菊池雅之のミリタリーレポート 特科大改革! 生まれかわる西部方面特科隊


西部方面特科隊隷下の第5地対艦ミサイル連隊に2023年新編されたばかりの第304地対艦ミサイル中隊の12式地対艦誘導弾。

野戦にとって大砲は非常に重要な武器です。それは現在進行中のウクライナ戦争でも証明されています。

その理由は、砲弾を長距離飛ばすことができることにあります。これにより、前線で戦う味方の歩兵や戦車の頭上を飛び越えて、敵の最前線へと砲弾の雨を降らすことが出来ます。こうして敵前面の戦力を削ぐことで、有利に戦闘を進められるのです。これを火力支援と呼びます。砲兵は「戦場の女神」と呼ばれており、火力支援は、味方からすれば“天使の微笑”であり、敵からすれば“悪魔の微笑”ともなるのです。

陸上自衛隊では、大砲を扱う職種を「特科」と呼びます。そして今、これまでの特科部隊を見直し、あらたに作り直す大改革に着手しようとしています。

その大改革とは、集約化、そして拡大化です。

まず、冷戦期から2000年代にかけて、特科部隊は、4つの特科群と5つある方面隊隷下の師団及び旅団に特科連隊もしくは特科隊として編成されていきました。

現在は、この師団及び旅団の特科連隊及び特科隊を統合し、各方面隊直轄の特科隊へと集約していくことになりました。ただし北海道を守る北部方面隊のみは例外であり、師団及び旅団に特科部隊を残します。こうして、東北方面隊、東部方面隊、中部方面隊、西部方面隊にそれぞれの方面を冠した特科隊が編成完結されます。

2023年10月7日に行われた湯布院駐屯地創立記念行事にて整列する西部方面特科隊の隊員たち。同駐屯地に西部方面特科隊本部が置かれている。

今回注目したいのは、その中の西部方面特科隊です。名前の通り、西部方面隊直轄の特科部隊であり、ルーツは、1954年に久留米駐屯地に新編された第3特科群です。

2003年、第3特科群は、同じく西部方面隊直轄部隊であった第5地対艦ミサイル連隊を併合し、西部方面特科隊へと改編されました。その後、いくつかの部隊の廃止、縮小が行われていきました。

2018年第8師団の第8特科連隊の一部を西部方面特科連隊へと改編します。西部方面特科隊も西部方面特科連隊も似たような名前ですが、この時は別部隊でした。しかし、2019年に第4師団の第4特科連隊の一部を併合し、同年、西部方面特科隊に組み込まれました。

こうして完成した西部方面特科隊は以下の編成となります。

本部及び本部中隊(湯布院駐屯地)
第5地対艦ミサイル連隊(本部:健軍駐屯地)
西部方面特科連隊(本部:北熊本駐屯地)
第301多連装ロケット中隊(湯布院駐屯地)

第5地対艦ミサイル連隊は、12式地対艦誘導弾を配備し、洋上より迫りくる敵艦艇を地上から攻撃します。もともとは、本部及び本部管理中隊と4つの射撃中隊という編成でしたが、瀬戸内分屯地(鹿児島県奄美市)、宮古島駐屯地(沖縄県宮古島市)、石垣駐屯地(沖縄県石垣市)が開庁すると、これら離島を守るため、第5地対艦ミサイル連隊内に新たな中隊を新編して、配置していくことになりました。

こうして、2019年に第301地対艦ミサイル中隊(瀬戸内分屯地)、2020年に第302地対艦ミサイル中隊(宮古島駐屯地)、2023年に第303地対艦ミサイル中隊(石垣駐屯地)及び第304地対艦ミサイル中隊(健軍駐屯地)が新編されました。

西部方面特科連隊の第1大隊に新たに配備された19式装輪自走155㎜りゅう弾砲。

西部方面特科隊の大改革は次のステージへと進むべくまだまだ続きます。

2024年3月、前述の第5地対艦ミサイル連隊に新編された4つの中隊をまとめるため、第7地対艦ミサイル連隊を新編することになりました。連隊本部は勝連分屯地(沖縄県うるま市)に置かれます。各中隊はそのまま現在の駐屯地及び分屯地に配置しまが、第304地対艦ミサイル中隊は、勝連分屯地へと移駐するという話もあります。さらに時期は明らかになっていませんが、第8地対艦ミサイル連隊新編の話もあります。

これを受けて、2025年3月、西部方面特科隊を第2特科団へと拡大改編する計画です。ちなみに第1特科団は、北海道の北千歳駐屯地に配置されています。これにて、北のロシア、南の中国に対しての特科部隊の配置が完了することになります。

この12式地対艦誘導弾を改造し、新たにスタンドオフミサイルたる12式地対艦誘導弾能力向上型を作る。

今後3つの地対艦ミサイル連隊は、スタンドオフミサイルこと巡航ミサイル部隊とする計画です。配備するのは12式地対艦誘導弾を改造し、射距離を伸ばした国産巡航ミサイルとも呼べるもので、現時点では、12式地対艦誘導弾能力向上型と呼称しています。

なお、第301多連装ロケット中隊は、現在開発中の島嶼防衛用高速滑空弾を運用する部隊となる計画です。

西部方面特科連隊は、これまで通り地上部隊を支援する火砲部隊ではあるのですが、最新装備である19式装輪自走155㎜りゅう弾砲を配備していきます。

このように西部方面特科隊は、ここ数年で大きく変わっていく過渡期にあります。

まさに陸自における特科部隊新生の象徴たる部隊となっているのです。

第301多連装ロケット中隊が配備するMLRS。同部隊は、現在開発中の島嶼防衛用高速滑空弾部隊となる予定。

  • 軍事フォトジャーナリスト.。1975年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。講談社フライデー編集部専属カメラマンを経て軍事フォトジャーナリストとなる。主として自衛隊をはじめとして各国軍を取材。また最近では危機管理をテーマに警察や海保、消防等の取材もこなす。夕刊フジ「最新国防ファイル」(産経新聞社)、EX大衆「自衛隊最前線レポート」(双葉社)等、新聞や雑誌に連載を持つなど数多くの記事を執筆。そのほか、「ビートたけしのTVタックル」「週刊安全保障」「国際政治ch」等、TV・ラジオ・ネット放送・イベントへの出演も行う。アニメ「東京マグニチュード8.0」「エヴァンゲリオン」等監修も行う。写真集「陸自男子」(コスミック出版)、著書「なぜ自衛隊だけが人を救えるのか」(潮書房光人新社)「試練と感動の遠洋航海」(かや書房) 「がんばれ女性自衛官」 (イカロス出版)、カレンダー「真・陸海空自衛隊」、他出版物も多数手がける。YouTubeにて「KIKU CHANNEL」を開設し、軍事情報を発信中
  • https://twitter.com/kimatype75

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