素材でショーブなのだ
南フランスの郷土料理、ラタトゥイユ。そのままで食べても付け合わせにしても、魚、肉問わずにソースとして使える万能煮込み料理だ。煮込み料理と聞くと響きがいいけれど、乱暴に言うと西洋風「ごった煮」で元々は軍隊の野営メシであったり、収容所の囚人メシだったりがその起源とされる。シンプルな料理であるがため素材の良さが出来を左右する。クルマで言うと機能至上主義の商用モデルといったところかもしれない。
そんな機能至上主義のワーキングビークルをピープルムーバーとしても使ってしまおう、というのがベルランゴだ。出自が商用車だけあって使い勝手は抜群。まさに素材でショーブしていけるMPVでもある。現行モデルは2018年にデビューし、ベルランゴとしては3世代目で2024年にマイナーチェンジ。試乗車は7人乗りのロングで、復活色アクアグリーンがトレビヤーンな1台。ロングは標準モデルに対して全長が365mm、前後の車軸間の距離(ホイールベース)が190mm拡大される。大きくなったことでベルランゴの特長でもあるマルチパノラミックルーフ、3列目シートの装着によりラゲッジスペース上部の収納ボックスは装備されない。なお前席上部の大きな物入れは健在。



意匠変更でフロント周りのデザインが大きく変わったほかシトロエンマークが創業年代(1919年)の縦型楕円形に。合わせてリアにあったブランドのロゴが姿を消してしまった。どことなく万人受け(失礼)しそうな印象でシトロエンこそ個性のカタマリなのだよ、とアヴァンギャルドなファンは思うかもしれない。しかしながらベルランゴの人気は絶大でマイナーと言われる(重ね重ね失礼)フランス車にあって「輸入車MPVセグメント」で5年連続登録台数No.1を誇る人気車種なのだ。2019年の日本導入に先立っての先行販売では300台をわずか5時間で売ったこともある。
リモート会議も行けまっせ
インテリアはそれまでのダイヤル状のシフトセレクターが変更された。センターディスプレイは10インチに、アナログメーターだったモノがデジタル表示とアップデート。このセンターディスプレイはナビ機能が最初からないので、ナビを使う場合は自分のスマホとペアリングする必要がある。Car Play/Android Autoに対応しており、ペアリングしてしまう前提だけどその気になれば車内でもアプリでリモート会議に参加可能。



さすがの利便性
使い勝手の良さはフランス車の美点。日本車のように細かい配慮とは違うベクトルだけれど「道具」として考えるとやはり魅力だ。大きなリアゲートを開けずに荷室にアクセスできるリアオープニングガラスハッチしかり。

試乗車は前述の通りロングの3列シート車。6人以上の乗車時は荷室スペースの工夫が要求されるけれど、3列目を格納してしまえば広い荷室になる。その広さは自転車をバラさずに積載できてしまうほど。サイクリストにとってはトランポとガレージを兼ねた移動体になるし、置き場所が確保できれば脱着可能の3列目シート(かなり重い)を外すことで車中泊はもちろん、茶室から趣味のムフフな部屋までアイデア次第なのだ。


癒しの走りでワンタンク友の会に推薦!
見た目の大きさから、いくらディーゼルでも1.5リッターではそれなりかなと思っていたのだけれど走り出すと杞憂に終わった。どうしてどうしてこの全高全幅が同じサイズの大きなシカクいボディがぐんぐん加速していく。想像以上にレスポンスもいい。130PS、300Nmのディーゼルターボは存在を隠さないけれど低回転域からトルクは太いし2000rpmも回せば流れを乱すこともないし、同じ回転域まででも踏み方次第では流れをリードすることも可能。

それにしてもこの乗り心地は癒しそのモノ。マルチリンクだのダブルウィッシュボーンだとか、凝ったサスペンションの構造はあるけれど、ベルランゴのそれはフロントがマクファーソンストラット、リアがトーションビームとシンプル構造。柔らかめな脚はタウンスピードでも抜群の乗り心地だ。往年のハイドロニューマチックはある程度の速度がなければ堅めな乗り心地だったけれど、バネサスでも乗り心地にこだわるのがシトロエン流。試乗車は16インチのホイールを履いていたが、兄弟車のプジョー・リフターは17インチが標準でこのあたりもメーカー色を感じられるところだ。
癒しの柔らかさながらも動くのは足回りだけで、出来の悪いフワフワ系な乗り心地とは一線を画す。出来の悪いフワフワ系でも街中ならば「アラ快適ね」で済みそうだが、高速だと不必要な上下の動きが多く、アイポイントもつられて上下する。これが疲労につながる。しかしベルランゴは余計なアイポイントの上下がなく、高速でも疲れ知らずなのだ。
高速では、このフトコロの深いサスが抜群の直進安定性につながる。8速の2000rpmで100km/h、回転を500rpm上げると120km/hと快適至極。排気量は少なくてもトルクにゆとりがあるので高速でも加速に困ったことは一度もなかった。その速度でも車内は商用車ベースとは思えない静粛性で驚いたのは音響の良さ。プレミアムオーディオスピーカーでもない純正の6スピーカーの音が良く、これで十分だと思わせるほど。
この乗り心地なら一気に1000kmといった長距離も余裕な印象。試乗での高速燃費は約18.5km/L。ワンタンク友の会(1回の燃料満タンでの最高航続距離)的な話ならば、おそらく高速だけという条件なら800kmはかたいと思う。いうなれば東京ー青森間の片道は給油なしで行けそうなイキオイなのだ。ちなみに今回の試乗では街中5割、高速2割、山越え1割、渋滞2割の6人乗車で500km以上走破し、最終的な燃費は17.5km/Lだった。
ゆっくりと深くロールするフラ車らしい身のこなしでクネッた道をゆくベルランゴ。見た目から受ける印象以上にキビキビ走ってくれる。やはりディーゼルユニットの豊かなトルクが遅さを感じさせないし、MTモードでステアリングに備わったパドルでシフト操作をすれば加速に困らない。ただし普段からMTモードを使おうか、と思うと2000rpm以下ではシフトアップを受けてくれなかった。MTモードではなかなかディーゼル特有の極低回転域のトルクを享受するのは難しく、山越えをする時など絶えずある程度の回転域をキープする時のほうがいいのかも。またエンジンブレーキで車間を調整する時も多くパドルを引く必要があった。
使い倒せるミニバン
7人乗りミニバンのベルランゴ・ロング。気になる3列目はどうなのよ、と思って筆者は100km近く座ってみた。

これがですね、旦那、かなり広く良かったのですヨ。足元スペースも見た目以上に広いし、タイヤの張り出し部分がちょうどいいアームレストに。さらにカップホルダーもそこにあるので気分は特急列車に乗った感じかも。また左右独立しているシートはパーソナルスペースも十分。シートのサイズも2列目と遜色ない。乗っていても癒しの乗り心地だし、クネッた道でも収納スペースが体を支えられるグリップ代わりになるのでルーフグリップがなくても大丈夫だった。ネックはドライバーが柔らかい足周り、ということを考慮して運転しないと必要以上の姿勢変化を招いてしまうことと、3列目へのアクセス性だけ。
ジツは2列目は固定されおりスライドやリクライニングといったシート調整ができず(可倒式だけれど)、そのため3列目へのアクセスは2列目を完全に倒してシートバックを踏むカタチでアクセスするしかないのだ。頻繁に3列目を使うならシートバックには汚れ防止のアイテムを考えるのもありだと思う。

またミニバンの上席とされる2列目はアームレストやルーフグリップがないためクネッた道では体を支える工夫が必要と感じた。

しかしながら足元は広いし、後席用のエアコンも標準装備で、出自がワーキングビークルと考えると車内空間は創意工夫の殿堂。シンプルで素材の良さでショーブするのがベルランゴなのだ。

シトロエン・ベルランゴ・ロングMAX
| 価格 | 467万円〜 |
| 全長 × 全幅 × 全高 | 4770 × 1850 × 1850(mm) |
| エンジン | 1498cc直列4気筒ディーゼルターボ |
| 最高出力 | 130PS/3750rpm |
| 最大トルク | 300Nm/1750rpm |
| WLTCモード燃費 | 18.1km/L |


































