遂に『ゴジラ-1.0/C』公開!キャストインタビュー 駆逐艦「雪風」元艦長 堀田辰雄役 田中美央さん<スペシャル全長版>:特撮ばんざい!第34回


全世界興収100億突破! ワールドワイドにメガヒット中の映画『ゴジラ-1.0』は、戦後まもない日本を恐怖のどん底に陥れた怪獣ゴジラを倒すべく、民間人が中心となって「海神(わだつみ)作戦」が実行される。作戦の中核を担う駆逐艦「雪風」元艦長・堀田辰雄を演じた俳優・田中美央さんは、子どものころからゴジラや東宝怪獣に魅了されてきた筋金入りのゴジラファン。憧れの怪獣映画出演、しかも「ゴジラと戦う人間」役をつかんだ喜びや、少年時代のゴジラ体験、堀田を演じるにあたっての心構え、力を合わせてゴジラに挑む仲間たちとのコミュニケーションなどなど、熱い語りが止まらない。本誌に掲載して大反響だったインタビューを、作品のモノクロ版『ゴジラ-1.0/C(ゴジラマイナスワンマイナスカラー)』上映を祝って全長版にて公開! 次々に迫りくる、濃厚裏話の衝撃に備えてください!

文/秋田英夫 写真/佐々木龍

『ゴジラ-1.0』の名演で、さらに田中美央ファンが爆増! 1月12日の『ゴジラ-1.0/C』公開初日舞台挨拶(TOHOシネマズ日比谷)に登壇を果たした。おめでとうございます!

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あこがれのゴジラ映画に出演できた喜び!

田中さんが演じた、駆逐艦「雪風」元艦長 堀田辰雄。「海神作戦を開始する!」「衝撃に備えよ!」「やれることは全部やるんだ!」。シビれる名セリフ多数!

――ゴジラに挑む「海神(わだつみ)作戦」の指揮を執る元・駆逐艦「雪風」艦長・堀田は、歴代ゴジラ映画の司令官役の田崎潤さんや藤田進さんに匹敵する存在感がありました。

田中 ありがとうございます。偉大なる先輩たちの系譜を受け継ぐことができて、光栄に思います。昔から僕は古めかしい顔だと言われてきましたが、やっとこの顔が役に立つ日が来ました(笑)。

――田中さんは子どものころからゴジラが大好きだとうかがっていますが、最初の「ゴジラ」体験はどの作品で、どういう形で出会ったのですか?

田中 僕が幼稚園に通っていたころ、映画館で観た『モスラ対ゴジラ』(1980年/リバイバル版)ですね。『ドラえもん のび太の恐竜』との同時上映で、ワクワクしながら観ていました。このときのゴジラはとても凶暴で怖かったんですけど、最後にモスラ(幼虫)の双子に倒されてしまい、ちょっとかわいそうだなと思ったことを、今でも鮮烈に記憶しています。その後は、テレビ放送やビデオ、そして怪獣図鑑などでゴジラや東宝怪獣に親しんでいきました。『三大怪獣地球最大の決戦』ではゴジラとラドンの漫才みたいなやりとりがあったりして、楽しかったですね。また『ゴジラ対ヘドラ』ではヘドラのおぞましい造型に迫力を感じ、これぞゴジラ映画! だと感心した記憶が強く残っています。

――ゴジラ関連アイテムの思い出などはありますか。

田中 1984年ごろ発売された「チョロ獣」ですね。ゴジラやメカゴジラのディフォルメモデルが、ゼンマイ動力で火を噴きながら歩くというもので「チョロQ」の怪獣版なんです。あのころ、親父が珍しく500円をくれまして「何でも好きなもの買っていいぞ」というので、隣町の模型店までダッシュして、チョロ獣のメカゴジラを買ったんです。家に帰ったら、親父がなんとなくガッカリした顔をしてましてね。たぶん、少しはためになる本の一冊でも買ってくるのかなと思ったら、チョロ獣だったからでしょう(笑)。

想い出深い「チョロ獣」を始め、取材にお気に入りゴジラグッズをご持参された田中さん。ありがとうございます!

――『ゴジラ-1.0』出演のお話があったとき、率直にどんな思いを抱かれましたか。

田中 台本をいただいたときは、まさかこんな大きな役だとは思っていませんでした。読み進めていくと、わりと長いセリフを喋るシーンがあったりして、これは重要な役どころだと気持ちが引き締まりました。なんで僕が堀田役に選ばれたんだろうと思って、駆逐艦「雪風」のことを色々調べていくうちに、実際の艦長・寺内正道海軍中佐の画像が出てきました。ああ、僕に似てるなあ、こういうことかと(笑)納得できました。

――堀田を演じるにあたって、どのように役作りをされましたか。

田中 元帝国軍人という部分よりも、市井の人間という意識を重視して演じました。自分なりに「息子が戦場で命を落とした」という堀田の裏設定を考えて、だからこそ今回の作戦に参加するみんなには絶対に死んでほしくない……という気持ちを、強く打ち出しました。また、堀田という役はあの衣装と小道具を身に着けて、初めて完成したという実感がありました。衣装合わせのとき、堀田の制服が綺麗すぎるから、もう少し生活感があったほうがいいのかなと思ったのですが、それはまったくの素人考えでした。海軍の人間は戦いに臨むとき、常に真新しい服装で、帽子もきっちり正面に被っているものだと、軍事指導の先生から教えていただきました。少しでも帽子がずれていると、すぐチェックが入りました。あの制服を着た瞬間に姿勢が伸び、自分の中に一本芯が通ったようになり、堀田という役に入りこむことができました。

堀田の「ありがとう!」は自分の言葉でもある

NHK大河ドラマにも多数出演し、声優としてはマーベルコミックのスーパーヒーロー映画のウォン役の吹き替えを担当。味わいのある演技も美声も魅力だ。

――旧岡谷市役所庁舎で撮影された、ゴジラ対策の説明会で堀田が熱弁をふるうシーンについてのお話を聞かせてください。

田中 本当にいい雰囲気の建物で、あの場所に力をもらって演技をさせていただきました。僕がひとりでセリフをしゃべるシーンのためセットを作っていただき、俳優のみなさん、そしてスタッフさんの眼差しが一斉に向けられ、そこに入っていく瞬間、すごく感動的でした。演じていながら、みなさんへの感謝の思いで胸が一杯になりました。堀田の「ありがとう!」は僕自身の心からの言葉でもあるんです。

――大勢が口々に声を上げたり、熱のこもった雰囲気がリアルでした。

田中 はい。エキストラで多くの方が参加されていて、皆さん大変だったと思います。朝早くから集まられ、撮影の間ずっと立ちっぱなしだったり、苦労されていました。僕なりにみなさんとの交流を心掛けて、時間があれば「どちらからいらしたんですか?」なんて声を掛けるようにしていました。

――「雪風」艦橋で作戦指揮を執った際、どんなことを意識されましたか。

田中 撮影に入る前、横須賀にある「戦艦 三笠」を何度も見学に行き、駆逐艦のスケールを生身で感じようとしました。三笠は雪風とほぼ同じ大きさで、ゴジラを前にしたときどういう目線になるのかなど、大いに参考にさせていただきました。

仲間たちと共に乗り切った撮影の日々

ゴジラに決戦を挑む「海神作戦」に参集した一等駆逐艦。奥から「雪風」「響」「夕風」「欅」。

――印象に残るシーンについてのお話を聞かせてください。

田中 ゴジラを囲み、駆逐艦「響」と雪風が交差するシーン。僕たちがいる艦橋部分だけを切り取って、クレーンで10数mも持ち上げられ、下を覗きこむ演技をするんですが、あのときは怖かったですね。撮影中は雪風、響、ゴジラがそれぞれ今どういう位置関係にあるのか、ホワイトボード上でマグネット式の模型を動かして、カットごとに俯瞰図で把握しながら撮っていたんです。みんなでイメージを共有しながら、実際にはいないゴジラとの絡みを作っていくのが面白かったです。

――実際にはいないゴジラの姿を想像しながら演技をされる難しさがあったと思います。

田中 演技をする上でとても役に立ったのは、新宿歌舞伎町にある「ゴジラ」ヘッドです。あのゴジラの高さがちょうど50mくらいで、撮影の前後に度々、ゴジラの大きさを実感するために新宿へ行きました。

「新宿のゴジラヘッドを見上げて、ゴジラの大きさを実感しました」

――乗組員を演じられた共演の方々とのチームワークはいかがでしたか。

田中 若い人たちが多く、積極的にコミュニケーションを取りました。僕は舞台俳優なので映像作品の経験が少なく、どちらかというと緊張するタイプ。そこで、みんなが休憩中のときでも「今から(次の場面の)練習をするので、見ててくれ」と、恥ずかしくても緊張した姿をさらけだすようにしていました。みんなからは「格好をつけない人ですね」と言って貰えたので、親近感を覚えてくれたんじゃないかと思います。

――本作での、お気に入りのセリフは何でしょう。

田中 響と雪風が交差する際に堀田が叫ぶ「衝撃に備えよ!」です。こういった「号令」は役者として、一度は言ってみたいセリフですからね。ただし、堀田は軍人より民間人のほうにウエイトを置いていて、この「衝撃に備えよ!」以外は大きな声を発していないんです。最初の演説のところも含めて、集まったひとりひとりの胸に届く、やわらかな言葉を意識しました。ついつい戦闘シーンでは興奮してしまって、指示を出すとき声が強くなってしまいがちなのですが、軍事指導の先生から「あくまでも指示なので、落ち着いて話してください」と言われ、艦長たるもの、どんな状況にあっても落ち着いて対処しなければならない。たとえゴジラとの戦いでも……と強く思うようにしていました。

――完成した映画をご覧になったときのお気持ちはどうでしたか。

田中 試写会場に行くと、山崎貴監督をはじめスタッフのみなさんがニコニコしながら僕に向かって「田中さん、おいしい役ですよ!」と声をかけてくれました。そのときはよくわからなかったのですが、映画が始まり、僕の「海神作戦を開始する!」のセリフの直後、とてもカッコいい音楽が入って「ああ、ここのことか!!」と腑に落ちて、感激のあまり涙がこぼれました。映画を観ている間、母親にねだってゴジラの玩具を買ってもらったことなど、これまでのゴジラの思い出がいくつも甦ってきましたね。

ゴジラ・フェス、プラモ作り、映画館通い、自分もゴジラにドハマリ!

2023年11月3日、日比谷の「ゴジラ・フェス2023」に現れた田中美央さん。ファンに見つかり囲まれて気さくに交流。チビゴジラの紙キャップがお茶目だ。

――公開初日(2023年11月3日)以来、田中さんが一般客として『ゴジラ-1.0』を観に来られているという「目撃情報」がSNSにありました。同日、日比谷で開催された「ゴジラ・フェス」にもいらっしゃったとのことで、田中さんの強い「ゴジラ愛」がうかがえますね。

田中 TOHOシネマズ日比谷で初日上映を観た後、売店で「雪風」のプラモデルを買おうとしたのですが、すでに行列がすごくて買えず、向かいの家電量販店で購入しました。ここにお持ちした「雪風」は、今日の取材に合わせて徹夜で組み立てたものです。

「艦橋が精密で組み立てに苦労しました!」

田中 軍艦のプラモデルを組み立てたのは久しぶりで、精密な部品が多くて苦労しました。特に艦橋部分を接着するのが大変でした。「ゴジラ・フェス」ではエキストラに参加された方とお会いすることができて、楽しかったです。映画は初日以降、何度も劇場で観ています。50回は観ると思いますよ(笑)。

――今後、田中さんにまたゴジラ映画のオファーが来たとしたら、どんな役柄で出演したいですか。

田中 引き続き堀田役で出たいのですが、それがダメなら第二希望として、『怪獣大戦争』で尊敬する俳優・土屋嘉男さんが演じられた「X星人統制官」を演じたいです。そして、キングギドラやメカゴジラを操って、ゴジラに挑戦してみたい。『シン・ゴジラ』や『ゴジラ-1.0』で恐怖のゴジラが世間に浸透しましたから、次は人間の味方になったゴジラが復活するのもいいのではないかと思います!

プロフィール
田中美央
たなか・みおう 俳優・声優。1974年生まれ。兵庫県出身。1998年から多数の舞台に出演しているほか、映画『日本のいちばん長い日』『海賊とよばれた男』、ドラマ『おんな城主 直虎』『どうする家康』、テレビアニメ、洋画吹き替え、CMなど多方面で活躍中。

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<ライタープロフィール>
秋田英夫
あきた・ひでお フリーライター。『宇宙刑事大全』『大人のウルトラマン大図鑑』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『上原正三シナリオ選集』など特撮書籍・ムックの執筆・編集に携わる。CD『必殺シリーズオリジナルサウンドトラック全集』(1&9)『ザ・ハングマン燃える音楽簿』の構成・解説も担当。

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