アレもコレもロードスターがあったからこそ
国産オープン2シーターの代名詞でもあるマツダ・ロードスター。メルセデス・ベンツのSLKやBMWのZ3、ポルシェのボクスターからフィアットの小型オープン、バルケッタといった世界中のメーカーに影響を与えたクルマだ。影響を与えるだけでなく、「世界でもっとも多く生産された2人乗り小型オープンスポーツカー」としてギネスにも認定。みんな大好きなロードスター、今年は初代の登場から35周年のメモリアルイヤーを迎える。ここに歴代モデルをご紹介!!
The 日本の名車誕生
記念すべき初代モデルが登場したのは1989年。同年には日本市場でも導入され、オープン2シーターと限られたユーザー向けな印象の強いモデルにあって発売1年で9000台以上を売り上げた伝説を持つ。当時のバブリーな好景気という浮かれたバックボーンもあったかもしれないが、兎に角マツダはこのスポーツカーを世に送り出したのだ。その人気ぶりは皆さまご存知の通り。
デザインは日本の伝統芸能、薪能で使われる能面にインスピレーションを受けたという。そのボディラインは確かに今見てもシンプル。難しいボディラインや好き嫌いの分かれそうなエアロパーツに頼らない、このシンプルさこそ飽きのこない逸品なのだと思う。そしてコンパクトカーでありながらもエッセンスを凝縮した名作で、事実テールのコンビネーションランプはニューヨーク近代美術館(MoMA)に永久保存されている。このコンビネーションランプは江戸時代の両替商が取引に使う分銅がモチーフ。薪能や分銅など「これゾ、日本!」なのだ。インテリアもオープンカーらしく「魅せるモノ」なのだがこちらもエクステリア同様のシンプルさが身上。当時はエアバッグレスのモデルも多く、ステアリングも、モモやナルディなど自分好みに仕上げられた。筆者のまわりにもクルマは処分してもこの時につけていたハンドルを捨てきれない愛すべきロードスター乗りがいる。
そして操縦性はプロから筆者のようなボンクラでも乗って楽しいと感じさせる味付けが特長で、これは現行モデルにもキチンと引き継がれている。ロードスターはデビュー当初からチョー速い! ということを謳わない。マツダがアピールしたのは非力なパワーを軽さでカバーすること。これは1960年代に英国で流行ったライトウェイトスポーツカーがお手本。デビュー当初の120PSしかないファミリア流用の1.6リッターエンジンのスパックは平凡だが、1tを切る車重とバランスのいいFRレイアウトと相まって走りは痛快。登場から30年以上経過しても人気でそれはメーカーに復刻パーツやレストア部門を作らせてしまうほど。
チャームポイントは目!?
1998年に初のフルモデルチェンジ。スポーツカーの必需品的装備であったリトラクタブルヘッドライトは衝突安全性のため固定式に変わった。基本コンポーネンツは同じなのだが、それまでのロードスター乗りからは固定式ランプに電気だけに抵抗(失礼)があり、かつ若干だけれどボディサイズの拡大など拒絶反応があったとかなかったとか。しかしながら固定式ライトの方が部品点数が少なくなり、ロードスターの主軸でもある「軽さ」はブレずに継承された。
2代目への進化は単にデザインが大きく変わっただけではなく商品としても魅力を高めた。まずエアバッグが全車に標準装備に。幌のビニールスクリーンもガラス製を採用。オーナーあるあるだった幌のビニールスクリーンの白く硬くなる経年劣化ともお別れだ。一方インテリアはエアバッグの標準化に伴ってステアリングはナルディに。
肝心な走りにも磨きがかかっている。先代の途中から追加された1.8リッターのエンジンを主軸に据えたラインナップを展開。この1.8リッターエンジンは当初145PSを誇ったが2000年のマイナーチェンジで可変バルブ機構を採用し160PSに高められている。そして1.8リッターモデルの優越感ともいうべきモノはMT車のギアが6速化されたこと。より強い刺激を求めるユーザー向けに上記のエンジンをターボで武装し、172PSを誇るモデルもラインナップに加わっている。
清純派アイドルから女優へ?
3代目に襷が渡されたのは2005年。この代で初めてフレームから手が入る大掛かりなフルモデルチェンジになった。その結果ロードスター初の3ナンバーボディに。ファンの間でも好き嫌いが大きく分かれるのも3代目だ。
デカくなったボディだけに注目されがちだが、ライトウェイトスポーツを謳うのがロードスター。デカくなった分、軽量化には余念がなく様々な部分を街の肉屋さんのごとくグラム単位で計算。その結果、走りのRSグレードは先代比で10kgだけの増量で済んでいるところは声を大にしたい。これってボディ剛性も強化され、使う鉄も増えているのにスゴイことなのだ。走ってナンボのクルマであるからして前後重量バランスにもこだわり、定員乗車時で50:50。しかも低重心。余談だが搭載される2リッターエンジンは先代の1.8リッターのそれよりも19.1kgも軽い。
エンジンの話が出てしまったが日本市場では2リッターエンジンのみ。そのスペックはMT車で170PS、AT車で166PS(デビュー当時のソフトトップモデル)を誇る。
一方、外に見せる(魅せる)ことも必要なインテリアはよりモダンなモノに。かといって過去のことはなかったことにするような大幅にデザイン変更は行われず、シンプルさは健在。
また2006年には電動のトップを持つリトラクタブルハードトップがラインナップに。それまでの固定式なルーフと違ってオープン、クーペ両方のデザインをスイッチ一つで楽しめるようになった。3代目はいわばそれまでの清純派アイドル路線を進んできたけれど一気に女優路線へ舵を切ったような過渡期のクルマと言えるのかも。それでいて走って楽しいという一番の芯はぶれていないのだ。
原点回帰
4代目の現行モデルは2015年にデビュー。それまでの型式に則ってND型に。ロードスターの型式は初代がNA、2代目がNB、3代目がNCとNを頭文字にアルファベット順になっているのはご存知の通り。
「軽量コンパクト」のロードスターの原点に重きを置き、ボディサイズはコンパクトに。フロントのオーバーハングを短くするためにLEDランプを採用し、夜間の視認性やエクステリアのアクセントになっている。
インテリアはタイトな印象だけれどもシートに収まってしまえば、我慢を強いられるような狭さではなく、十分快適な広さを持ち合わせる。パワーステアリングは油圧から電動に。このパワステも走る楽しさに直結するため、ステアリングラックを直接モーターでアシストする方式を採用。これにより自然な操舵感、ダイレクトなフィードバックを得ている。
エンジンは先代の2リッターからアクセラ用を改良した1.5リッターにサイズダウン。しかしながら先代よりも1割以上軽い車重や前後バランスにこだわったエンジン搭載位置、低重心レイアウトなど「らしい」走りは健在。それどころかより磨きがかけられている。特に全長は4mを切る3915mm。これは歴代モデルで最も短い。走りは軽快でついぞにやけるほど。現行モデルからMT車は全モデル6速化されているし、乗り手の気分によってエコにもスポーティにも走れるフレキシブル性がまた魅力。
そしてリトラクタルハードトップを備えたRFもラインナップされた。現行モデルのそれは3代目に設定されたソレとは異なり、オープン時でもCピラーが残る。完全オープンとは言い難いかもしれないが、トンネルバックでリアビューはミッドシップマシンっぽくてカッコイイのもまた事実。他のメーカーが似通ったベクトルのクルマに採算性を見出せずフェードアウトしたモデルが多い中、ロードスターはブレずに人馬一体を追求しているのだ。
本webやモノ・マガジンTVにもロードスターの体験記があるのでぜひご覧ください!