菊池雅之のミリタリーレポート
アジア太平洋地域の安全保障に欠かせない!
フランス軍と陸自の交流【前編】


2017年5月、グアムで開催された日仏米英訓練に参加する西部方面普通科連隊。この部隊は、2018年に水陸機動団となる。

自衛隊と他国軍

 陸海空自衛隊が他国軍と演習をすることは珍しいことではなくなりました。

 中でも海を介して世界中どこにでも行くことが出来る海上自衛隊については、早い段階から米軍をはじめ、その他の国々の海軍と海流は盛んでした。
 1980年にはハワイで行われている環太平洋合同演習『リムパック(RIMPAC:Rim of Pacific Ex)』に参加しました。
 しかし、この派遣を巡り、国会は紛糾しました。
 理由は、海自がアメリカをはじめとした他国軍と訓練するということは、「集団的自衛権の行使」に当たるとの主張からです。確かに、海自が多国間演習に参加するということは、「集団的自衛権の行使」につながる行為です。そこで、防衛庁(当時:現防衛省)は「多国間演習ではあるが、あくまで米軍とだけ訓練を行う」という、半ば強引とも思える方法で部隊を送り出しました。
 しかしながら、決して嘘をついているわけではありません。『リムパック』は、日米による“バイラテラルフォース”と米軍とその他参加国による“マルチナショナルフォース”という2本柱で演習が行われていきます。よって、理屈では、海自は国内で行う訓練同様に、米軍とのみ訓練を行っているのです。
 ……しかし、“バイラテラルフォース”と“マルチナショナルフォース”はまったく連携していなかったか、と問われれば決してそんなことはありませんでしたが…。

 航空自衛隊と陸上自衛隊もようやく他国軍との交流が行われていきます。特にここ数年、陸上自衛隊は積極的に米軍以外と訓練を行うようになりました。

 まずは、オーストラリアやタイなど、アジア太平洋地域での軍事交流がスタートしていきます。徐々に発展していき、遂にはイギリスやフランスと言ったヨーロッパ諸国陸軍との交流も深まりました。

2017年4月29日、佐世保港に入港する強襲揚陸艦「ミストラル」。航海実習訓練「ジャンヌダルク」の一環として、これ以降、日本に寄港していくことが決まる。

日仏同盟!?

 今、最も注目すべきがフランス軍との関係です。

 フランスは、ヨーロッパにありながら、中国に領土を奪われる恐怖を感じています。というのも、南太平洋のポリネシアやニューカレドニアなどに領土を持っているからです。それら本国から遠く離れた領土を守るために、タヒチ島などに軍を常駐させています。

 太平洋警備用に配備された2隻のフリゲイトで、定期的に南太平洋から南シナ海をパトロールしていますが、ここ数年は、中国の妨害工作により、行動に支障が出てきてしまいました。今の南シナ海の現状を見ると、中国が南太平洋へと領土拡大を狙うのは間違いないうえ、インド洋にも触手を伸ばしている事実は看過できません。なぜならフランスは、インド洋にも領土を持っているからです。よってインド太平洋における航行の自由を何が何でも守る必要があります。

 ここで、日仏の目的は一致しました。インド太平洋の安全保障を確立し、航行の自由を守なればなりません。

 そこで、日仏外務・防衛閣僚会合(2+2)が開催されていきます。その中で、「日仏防衛協力を深化させるためには、実践的な共同訓練を実施するべきである」と合意に至りました。

 最初のチャンスとなったのが、2017年です。

「ジャンヌダルク2017」では、イギリス軍兵士(迷彩服の隊員隊)たちも「ミストラル」に乗り込み、日仏米とともにグアム島での訓練に参加した。

 フランス海軍では、士官候補生等の航海実習として、世界を巡る「ジャンヌダルク」と銘打った長期航海を実施しています。毎回、強襲揚陸艦「ミストラル」級(同型艦を3隻保有しています)を旗艦としています。この途上、日本に寄港させることにしたのです。「ジャンヌダルク2017」では、仏英陸軍・海兵隊も乗り込んでいました。

 こうして2017年4月29日に佐世保に入港。ここで日本版海兵隊こと水陸機動団の前身となる西部方面普通科連隊の隊員と米海兵隊員も「ミストラル」に乗り込みました。準備を整え、5月5日出港し、輸送艦「くにさき」と訓練を実施しながらグアムを目指しました。

 そして、グアムに到着すると、第1回目となる日仏英米共同訓練が行われました。メインとなるのが、グアム海軍基地にある浜辺で行われる大規模着上陸訓練です。

…しかし、フランス軍の上陸用舟艇が誤ってサンゴ礁を傷つけ、グアム州の逆鱗に触れ、訓練が中止になってしまいました。第1回目にして、後味の悪い結果となってしまったのは、残念です…。

再びやってきたチャンス

 2021年、フランス軍は「ジャンヌダルク21」として、再びアジア太平洋方面へと長期航海をすることにしました。ここで、再び日本へと寄港し、今度は、なんと日本国内にて陸自とフランス陸軍との訓練を行うことが決まりました。

 2月18日、強襲揚陸艦「トネール」、フリゲイト「シュルクーフ」の2隻は、母港である南仏トゥーロンを出港しました。陸自との訓練に参加するため、仏陸軍第6軽機甲師団の兵士たちが乗り込みました。

 エジプト、ジブチ、インド、インドネシア、ベトナムをまわり、南シナ海を抜け、5月9日、佐世保港へと入港しました。

 こうして、2021年5月11日から17日に渡り、九州及び周辺海域、及び相浦駐屯地及び霧島演習場において日仏米豪共同訓練『ARC21』が開催されました。このコードネームは、「Jeanne d’Arc(ジャンヌダルク)」の後ろの部分を取ったものです。

 この『ARC21』の詳細については、後編にて詳しくお伝えしましょう。

グアム島で行われた日仏米英訓練にて、打ち合わせをする日仏両幹部。

西部方面普通科連隊によるグアム島上陸訓練の様子。フランス軍のミスにより共同訓練が中止となったため、陸自単独での訓練となってしまった…。

菊池雅之(masayuki kikuchi)
  • 軍事フォトジャーナリスト.。1975年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。講談社フライデー編集部専属カメラマンを経て軍事フォトジャーナリストとなる。主として自衛隊をはじめとして各国軍を取材。また最近では危機管理をテーマに警察や海保、消防等の取材もこなす。夕刊フジ「最新国防ファイル」(産経新聞社)、EX大衆「自衛隊最前線レポート」(双葉社)等、新聞や雑誌に連載を持つなど数多くの記事を執筆。そのほか、「ビートたけしのTVタックル」「週刊安全保障」「国際政治ch」等、TV・ラジオ・ネット放送・イベントへの出演も行う。アニメ「東京マグニチュード8.0」「エヴァンゲリオン」等監修も行う。写真集「陸自男子」(コスミック出版)、著書「なぜ自衛隊だけが人を救えるのか」(潮書房光人新社)「試練と感動の遠洋航海」(かや書房) 「がんばれ女性自衛官」 (イカロス出版)、カレンダー「真・陸海空自衛隊」、他出版物も多数手がける。YouTubeにて「KIKU CHANNEL」を開設し、軍事情報を発信中
  • https://twitter.com/kimatype75