どこまでも「純粋」なマセラティMC PURAに試乗!!

キーワードは「純粋」

「純粋」という名を持つマセラティのスーパースポーツ、MC PURA。そのオープンモデル、Cielo(以下、チェロ)で500km近いドライブを敢行。MCはマセラティ・コルセの略で、PURAはスペイン語で「純粋」。チェロは車名通りすべてが「純粋」だった。

マセラティは創業1914年の一世紀企業。当初は完全なレーシングカーの製造メーカーで、レースに勝つためのクルマを作っていた。市販車を手がけるようになったのは1947年。A6 1500というモデルで、ピニンファリーナ製のボディを纏う優雅な一台として知られる。

ブランド最初のロードカーがデビューするまで約30年と、企業の歴史の3分の1はレーシングコンストラクターで、そのクルマ作りは乱暴に言ってしまうとレーシングカーか市販車、特に長距離を快適に移動できるグランツーリスモの2本柱でもある。このA6もレーシングモデル、6CMのグランツーリズモ版といった立ち位置で、ブランドの核(サーキット由来のグランドツアラー)はずれていない。

クルマに輝くのはトライデントのエンブレム。これはボローニャのネプチューンの泉から着想を得た三又の矛に由来し、今年はそのトライデントを採用したレーシングカー、Tipo26が過酷な公道レース、タルガ・フローリオを制したアニバーサリーイヤーになる。それを記念した腕時計も発表された。スイスのビアンシェとコラボしたそれはフライング・トゥールビヨン構造を採用し、最大5000Gの負荷に耐える性能を持つ逸品。

スタイリングも「純粋」

話は現代に戻ってチェロ。同車は2020年に発表されたMC20の後継モデル。MC20にもオープンバージョンの「Cielo」もラインナップに。若干の意匠変更を受けたフロント以外は、ほぼほぼMC20からのキャリーオーバー。試乗車はシレヌーゼホテルから見える海が反射したような淡い空のようなボディカラーの1台。

よく例えられる話だが、イタリアのスーパースポーツカーはカッコいい。そのカッコよさの中に「美的」とか「迫力」のキーワードでブランドがわかるようなモノ。しかしマセラティは別だ。

昔のビトゥルボ系は見た瞬間にカッコイイというオーラはあるけれど、どことなく高貴な印象もあって言葉にしにくいようなその妖しい雰囲気がたまらなく魅力だった。MCはもっとわかりやすい。高貴でカッコイイ。そして肝心などことなくの妖しさもある。これもブランド創業から連綿と流れる純粋でもある。

なお試乗車のボディカラーは別途注文で、価格もびっくりの305万円! 試乗車はインテリアのカーボンファイバーパッケージとかその他諸々合わせてのオプション合計金額は約950万円也!! ところがこのオプションにこそ現代のマセラティである。

イタリアの自動車メーカーは特に戦前は基本的なボディやエンジンこそあるけれど、それ以外はフルオーダーシステム。現代のステランティス内でもマセラティはいたずらに販売台数を考えるのではなく、顧客の満足度をより高めるための販売方法に力を入れるブランドにシフトしている。

代表的なモノはフォーセリエという自分専用のクルマをオーダーできるビスポークプログラム。チェロは往年のビトゥルボ系のように数杯のカクテルよりも効きそうなレザーにも対応できるし、そんな時でもヘッドレストのブランドロゴは何通りからか選択可能。

ドアは上に開くバタフライドア。場所を取らないかと思いきや斜め上に開くので横幅のゆったりした駐車場を強く推したい。ただしキチンと開くと激低な車高の割にすごく乗り降りしやすい。

そしてスタイリングや走りが優先ながらも前後にトランクスペースが用意されており、工夫次第では1泊2日分の荷物はなんとかなりそう。スーパースポーツでもGT要素があるのはさすがだ。

チェロの持ち味でもあるルーフのオープンクローズは約12秒。50km/h以下ならば走行中でも可能。しかしながら忘れてはイケナイ。多くのメーカーが言っているようにこのギミックはギャラリーに見せるためのモノ。チェロはリアフードが立ち上がりルーフを収納するのだが、リアフードにはトライデントのロゴ。撮影車両はボディカラーと同色だったためロゴが目立たなかったが、ロゴを際立たせるボディカラーならば後続車に「三又の鉾」をしっかりと見せられる。これはマセラティなんだぜぇというふうに。

しかし世の中に雨というモノがある。このバックスキンを贅沢に使った内装でも気にしねぇぜ! というオーナーは別としてそういう時は屋根を閉めざるを得ない。そんな時にはチェロの売りでもあるガラスルーフ(高分子分散型液晶技術が盛り込まれる)はスイッチ、いやタップひとつで半透明と透明が切り替え可能。

走りは「無垢」

重めなドアをガバッと上に開いてコクピットに座ると、トップとボトム部がフラットな小ぶりのステアリングにテンションはアゲアゲ。カーボンセンターコンソール前部にはWET、GT、スポーツ、コルサと4つの大きなドライブモードセレクター。コルサ以上だとESCが解除可能だ。ステアリングのエンジンスイッチを押すとエンジン自体がその存在を主張してくる。20秒くらいたつとその音色が落ち着き、発進可能だ。

スーパースポーツカーでも今時のモデルは無駄なアイドリングが不要で、ゆっくりと走りながら暖めていけば良いのだ。乗り味は路面のうねりや轍が硬めなシートを通じてダイレクトに伝わる。しかし不快なベクトルではない。なるほどグランツーリスモを謳うブランドだ、と納得。

チェロの基本骨格はダラーラ製のカーボンモノコックボディ。ダラーラといえばフォーミュラかーなど純レーシングカーのコンストラクターで知られるメーカー。それがMCの骨格を作ったのだ。戦車並みの頑丈なボディが硬めなサスをしっかり動かしているので、むしろこういったベクトルのクルマにしてはかなり乗り心地がいい。

3リッターV6ツインターボのエンジンは、低回転域でもトルクがスカスカ、あるいはターボが効くまでは眠たげ、そんなユニットではなく、車高や車幅を考えなければ近所のコンビニに行けるくらい乗りやすい。630PS、720Nmもあるのに。

びっくりするのは延々1時間近くかかった首都高の事故渋滞でも水温計はびくともしないコト。その昔のビトゥルボ系を知っている人だと、「水温計が壊れてるのよ」とか言いそうなくらい。しかもエアコンも効かせて、だ。

組み合わされる8速のDCTは約2000rpmでシフトアップされる。水温、油温が適温になった頃にMTモードを試す。状況によっては1750rpmあたりでシフトアップできたが、基本的には2000rpm付近では受け付けてくれないことが多かった。考えようによっては、その回転域はプーラにとって「そんな回転で走ってるんじゃない」のかもしれない。

高速では7速2000rpmで120km/h、1500rpmなら100km/hだ。6速は1500rpmで80km/h。115km/hを超えると8速に入り、そのまま120km/h巡航だと1500rpm。ただし状況によっては120km/hで巡航していても8速を維持できず、7速に落ちてしまうことも。なお2速7000rpm付近は110km/hだった。

条件が許す場所で低いギアを使い3000rpmあたりで走ると別の顔が見えてくる。そこから少し踏み込んだ世界、グッと踏み込んだ世界はまるで違う。4000rpmを超えてからの天井を知らないようなエンジンの回り方。しかもそれが自分の意思に寸分の狂いなく直結している感覚がまた気持ちいい。この一瞬の加速があれば他に何を求めようか、という雰囲気。

クネッた道では意外に脚の柔らかさを感じた。ドライブモードをスポーツ以上にしておく方がなんとなくの安心感もある。

今回の試乗で筆者が抵抗を感じたのはタンク容量の少なさ。高速5割、山道1割、街中2割、渋滞2割と500km以上走ったが、平均燃費は6.5km/Lに落ち着いた。最高は高速の左車線を流している時で8.0km/L。そうすると60Lタンクが小さく、給油回数が多くなった。

一途なエンジンメーカー

マセラティ、ジツはエンジン偏重メーカーでもある。日本がバブリーな頃は世界初の量産車にツインターボを搭載したことで知られる。そしてイケイケな時代背景と相まってそのスタイリングや内装、金時計がクローズアップされた。

チェロに搭載されるのは、マイルドハイブリッドでもない純粋な内燃機関。マセラティ独自のV6エンジン。しかもクランク角90度のエンジンは同ブランドの伝統品で、長い間V8でもV6でも使われているモノ。

チェロのエンジンはF1由来の副燃焼室付きで、率先して新技術を導入するのもブランドの伝統だ。その昔、詳しくは専門誌に譲るけれど、乱暴にいうとオイルパンと半分一体になったようなクランクカバー構造をいち早く採用。この技術は1970年代にポルシェが導入し、現在も多くのメーカーが使っている発想を1950年代にいち早く取り入れている。結果的に低い排気量でも大パワーを出せるユニットに仕上がるという。90年代、ギブリのワンメークレースの公道バージョンとして販売されたカップカーもリッター165PS。この数値は当時のブガッティEB110よりもジャガーXJ220よりもリッターあたりの馬力を凌いでいた。ただし通常のギブリと違ってオルタネーターの位置がボディ下部に移っているので雨天時は乗らないほうがいいらしい、というオチはあるけれど。

伊達男はピュア

よく巷で言われる「伊達男」の定義は、見た目だけのカッコ良さでなく内面的なオシャレと身だしなみを大切にする人。そして無駄を楽しみ、遊び心を忘れない、大量生産的な画一性とは違う独自の世界観を持ち、どんな状況でも冷静で気取れるプライドを持つという。

マセラティはスタイル、テクノロジー、高級感とすべてを併せ持つブランド。オシャレで身なりや振る舞いに品のある伊達男を具現化したメーカーとしても知られる。そしてそこが作るモノはクルマに対する技術、想い、顧客への提案すべてが詰まっている。

その気になれば激速なのに隣にゲストを乗せてオープンエアだけでなく景色を楽しめるクルマの振る舞いはまさに伊達男。流している時はあくまでも美しいスポーツカーだった。

MC PURA Cielo

価格3545万円から
全長 × 全幅 × 全高4667 × 1965 × 1214(mm)
エンジン2992ccV型6気筒ツインターボ
最高出力630PS/7500rpm
最大トルク720Nm/3000-5500rpm

マセラティ
MC PURA
問 マセラティ コールセンター 0120-965-120

海野大介(daisuke unno)
  • 自動車ライター。専門誌を経て明日をも知れぬフリーランスに転身。華麗な転身のはずが気がつけば加齢な転身で絶えず背水の陣な日々を送る。国内A級ライセンスや1級小型船舶操縦士と遊び以外にほぼ使わない資格保持者。

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