「だってカローラでしょ?」はもう時代遅れ! 5ドアなのに2シーターの「GRカローラモリゾウエディション」で心臓バクバク!

日常的なカローラの非日常的なクルマ

カローラというと一家団欒、笑顔食卓と平和な響きがある。そして最近は薄まってきたとはいえ、オヂサンっぽいとか営業車っぽいとかのイメージがついてしまうかもしれない。しかし、今回登場するカローラはちと違う。どちらかというと戦闘的で、血糖値ならぬ決闘値も高くなりそうな雰囲気を漂わせている。

GRカローラはレースで勝つために鍛えたクルマを市販化するという「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」から産まれた。公道だからそんなスペックはいらん! と思うかもしれないがサーキットは公道と違いクルマへの負荷が半端ない場所。そこで鍛えられたクルマは公道ならばゆとりがある。そうすればドライバーも運転に余裕が生まれる、ひいては安全なクルマでもあるし、ちょこっと頑張ってみようかな的な運転シーンでも自分の意思が余すことなくクルマに伝わる。これって「いいクルマ」のベクトルのひとつだと思う。

若人が買える価格帯でスポーティさと実用性を両立させたクルマとして1966年にカローラはデビューした。モータースポーツでは1973年に2代目カローラ(TE25型)がWRCで勝利し、1975年には2代目に設定されたスポーツモデル、カローラレビンが現ラリーフィンランドの前身でもある1000湖ラリーでも勝利を収めた。つまりカローラは元来、モータースポーツの素性がいいクルマなのだ。そして最近ではスーパー耐久に水素エンジンを搭載したカローラで新たなステージに挑戦している。

さてGRカローラである。「お客様を虜にするカローラを取り戻したい」と豊田章男前社長の強い思いがあったからこそ実現したモデルと言ってもいい。章男前社長はクルマ好きにはモリゾウというサーキットライセンス名の方が有名かもしれない。

2000年代のアタマにマスターテストドライバー、成瀬弘(ひろむ)さんから運転を習い、2007年にはドライバーとしてニュルブルクリンク24時間耐久レースに参戦。このモータースポーツを起点とした「いいクルマづくり」は今も受け継がれ、このあたりを書くと数冊の本が出ているくらいなので割愛するが、運転好き、クルマ好きのモリゾウさんはGRカローラにはなくてはならないのだ。

そして、氏は社内でクルマの味付けを評価するマスタードライバーでもある。試乗車はそのモリゾウさんこだわりのGRカローラ・モリゾウエディション(以下ME)。フロントガラスには氏のサインが入っている。

タダモノではない雰囲気の機能美

MEのイデタチはひるんでしまうくらい本気だ。見えないところの詳しい解説は専門誌に譲るが、見えるところだけでもクルマ好きのツボをついてくる。

試乗車のボディカラーはオプションのツヤ消し色、マットスティール。そしてボディ随所には放熱や空力を意識したエアアウトレットが多数。ボンネットはもちろん、左右のフェンダーはフロントが20mm、リアは30mm拡大。この数値は片方あたりだから、フロントは4cm、リアは6cmもボディが広がっているのだ。

もちろんこれは太いタイヤを履くため。タイヤ幅はベース車に対して幅広の245/35になっている。履いているタイヤはミシュランのパイロット・スポーツ。銘柄はカップ2。つまり公道「も」走れるサーキット用タイヤだ。余談だがMEではないGRカローラはヨコハマのアドバンエイペックスV601を履く。ルーフはカーボンでその模様がまたテンションアゲアゲに。さらに大開口部を持つフロントグリル周辺を見るとフォグランプの横にブレーキ冷却用のダクトがある! 本気過ぎるぜME。

すべては運転の楽しさのため

一方、室内はインパネデザインにカローラスポーツの面影を残すけれど、随所に人工皮革のウルトラスエードを使い、赤いステッチをアクセントに採用。これですよ、やっぱりスポーツカーは赤なんだなぁ。気分的に。シートはセミバケットタイプ。これが掛け心地が良いだけでなくホールド性も高かった。

さて後席のドアを開けると、平らで荷物を置くのに便利そう……ってシートがない!(これを言いたかった) 5ドアなのに。知識としてMEは軽量化のために後席を設けていない、と聞いてたがなるほど、こういうことかと納得。それにしても、すごい眺めだ。後席のスペースはリアサスペンションタワーブレース(補強材)が加えられている。いわゆるタワーバーってヤツだ。これは洗車時の雑巾を干すのに便利そう、というのは冗談だが、実際はサーキットユースなどで4本のスペアタイヤを積むのに便利なモノ、らしい。

そしてそのためのタイヤ固定ベルトがGRロゴ入りでオプション設定がある。これが生粋のレーシングカーやラリーカーならば塗装むき出しのボディが見えるのだろうけど、こちらはあくまでも市販車。その雰囲気だけでもまた気分が盛り上がる。公道「も」走れるんだぜぇ、しかもメーカー謹製だぜぇみたいな。ヤリスでもGRMNがそうだったとか言わないように。アチラは一応3ドアモデル、コチラは5ドアなのだ。

ちなみに後席ドア、窓もあるがこの窓は固定されて開かない素敵なリビングルームの採光用と言った趣。パワーウィンドウのスイッチ跡はGRのロゴ入りのカバーがある。フムフム。あるべきモノがないだけでこんなにテンションが上がるとは。実用的なクルマをベースにメーカー「が」カスタマイズした、と言うだけでワクワクドキドキ感が止まらない。これを羊の皮を被ったオオカミと言わずなんと言おう。

厳しくても使いやすいの、最新モデルだもん

筆者のコーフンはまったく冷めぬ。エンジンをスタートすると軽量化のため遮音材も省いたというサウンドが聞こえる。でも全然うるさくない。トヨタとしては大きい方の分類かもしれないが、ちょうどいい音量だと筆者は思う。むしろ小さいくらい。ステアリングを握った手を下ろせばあるシフトを1速に入れ適度な重さのクラッチを踏んで発進。クラッチミートもダイレクトな感じだ。昔の強化クラッチや社外品のパーツを経験した御仁ならお分かりいただけるかと思う。そう、走ることを最優先にしているフィーリング。でも大丈夫。MTカムバック組にも優しい、エンストしないように頑張ってくれるiMTがついているから。

ダイレクトなステアリングの頂点には赤いラインが入っており、スポーツ走行ではハンドルの切り角が把握しやすい。その奥に鎮座するメーターはGR車両専用に開発されたフルTFTメーター。それにしてもすごいボディの剛性感だ。これは走る金庫やないかい!と彦摩呂調に語ることは間違いない。補強に関しても専用の接着剤を通常(といっても十分ホットモデルだが)のGRカローラよりも3.3m分も増やしているという。

そして乗り心地は悪くないが、絶対的に硬い印象だ。と言っても即時腰痛、柔軟椅子希望とはならなない。シートの恩恵もあると思う。MEはタウンスピードでも楽しいぜ!

規定まであと2ccのエンジン

エンジンはWRCを制する目的で開発されたGRシリーズの専用設計ユニット。この響きだけでも気分は上がる。誰ですか、GRヤリスと同じという善良な読者は。そうGRヤリスと同じ1.6リッターの3気筒ターボユニット。その実際の排気量は1618cc。この18ccはWRCのエンジンレギュレーション、1620cc以下に準じておりその範囲内でもっとも規制に近い数値なのだ。

そのエンジンを開発中にそのまま載せたら、モリゾウさんから「買い物グルマ」と評されたというエピソードも。確かにヤリスとカローラではベース車両からして車重も大きさも違う。そこでピストンなどを強化、最高出力は304PSに。これはGRカローラと同じだが、MEの最大トルクは400Nmに高められた(編集部注:GRカローラは370Nm)。

そしてこのユニットはROMチューンとターボの過給圧アップだけで簡単に400PSを超えるというシロモノらしい。組み合わされるミッションはそのパワーを無駄なく加速に使うため、1速と3速のギア比を変えるこだわりよう。ちなみにこのエンジンは下山工場で「匠」の称号を持つ熟練工が製造し、ボディはスープラやソアラといったスポーツカーを作り慣れている元町工場内に新設されたGRモデル専用ラインのGRファクトリーで製造される。

僕が一番MEをうまく使えるんだ! と思える味付け

さてコーフン冷めやらぬ中で高速へ。2000rpm以下だとさすがに排気量の小ささを感じることもあるが、決して遅くはない。高速では6速100km/hで約2500rpm。120km/hで約3000rpm、80km/hならば2000rpm付近だ。5速なら80km/hで約2500rpm、100km/hで約3000rpm。この回転域なら踏めば即座に加速体制に入る。超絶な加速を味わう場合は3速5500rpmで100km/hに達する。

スポーツ4WDシステムはスーパー耐久で実戦テストを兼ねて活躍する水素エンジンのカローラのを市販車用に最適化したモノ。選択できるモードはモードは3つ。FFよりのトルク配分(前輪6:後輪:4)を持つフロントモード。リアモードはFRよりのトルク配分(前輪3:後輪:7)でトラックモードは超絶高い安定性を保つ4WD(前後均等配分)になる。

加えてドライブモードセレクトはエコ、ノーマル、スポーツ、カスタムの4つが用意される。またこのドライブモードには裏技があり、エキスパートモードが隠しコマンド(?)で用意されているのだ。

これはドライバーによる車両コントロール域を最大限に残しつつ、車両挙動が大きく乱れた時はその乱れを緩和させる制御が介入するというモノ。

さてクネッタ道に入る。これが超絶楽しい。自分の気持ちを見逃さないパワーの出方だし、曲がれば曲がったで「このボディ、スゲー!!!」とボンクラな筆者でも感じられるほど。ブレーキもダイレクト。止まる時は止めたい分だけ踏み込む。この塩梅が筆者のようなヘタッピが乗ってもヒール&トゥが楽しめるようになっている。気分アゲアゲ。おそらく腕がある方は腕にあった楽しみがあるのだ。

トルクの出方もレースで多用する3000-5500rpmに味付けされており、この回転域だと低いギアでクネッタ道を走った時も使うから、パワーの出方も気持ち良いモノ。早い話がチョー気持ちいいクルマなの。

MEは豊田前社長自らハンドルを握って走り込んだ5ドアなのに2シーターという気合いの入ったモデル。そのコンセプトは「お客様を魅了する野性味」を追求したという。これは言いえて妙で気分はワークスチームのドライバーかカルロス・サインツか、なのだ。すごい……親父が熱中するわけだ、と思わず言ってしまうのは間違いない。

それだけのコーナリングマシンにもかかわらず高速の巡行はカローラベースのロングホイールベースの恩恵で安定していて快適ドライブ。今回の試乗は高速5割、渋滞4割、山道1割だった。テンロクのカリカリチューン(死語)なエンジン(だと思う)なのに燃費は11.8km/Lを記録せり。感性に訴えるというのは間違いなく、気分が盛り上がる見た目やフィーリングも標準装備。しかし買えないの……。MEは70台限定ですでに抽選販売は終了しており、予算があっても買えないのだ。

う〜む。中古を待つしか手段はない。10年後くらいなら筆者も手が届く価格になっていることを祈りたい。ただ、程度の良いクルマが残っていれば、の話だけれど。より普通に日常も使えるGRカローラ RZは525万円からなのでそちらを狙うのもありだ。

GRカローラ
モリゾウエディション


価格715万円から
全長×全幅×全高4410×1850×1475(mm)
エンジン1618cc直列3気筒ターボ
最高出力304PS/6500rpm
最大トルク400Nm/3250-4600rpm

トヨタ
トヨタガズーレーシング
GRカローラモリゾウエディション
問 トヨタお客様相談センター 0800-700-7700

  • 自動車ライター。専門誌を経て明日をも知れぬフリーランスに転身。華麗な転身のはずが気がつけば加齢な転身で絶えず背水の陣な日々を送る。国内A級ライセンスや1級小型船舶操縦士と遊び以外にほぼ使わない資格保持者。

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