オープンカーのニコロ・パガーニ!?
レクサス LC500 Convertible


 19世紀前半に活躍したニコロ・パガーニ。彼はヴァイオリニストでありながらも作曲家として活躍した音楽家である。天は二物を与えずというが彼の場合は作曲、演奏技巧と十分すぎる二物を与えられていた。レクサスLC500コンバーチブル。このクルマはまさにそんな感じだ。

 LC500コンバーチブルは同ブランドのフラッグシップクーペ、LC500のオープンモデル。クーペモデルから遅れること2020年に発売された。レクサスといえば静粛性に多くの支持が集まる。このモデルもしっかりそれを受け継いでいる。まず走り始めた時にその静かさに感動を覚えるはずだ。特にオープンカーの経験がある方ならばお分りいただけると思うが、幌を閉めていてもなんとなく音が入ってきたり、自車の音を感じてしまうもの。

しかしこのモデルは違う。クーペ同様の静粛性を持つ。もちろん、粗探しをすれば多少の音はあるが不快な分類の音は皆無。ソフトトップを閉めた状態ならばオープンカーと思えない静粛性がエモーショナル。ルーフトップは吸音材を含む4層構造なのもあるが、この必要な音以外キャビンに入ってこないのは音響シミュレーションによって吸音、遮音を行い、ノイズ自体を発生源から抑え込んだ賜物という。こう書くとなんとなくお風呂のカビ退治みたいだが、事実静かである。

 ソフトトップの幌を開くのに特別なことは必要ない。コンソールのフタを開ければスイッチがある。

 このスイッチを操作するだけで約15秒後にはオープンエアを楽しめる。
作動状況はメーター内でも確認可能だ。

 この15秒間の間も優雅な所作があるのだ。例えば襖を開ける時に、正座して少し開け、再び開けるといったような日本人の感性に近い。そしてこの一連のエンターテイメントは50km/h以下と制約があるけれど走行中でも動作可能。

 さてオープンでの走行で気になる風の巻き込みだが4座モデルではかなり少ない。後席が犠牲になってしまうがオプションのウィンドスクリーンを装着すれば、高速走行でも覚悟どころかごくごく普通にクルージングできた。

キャビンの快適性はその空調にも秘密がある。レクサスクライメイトコンシェルジュといわれるソレだ。これはルーフの開閉を判定し、オートエアコンと連動してシートの空調やステアリングヒーター、シートに内蔵されたネックヒーターまで自動制御。オートにしておけば日射や外気温、車速などに応じて風量を調整してくれるスグレモノ。シート本体もコンバーチブル用に座面や背もたれに体が沈み込むたわみ量を拡大させた深吊り構造でスポーツクーペと構えて座ってもいい意味で期待を裏切られる出来の良さ。

 写真はウィンドスクリーンを装着した状態。また全長4.7m以上のボディサイズだが2+2の宿命、後席の実用性は推して知るべし、というところか。

もちろんこのクラスの後席ゆえその作りも豪華になっているが、本革製の贅沢なコートやカバン置きと考えても間違いはない。

エクステリアの一部といわれるオープンカー、ヘッドレスト後ろ側にはレクサスのロゴを入れるなどインテリアの見栄えも考えられている。

 さて最も気になる走りも秀逸。オープン化にあたってボディ補強を行った結果、クーペに対して120kgの車重増で、2t超のヘビー級。しかし2t超を感じさせないのがエンジンだ。
コンバーチブルのパワーユニットはLSやセンチュリーに搭載されるモノをベースにヤマハと共同開発したスポーツ走行に最適化されたモノ。専門誌的表現ならば型式2UR-GSEと呼ばれLC系とRC Fに搭載している5リッターNAのV8になる。

LC500コンバーチブルのエンジンスペックは477PS、540Nm。RC Fに対して最高出力は4馬力のダウンだが最大トルクは5Nmのアップ。特筆すべきはこのユニット、ノーマルながらも素敵な音を聞かせてくれることだ。レクサスのチーフブランディングオフィサーでマスタードライバーでもある豊田章男氏も「開発が進んでもエンジン音を静かにするようなことはしないで欲しい」と試乗後に言った逸話があるほど。

マニアックな話で恐縮だがこのエンジン、排気系でいうと4600rpm以上でバルブが全開、3400rpm以下で全閉。45km/h以上でのシフトダウン時にはたとえエンジンが低回転であっても2.5秒間だけバルブが全開になる構造。大排気量NAのレスポンスの良さ、回転に合わせて増えていくトルクやパワーそれを右足で扱っている実感、つまり超絶気持ちのいいエンジンなのだ。組み合わされるミッションは10AT。ちなみにこのAT、クーペと違いコンバーチブル専用のチューニングというこだわり。走り出せばクーペのそれよりも重心が低いということもあって終始安定感があるし、ハンドリングの正確性も魅力的。全てにおいて余裕があるのだ。それでいてぜエンジンの回転や音に魅了され、流して走りたい時は高い静粛性で音楽も楽しめる。

 クルマの価値が数値化されて久しい。数値至上主義で伸びていった日本車だがこんなに感性に訴えるクルマは多くはない。
 冒頭のニコロ・パガーニは名器ストラディバリウスと双璧をなすグァルネリの愛用者。余談だが一般的にストラディバリウスは高音が美しく、グァルネリは低音が美しいとされるが、LC500コンバーチブルは乗り手の気持ち次第でどちらも楽しめるのだ。さすが感覚、感性を大切に考えているメーカーだけある。

LC500 Convertible

全長×全幅×全高:4770×1920×1350(mm)
エンジン:4968ccV型8気筒
最高出力:477PS(351kW)/7100rpm
最大トルク:540Nm/4800rpm
WLTCモード燃費:8.0km/L
価格:1500万円〜

レクサス https://lexus.jp/
問 レクサスインフォメーションデスク TEL:0800-500-5577

海野大介(daisuke unno)
  • 自動車ライター。専門誌を経て明日をも知れぬフリーランスに転身。華麗な転身のはずが気がつけば加齢な転身で絶えず背水の陣な日々を送る。国内A級ライセンスや1級小型船舶操縦士と遊び以外にほぼ使わない資格保持者。