
みなさんは、「特別塗装機」というものをご存じでしょうか?
そのまま文字を読み解けば、“特別” な “塗装をした” “機体” となります。ここで言う機体とは、主として世界の軍隊で使用される航空機を指します。英語でスペシャルマーキングと呼ぶので、“スペマ”という略称で呼ばれることもあります。また、日本の場合、「記念塗装機」という呼び方もあります。
本来、軍隊が使用する航空機は、目立たないような塗装となっています。その理由は、敵に見つからないようにするためです。レーダーに引っ掛からないようにするのは当然ですが、人の目にも触れないようにしなければなりません。というのも、人の目はかなり優秀です。どんなレーダーすらも掻い潜り、発見が困難なステルス機と言えども、いざ人前で飛ぼうものなら、見つけることが出来ます。
そこで、機体を空に溶け込ませるため、戦闘機の機体色はグレーが基本です。また緑や緑を基調とした迷彩色の機体も存在しますが、それは山や大地に溶け込ませるため。航空自衛隊のF-2戦闘機は、濃紺の機体となっていますが、これは海に溶け込ませるため。このように、用途に応じて、機体のカラーリングは異なりますが、いずれも目的は「敵に見つかりたくない」からです。
ところがスペマ機は、これとは真逆。機体をカラフルに彩り、“目立たせる” ことを目的としたものです。その理由は、部隊や基地の創設記念を祝うなど、イベントをPRするためです。基本的に、そのイベントが終了すると、特別塗装は消され、元の軍用機たるカラーリングに戻されます。ですから、“特別” なのです。
この期間限定の機体は、マニアにはたまらない代物です。何しろ、「今見ないともう二度とお目にかかれない」からです。
航空自衛隊でも、毎年いくつもの部隊で、スペマ機が登場します。機体全体に塗装を施したり、垂直尾翼など機体の一部のみに塗装を施したりと、さまざまなバージョンがあります。
ここでは、2024年に登場したいくつかの機体をご紹介したいと思います。
空自にとって、2024年は、とても重要な節目となりました。それは、創設70周年の年であったからです。


空自創設70周年、築城基地開庁70周年をそれぞれ記念した特別塗装のF-2。

そんな中、築城基地(福岡県)も開庁から70周年を迎えたということで、同基地に配置されている2機のF-2の垂直尾翼に記念塗装が描かれました。
小松基地でもスペマ機が登場しました。同基地の第303飛行隊のF-15が、北陸新幹線を模した塗装となりました。これは、2024年3月16日に金沢から敦賀間が開通したことを祝うためです。また、第306飛行隊のF-15には、70周年記念塗装を施しました。
これら2機は、本来9月23日の小松基地航空祭でド派手なデモフライトを行い、お披露目される予定でした。小松基地としても、北陸新幹線延伸、能登半島沖地震からの復興祈願などなど、北陸全体を盛り上げたいという熱い思いがあったからです。しかし、その前日まで、北陸を豪雨が襲い、自衛隊が災害派遣を行うまでの深刻な被害となってしまい、縮小を余儀なくされました。結局、スペマ機は、まっすぐに飛行するフライパスだけとなってしまいました。


小松基地航空祭で登場したスペマ機。北陸の復興祈願。
そして派手さで言えば、昨年のナンバーワンと言っても過言ではないのが、那覇基地の第204飛行隊のF-15です。背中を赤く塗り、そこに鷲の顔と「美鷲(ちゅらわし)」という文字が大きく描かれました。また、同飛行隊ではかつて機体にワルキューレを描き、“ミスティックイーグル”と愛されたスペマ機がありました。今回の「美鷲」の垂直尾翼にそのワルキューレも描かれ、「ミスティックイーグルの復活!!」と大いにファンを沸かせました。
これ以外にも、たくさんのF-15やT-4やC-1といった様々な任務の機体もスペマ機として登場し、大いに盛り上がりました。
今年はどんな機体が登場するのか楽しみですね。


第203飛行隊創設60周年を記念し、部隊マークのクマをゆるくアレンジしたスペマ機。