菊池雅之のミリタリーレポート
ドイツ空軍初来日の衝撃!!


初来日を果たしたドイツ空軍の主力戦闘機・ユーロファイター。
訪問国の国旗を描いた特別塗装機。

 この秋、ミリタリーファンの話題をさらったのは、ドイツ空軍機の来日で間違いないでしょう。ドイツ空軍の主力戦闘機ユーロファイター3機、空中給油・輸送機A330 1機、輸送機A400M 1機という大所帯が日本の地を踏んだのです。ドイツ空軍戦闘機の来日は今回が初めてのことになります。

 それは9月28日16時20分頃のことでした。航空自衛隊百里基地(茨城県小美玉市)へと着陸し、新たな歴史の1ページを刻みました。

最初に100里基地へと降り立ったのは特別塗装機。その後ノーマルカラーの複座型等2機も着陸。

 ユーロファイターとは、イギリス、ドイツ、イタリア、スペインの4カ国が共同開発したマルチロール(多用途)戦闘機です。1980年代より開発計画がスタートし、1994年3月27日に初飛行に成功しました。コックピットの下にある小さな翼・カナード翼とギリシャ文字の「Δ」に似た主翼を持っていることからカナード・デルタ翼機と呼ばれます。

 ドイツ空軍はF-4FファントムⅡとトーネードの後継としてユーロファイターの配備を決めました。そして2004年より引き渡されていき、約140機を運用しています。さらに追加発注する計画もあります。間違いなく、ドイツ空軍の主力戦闘機です。

 なお、「タイフーン」というニックネームを持っていますが、ドイツでは使用していません。というのも、第2次世界大戦中、ドイツ空軍機の脅威であったイギリス空軍戦闘爆撃機「ホーカー・タイフーン」を想起させるからです。かなり痛い目を見てきたので、当然と言えば当然なのかもしれません。

百里基地へと降り立ったユーロファイター。そして、A330 とA400M に乗って整備員等も来日。

 訪日の理由となるのが、ドイツ空軍による大規模展開訓練「ラピッド・パシフィック2022」です。これは、「24時間以内にアジアへと戦闘機を派遣する」という、ドイツ空軍初の大展開作戦でありました。

 この前代未聞の挑戦は、8月16日にスタートしました。

 ユーロファイターが6機、A330が3機、A400Mが4機という大規模な派遣部隊を組織し、ドイツを出発しました。途中、補給と休憩のためUAEへと立ち寄りました。道中にも空中給油等をし、20時間22分もの時間をかけシンガポールへと到着しました。ドイツ軍が打ち立てた目標よりもかなり早い展開となり、世界を驚かせました。

 しかしながら、順風満帆……とはいかず、機体トラブルのため、1機のユーロファイターがUAEを離陸できなくなりました。結局5機でミッションを継続することになりました。

 この「ラピッド・パシフィック2022」はまだまだ終わりません。シンガポールを拠点として、アジア太平洋地域へと展開していきます。まず、オーストラリアへと展開し、8月20日から9月8日の間実施された多国間演習「ピッチ・ブラック22」に参加しました。この訓練には、航空自衛隊のF-2も参加しました。

右側デルタ翼には大きな日の丸が描かれた。垂直尾翼には今回のコースが記された。

 そしてオーストラリアからシンガポールへと舞い戻り、次の目的地として選ばれたのが日本だったわけです。

 この大遠征を成し遂げたユーロファイターの内の1機には、派手な特別塗装が施されていました。胴体には、ドイツの国旗をあしらった赤、黒、黄色のカラーリング。そして主翼には訪問国の国旗が並び、右側には大きく日の丸が描かれていました。垂直尾翼には世界地図が描かれ、今回のコースが線でなぞられていました。この派手な機体は、「空飛ぶ親善大使(Air Ambassador)」と命名されました。

記者会見を行う空軍総監インゴ・ゲルハルツ中将。

 この「空飛ぶ親善大使」を日本まで操縦したのが、空軍総監インゴ・ゲルハルツ中将でした。なんとドイツ空軍トップ自らが操縦桿を握り、編隊長として訪日部隊を指揮したのです。

 百里基地に着陸前、日本領空内で2機のF-2戦闘機と合流しました。空自側も航空幕僚長・井筒俊司空将が自ら後席に座り、ゲルハルツ総監御一行様を直接出迎えました。富士山をバックに日独トップが乗る機体の記念撮影を行い、その後百里基地へと降り立ちました。

 直後、ゲルハルツ中将は、報道陣に対し記者会見を行いました。そこでは、シンガポールから8時間がかかったこと、5回の空中給油を実施したこと、フィリピン沖で台風の影響を受けたことなど、実に過酷なフライトであったことを話してくれました。

 翌日、ゲルハルツ総監と井筒空幕長は、一緒に皇居ランニングをしました。笑顔で走るその姿をみるに、「空飛ぶ親善大使」とは、ゲルハルツ総監そのものであります。

 逸話はまだまだ続きます。井筒空幕長は、ゲルハルツ総監へあるプレゼントをしました。なんとそれは、井筒空幕長ご自身が作られたユーロファイターとF-2のプラモだったのです。実は防衛省内では、井筒空幕長が“モデラー”であることは有名な話です。それもプロ級の腕前。早速SNS上では、この“モデラー”の顔が大きな話題となりました。

来日を記念し、ドイツ空軍第74戦術航空団と出迎えた第3飛行隊の記念パッチが作られた。

 9月30日朝、ドイツ空軍は予定通り日本を離れました。たった3日間ではありましたが、中身は非常に濃いものとなりました。そして韓国にも寄り、最終的に10月8日、ドイツに帰国しました。

 ドイツもアジア太平洋地域の安全保障の一翼として重要な存在であり、高い軍事力を有していることを十分に世界にアピールできたのではないでしょうか。

 日独防衛協力はますます深化していくことになりました。

  • 軍事フォトジャーナリスト.。1975年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。講談社フライデー編集部専属カメラマンを経て軍事フォトジャーナリストとなる。主として自衛隊をはじめとして各国軍を取材。また最近では危機管理をテーマに警察や海保、消防等の取材もこなす。夕刊フジ「最新国防ファイル」(産経新聞社)、EX大衆「自衛隊最前線レポート」(双葉社)等、新聞や雑誌に連載を持つなど数多くの記事を執筆。そのほか、「ビートたけしのTVタックル」「週刊安全保障」「国際政治ch」等、TV・ラジオ・ネット放送・イベントへの出演も行う。アニメ「東京マグニチュード8.0」「エヴァンゲリオン」等監修も行う。写真集「陸自男子」(コスミック出版)、著書「なぜ自衛隊だけが人を救えるのか」(潮書房光人新社)「試練と感動の遠洋航海」(かや書房) 「がんばれ女性自衛官」 (イカロス出版)、カレンダー「真・陸海空自衛隊」、他出版物も多数手がける。YouTubeにて「KIKU CHANNEL」を開設し、軍事情報を発信中
  • https://twitter.com/kimatype75