所の隣りで暮らす家族を描いた映画『関心領域』(2023年)を思い出しました。

『関心領域』って、アカデミー賞を受賞した映画ですよね。僕はまだ観れていないんですけど、『ムカデ人間』に登場するハイター博士はアウシュヴィッツで人体実験を行ったナチスの医師(ヨーゼフ・メンゲレ)にインスパイアされたキャラクターですから、何かしらリンクするところがあるのかもしれませんね。美しいものの裏には醜いものがある。反対に醜いと思っていたものがとても美しく見えたり、グロテスクなものに対して愛おしさを覚えたりする。監督のトム・シックスはそういったテーマを狙っていたのかもしれない。だから、映像美にこだわるスタッフを起用したのかな。

ムカデ人間を創造するヨーゼフ・ハイター博士。演者のディーター・ラーザーは北村さんと共に『ムカデ人間3』(2015年)にも出演。ちなみに日本語吹替版では声優の若本規夫が担当した。

●カツローのモデルは亀田史郎!?

——劇中で北村さん演じるカツローは終始、関西弁でがなり立てますが、「火事場のクソ力じゃ!」といった台詞もあって、日本人からすればユーモラスな感じも受けました。当時、日本のワイドショーで話題になったボクシングの亀田3兄弟の父親・史郎氏と、やくみつる氏の口論を参考にされたとのことですが。

『ムカデ人間』はオランダでの撮影だったんですけど、僕にとっては見知らぬ土地にたった1人で乗り込んだこともあって、撮影が始まる前はホテルで過ごすことが多かったんです。そんな中でYouTubeを開いたら、亀田さんとやくみつるさんの動画が上がっていて、むちゃくちゃ面白かった(笑)。言葉のひとつひとつが強烈で、もう最高のエンターテイメントじゃないですか。

僕は高知県出身で、土佐塾という中高一貫の進学校に通っていたんですけど、1学年のうち2、30人ほど関西出身の生徒もいて、僕にとって関西圏の文化は、わりと身近なものだったんですよね。だから、自分の中で亀田史郎さんの関西弁がすんなりと入ってきた。それに高知弁も混ぜてみて、本気でブチ切れてるんだけど、どこか笑える人間がヨーロッパのホラー映画に出てきたら、違和感がありながらも、とてつもないエネルギーを生むんじゃないかと思って、YouTubeを観ながら役作りしていきました。だから、亀田史郎さんにはとても感謝です(笑)。あの動画に出会わなければ、カツローは普通に大人しい日本人になっていたかもしれませんね。

ムカデ人間の概要図! 複数の人間の口と肛門をつなぎ合わせて数珠繋ぎにする。監督のトム・シックスが口にしたジョークが発端だという。

●あまりにもカオスな現場で、羊が悪魔に見えた

——カツローの抵抗も虚しく、物語中盤で手術が行われて、女性2人と合体したムカデ人間となってしまいます。この映画は一部のスタッフには内容を明かさず撮影が進められて、ムカデ人間が初めて映し出される場面では、ショックのあまり涙を流すスタッフもおられたとのことですが。

そんな中で、監督のトム・シックスだけは高揚感に打ち震えていましたね(笑)。自分が思い描いていた世界が現実になった瞬間だったので、「これこそが俺の映画だ!」みたいな(笑)。一方でムカデ人間を生み出したハイター博士役のディーターさんは完全に役になりきっていて、それこそハイター博士そのものが目の前にいるという状態。あまりにもカオスな現場で、カメラのフォーカス(焦点を絞る)担当のスタッフが泣いて、「これが本当に映画なの?」って。

僕自身もムカデ人間になった姿を見て、思いっきり泣きわめいて、鼻水すら流していました。自分が違う生き物になってしまった衝撃に脳が処理しきれず、もう演技といったレベルを通り越したというか。それまで全く知らなかったオランダという国で、馴染みのない現地のスタッフに囲まれているという根本的なシチュエーションともシンクロして、「本当にこの世界はどうなっているんだ?」と。あのぶっ飛んだ状況はいまだに忘れられないです。

——カツローはムカデ人間の先頭部を担います。言ってしまえば、以後の博士とのやりとりは北村さんに一任されたわけですから、相当なプレッシャーがあったと思います。当時のインタビューでは、ホテル近くの牧場に寄ってみたら、黒い羊が悪魔に見えたと仰っていましたが。

それが意外とムカデ人間になること自体、全くノープレッシャーなんですよね。僕はお尻のところにカバーのようなものを履いていて、お尻の穴の部分にゴムの突起物があって、後ろの女優さんがそれを噛んで、その周りを包帯で隠していく。だから、思っているよりも簡単にムカデ人間になれるんです。

だけど、身体の自由が奪われた状態で演技をしなければならないことは精神的に過酷で、どんどん闇に浸食されていくというか。それこそ羊を見たら、「えっ!? 羊の顔って、こんなに怖い顔してたっけ?」みたいな。自分が虫けらになったような感覚に陥って、「もしかして、羊に食われるんじゃないか」とすら思ったんですよね。しかし、俳優として、いろんな感情を経験して表現することが重要だと思うので、そこまで追い込まれたのも良かったと思っています。

B体とC体の口唇部と、A体とB体の肛門部に縫合手術を施す。この衝撃こそ、本作が「狂気の変態」と呼ばれる最大の所以である。

●繊細に作り込まれたカツローの人物像

——追い込まれたと言えば、本作のクライマックスで脱出不可能だと悟ったカツローが神妙な表情になって今までの罪を神に告白します。カツローはヤクザなんですよね?

はい、チンピラ寄りのヤクザですけど(笑)。

——劇中では、特に「ヤクザ」だと口にしていませんが、カツローの告白で非情なアウトローだったことが明かされる。この懺悔は北村さんから監督に提案されたとのことですが。

やっぱり演じるにあたって、そのキャラクターの背景を作り込むことが重要だと思っていて。カツローにしても、今までどういう人生だったのかと考えていくうちに、どんどんとバックボーンが浮かんできました。

実は最初の脚本では、懺悔するなんて一言も書いていなかったんです。むしろ大胆不敵に笑って、最後まで博士に屈しない人物だった。だから「Victory」の「勝つ」で、カツローという名前だったんですけど、僕は「なんか違うな」と思って。

——「違う」というのは?

もしかしたらトム・シックス監督の中で、日本人と言えば侍だから潔いというイメージがあったと思いますが、僕はムカデ人間になってしまった男として、笑い飛ばすことにリアリティを感じられなかった。むしろアウトローなのだから、「懺悔という形で自分の人生を振り返ってみたい」と監督に相談しました。懺悔をすることで、気持ちのうえではムカデ人間から元の普通の自分に戻りたいと。監督は「それはジニアス(天才的な閃き)だ!」と言ってくれて、懺悔の台詞も僕に任せてくれました。監督自身は僕があの場面で何を言っているのか分かっていなかったらしくて(笑)、編集段階で字幕を付ける際に「こんなことを言っていたんだ」と気づいたようです。

B体とC体から中切歯を引き抜き、側切歯と犬歯を上下両方のアゴから抜く。さらにアゴから頬にかけてV字切開を実施する。

●役者になることを後押しした母の力

——北村さんが『ムカデ人間』に出演するにあたって、お母様の後押しがあったとのことですが。

僕自身、『ムカデ人間』に参加することに躊躇はなかったんですけど、当時はまだ20代で、母親に僕が体験している世界を共有してほしいという気持ちがあった。オランダに渡る数日前に、「こういう映画に出るんだけど」と報告したら、「面白そうじゃない!」と大賛成してくれて。実は母親も僕の弟も京都大学出身なんですよね。そんな中で僕だけが進学校に通っていたにもかかわらず、大学進学ではなく、役者になるためにアメリカに行くことを選択した。当然、進路相談で教師たちから「考え直せ」と反対されましたが、母親が根気よく教師たちを説得してくれたんですよ。やっぱり僕にとって、母の力というのはとても大きいんです。

——日本公開時、お母様はこの映画をご覧になられて、どのような感想を仰られたのでしょうか?

『ムカデ人間』って、日本どころかアメリカでも配給が決まる前に一度、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭に上映されたんですよね(2010年)。その時に母親と一緒に観ました。「とても面白いじゃない!」と言ってくれて、この映画に出て良かったと改めて思いましたね。オランダで撮影した映画を日本の映画祭で母親と一緒に観ている。こじんまりとした映画館でしたけど、観客の皆さんも良い雰囲気で、忘れられない体験でした。

——最後に、これから本作の4Kリマスター版をご覧になられるファンの方にメッセージをお願いします。

15年前に初めて『ムカデ人間』が上映された時、まだ赤ん坊だった人たちも今年15歳になったことで、やっと『ムカデ人間』を体験できるんですよね。この映画は始まってからエンドロールが終わるまで、完全にその世界に没入できる作品だと思っています。日本人である僕が出演しているから、より感情移入できるだろうし、何より「『ムカデ人間』を観た」というだけでネタになると思うので(笑)、ぜひ映画館でお会いしましょう!

3人の膝蓋骨のじん帯を切除して、膝の伸縮を不可能にさせる。これによりムカデのように四つん這いでしか移動できなくなるのだ。

北村昭博(きたむら・あきひろ)
1979年、高知県高知市生まれ。高校卒業後に渡米し、全米屈指の公立芸術専門大学であるノースカロライナ芸術大学などで武者修行。カルト的な人気を博した映画『ムカデ人間』に出演し、俳優として国際的な注目を集める。代表作に『HEROES/ヒーローズ』(2009年)、『地獄でなぜ悪い』(2013年)、『新宿スワンII』(2017年)、Netflix『コブラ会』シーズン5(2022年)など多数。2024年にロサンゼルスのファースト・グランス映画祭にて最優秀主演男優賞(短編映画部門)を受賞した。

今井あつし(いまい・あつし)
編集・ライター。『映画秘宝』本誌とnoteでインタビュー記事などを担当。批評家・切通理作のYouTubeチャンネル『切通理作のやはり言うしかない』撮影・編集・聴き手を務める。

『ムカデ人間 4K』
(2009年/オランダ・イギリス合作/92分/R-15)
監督・脚本:トム・シックス
製作:イローナ・シックス / トム・シックス
撮影:グーフ・デ・コニング
音楽:パトリック・サヴェージ / オレグ・スピーズ
編集:ナイジェル・デ・ホンド
出演:ディーター・ラーザー / 北村昭博 / アシュリー・C・ウィリアムス / アシュリン・イェニー
配給:トランスフォーマー

©2009 SIX ENTERTAINMENTPRODUCTIONS

8月21日(金) シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷 ほかロードショー
公式web:『ムカデ人間』4K リマスター版 公式HP
公式X:@mukadeningen

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