ロータリースピリット
MX-30  ロータリーEVに400km試乗!

マツダ上の雲?

マツダのMX-30が開化期を迎えようとしている。MX-30といえばロードスターに注ぐマツダのスペシャリティカーであろうか。一方マツダといえばロードスターのイメージが強く、SUVといえばCXシリーズしかなかった。そしてスカイアクティブ技術によって幅広いエコカーを持つにいたった。

多くのモデルがエコ「も」売りになった。ユーザーはその新鮮さに昂揚した。この痛々しいばかりの昂揚に追い打ちをかけるかのようにマツダは象徴を復活させた。ファンたちはロータリーエンジンの響きにも魅了された。本稿の主人公はマツダの意気込みということになるかもしれないが、ともかく我々は2つのことを追わねばならない。

ひとつはロータリーエンジンの歴史である。量産化は不可能とまでいわれた夢のパワーユニットがどう歩んだのか。そしてそのエンジンを搭載した最新のモデルである。マツダはいかなるモデルも人馬一体感を味わえるようにクルマを作っていく。技術者は諦めることなくただその高みに登って行くのだ。と故・司馬遼太郎大先生の名著「坂の上の雲」ばりな文章で始まったが、ロータリーエンジンなのである。燃費や環境対策などで姿を消してしまったあのロータリーが復活したのだ。これがコーフンせずにいらりょうか。というわけで今回はMX-30ロータリーEVをご紹介。

広島の奇跡

内燃機関が世に出てから実現不可能と言われ続けたのがロータリーエンジン。高効率でコンパクト、ひとつの気筒内で絶えず燃焼が行われるため小さな排気量でもハイパワー化できるメリットもある夢の技術だった。それを西ドイツのNSUが開発した。新進気鋭のユニットとして誕生したのだが耐久性など難点も多い。マツダはその技術を供与され、自社で改良をすることに。

そこに集う志のある者は開発責任者として山本健一氏を筆頭に47名。と講談のようになったが、事実、社内ではロータリー47士と呼ばれた。決して集合は山鹿流の陣太鼓であったり、要求を通すために役員室に打ち入ったりすることはない。

ロータリーエンジンは山型食パンの耳だけを残したようなハウジング内をおにぎり状のモノが動く。構造自体はいたってシンプルなのだが、机上の理論だけで済めば苦労はいらない。耐久性の問題、振動の問題などなど課題山積で、ようやく市販化に漕ぎ着けたのが1967年デビューのコスモスポーツになる。

ジツに6年の歳月をほぼエンジンだけに費やしていた。この不可能と言われたパワーユニットを実用化したことを巷では広島の奇跡と言われ、試験に出るので覚えておいてソンはないと思う。マツダはこのコスモスポーツを皮切りに多くのモデルにロータリーエンジンを搭載、中には1974年登場のマイクロバス、「パークウェイ」にも載せたこともある。コンパクトでハイパワー、これがマツダのブランドイメージを作ったのだ。

パワーユニット界の「星飛雄馬」

そんなロータリーエンジンだが危機が訪れる。環境規制のマスキー法。当時クリアは不可能と言われたその規制法のため、多くのメーカーが動力性能を落とせざるを得ない。パワーは出るがライバルに比べ燃費に劣るロータリーエンジンは不利と思われた。

まさに「巨人の星」の大リーグボール1号(編集部注:梶原一騎先生の漫画です)。作中では高い集中力を要する疲労の激しいボールと解説された。これはロータリーエンジンに通じるモノがあるではないか。それを予告ホームランで打たれた飛雄馬(編集部注:同作品の主人公です)は呆然自失し、マウンドに膝をついてしまう。まさにこれですよ、コレ。ロータリーエンジンはパワーはあっても燃費は悪い。しかし飛雄馬同様、マツダの技術陣は諦めなかった。

性能を維持していても燃費を40%も改善したロータリーエンジンを開発、ホンダのCVCCエンジンに次いでその排ガス規制をクリアした。そのエンジンを搭載したクルマが1975年登場のコスモAPである。APのネーミングはアンチ・ポリューションの頭文字になる。この対応エンジンは1975年のGMホールデンをベースとしたフルサイズセダン、ロードペーサーにも載せられた。

また燃費の良さと耐久性を証明するために耐久レースへも挑戦。1991年には787がルマンを制し、これはロータリーエンジンとしても世界初の快挙だった。その後ロータリーエンジンは新たな可能性を求め、RX-8のエンジンをベースに燃料を水素にしたハイドロジェンREなどがリリースされた。これは世界初の実用化水素ロータリーエンジン。ジツはこのモデル、単にコンセプトカーとしてではなく、官公庁向けだが8台を販売している。

ロータリー復活!

コンパクトSUVのMX-30にロータリーを載せたPHEVモデルがデビューした。やはりマツダ=ロータリーのイメージが強い1975年式の筆者にとって素直に嬉しい。ベース車両をPHEV化するにあたりコンパクトなロータリーエンジンを載せた、だけかもしれないがマツダの心意気ココにあり! で市場アピールも効果絶大と思う。

賢明な読者の皆様、EVにロータリーを載せたモノなら2013年にデミオEVをベースにしたREレンジエクステンダーがあったとか言わないように。一般に販売しなかったモデルとブランドラインナップに入っているモデルはやはり違うのだ。で、MX-30ロータリーEVである。詳しい試乗レポートは「モノ・マガジンTV」にあるので、ココでは簡単な印象をお伝え申す。

試乗車はエディションRという特別仕様車。2トーンカラーのマローンルージュメタリックのボディはコレぞ令和のスペシャリティカーといった感だけでなく、加えて落ち着いたオトナ向けの雰囲気も醸し出され、早い話がとってもオシャレさんなのだ。

そして左右のフロントフェンダーにはロータリーエンジン搭載車である証のモチーフバッヂがある。同車の特長でもある観音開きの後席ドアは健在。使い勝手ウンヌンではなく、クルマはやはり個性である。そして前席シートのヘッドレストにはロータリーロゴの刻印が。いい! 素敵だぜマツダ!!

センスの良さを感じるインパネも通常モデルと変わらないデザインなのだが、なんと!! 速度計が160km/hまでの表示になっているではないか。そういえばメルセデスのEQシリーズの速度リミッターが180km/hということで「それ以上はエネルギー効率が著しく低下する」ようなニュアンスのことを聞いたことを思い出した。MX-30もエネルギー効率ギリギリの速度メーターなのかもしれない。

まあ、一般公道では必要のない速度だが。MX-30の特長のひとつでもある浮いて見えるフローティングコンソールのシフト横のスイッチはドライブモード切り替えで、選択できるのは3つ。完全EVとして走るEVモード、デフォルトのノーマルモード。これはバッテリー残量が45%以下になるとエンジンが始動する。

そして積極的に充電するチャージモード。なおバッテリーが満充電、つまり100%ならばEVとして最長107kmの走行が可能である。自宅に充電環境があれば片道50kmの通勤なら大抵は燃料を消費しない。実際走り出すとガツンと回生ブレーキを作動せるような味付けはしておらず、内燃機関のクルマから乗り換えても違和感どころか出足の早いちょっとしたスポーツカーになっている感覚。

この「あえて」の制御はドライビングフィールにこだわるマツダらしさ、だ。この「あえて」のフィーリングは乗れば乗るほど疲れにくく感じた。特に高速域での減速感は自然で、EVにありがちなワンペダルドライブでつんのめるような減速は微塵もなく、同乗者、後続車含めても構える必要がない。

またEVが不得手とされる高速走行も大きくバッテリー残量が減ることなく、エンジンとのパートナー性が高いと思う。ロータリーエンジンとは名ばかりで載っているだけとガッカリしないでも大丈夫。速度差のある右車線にレーンチェンジするときにキックダウンをしたところ滑らかに力強く加速しつつ、控えめだがキチンとロータリーサウンドも聴こえる。この滑らかながらもどこまでも続きそうな加速感は昔、ロータリー搭載車でブイブイ言わせてた(死語)御仁も満足すると思われる。

気になる燃費だが、今回は横浜ー都内ウロウロ、都内ー前橋の往復で約400kmを走り、メーター表示で21.1km/Lだった。カタログを上回る好成績ではないか。また充電に関しては、SAやショッピングモールの駐車場にある急速充電器を使おうか、と思って入ったが先客万来。完全EVだと充電中のクルマのいつ終わるとはない充電時間中、順番待ちなど待たなくてはならないがコチラはPHEV。最悪ガソリンが入っていれば走り続けることができる。出先などでのこの心理的余裕はヒジョーに大きい。

加えて非常時にも「使える」よう、満充電、ガソリン満タンの条件があるけれど約9日はクルマの電源を家庭に使えるV2h対応。しかもロータリーエンジン搭載。今回の試乗で唯一ネックと感じたのは、フロントガラスの曇りがなかなか取れないことだった。これから冬にかけてビシバシ乗られる方は対策を講じる必要があると思う。

2023年のオートモビルカウンシルでは取締役専務執行役員の青山裕大氏が「ロータリーエンジンは私たちマツダのあくなき挑戦の精神の象徴であり、マツダのアイデンティティとして、未来へ受け継いでいかねばならないもの。どのような形でも、たくさんじゃなくても、作り続けることが大事」とコメント。

加えて、「ロータリーエンジンの歴史をともに作ったのはマツダを愛し、応援してくださる世界中のお客さま、ファンのみなさまの思い。これからもお客さまの心を捉えて離さない魅力的なクルマを生み続けていくこと、そして、時代を超えてクルマを愛してやまないみなさまと一緒に、クルマのある人生の楽しさを追求していくことをお約束いたします」と締めくくっている。その具現化したおそらく最初のモデルがMX-30ロータリーEVなのだ。作り手のこだわりを愛するモノマガ人のみなさま、そんな素敵なクルマであった。

マツダ
MX-30 ROTARY-EV Edition R


価格491万7000円
全長×全幅×全高4395×1795×1595(mm)
エンジン水冷1ローター0.830×1(L)
エンジン最高出力72PS/4500rpm
エンジン最大トルク112Nm/4500rpm
モーター最高出力170PS/9000rpm
モーター最大トルク260Nm/0-4481rpm
WLTCモード燃費15.4km/L

マツダ
MX-30 ROTARY-EV
問 マツダコールセンター 0120-386-919

  • 自動車ライター。専門誌を経て明日をも知れぬフリーランスに転身。華麗な転身のはずが気がつけば加齢な転身で絶えず背水の陣な日々を送る。国内A級ライセンスや1級小型船舶操縦士と遊び以外にほぼ使わない資格保持者。

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