原点回帰~いまアルファインダストリーズのフライトジャケットに袖を通す理由

原点回帰~いまアルファインダストリーズの フライトジャケットに袖を通す理由


ファッションの定番となって久しいフライトジャケットだが、その代表的メーカーが“フライングA”のロゴでお馴染みのアルファ社だ。ミリタリーブランドの印象も強いが、同社はアメリカ軍納入業者としての長い実績を持っている。高品質で知られるアルファ社モノ作りの原点とは?


 アメリカ軍納入業者として半世紀以上の実績を誇るアルファ社は、1940~50年代にかけて軍にフライトジャケットを納入した実績を持つ複数のメーカーの流れを汲む。創業者はロバート・レーンと妻のヘレンで、アルファ社の前身となる会社を48年にテネシー州ノックスヴィルで設立。軍と契約を結びミリタリークロージングを納入していた。社名をアルファ社としたのは59年で、その翌年に空軍とL-2Bフライトジャケットの製造契約を獲得。以後MA-1フライトジャケット、M1965フィールドジャケット等の軍ユニフォームを製造。ヴェトナム戦争(1962~75年)中の大量受注で業績を伸ばし、一大軍納入業者へ成長し現在に至っている。

 そしてアルファ社は本家アメリカ軍以外にも、オーストラリア、アルゼンチン、サウジアラビアなど複数国の軍の各種クロージングを供給。またアルファ社は70年代後半から民間向けにもミリタリークロージングの販売を開始し、ギリシャ文字の“A”と3本線(民間向け製品のラベルに入れられるロゴ)を組み合わせた同社ロゴ、“フライングA”を目にすることも多くなった。

原点回帰~いまアルファインダストリーズの フライトジャケットに袖を通す理由

 アルファ社製品は品質の高さで知られるが、これは軍の厳しいスペック(仕様)を遵守した製品を長年製造してきた実績に由来する。軍のユニフォームと市販アパレルとの違いだが、軍がユニフォームに要求する条件は民間より遥かに厳しいということ。軍の装備は我々が想像する以上の過酷な環境下で使用をされるため、その不備や欠陥は使用者の生命に関わる。アメリカ軍のスペック(ミルスペック。“ミル”はミリタリーの略)が厳しいのはこれが理由で、ユニフォームでは裁断、素材、さらには縫い目の間隔に至るまで細かく、かつ厳密に規定されている。このため縫い目が一つ飛んでいるだけで不良品と判定されてしまう。

 ミルスペックは同一規格で装備を製造することを目的としたもので、調達を簡単にするという合理主義に基づく。だが、それをクリアするには高い技術力が不可欠で、製造には専用の機械が必要とされることもある。このため、誰でも納入業者として軍と契約を結べるわけではなく、当然発注業者も限定される。2次大戦(1939~45年)中には膨大な量のユニフォームを調達するため、規格の緩い「暫定スペック」を制定して一般業者ーとも契約を結んだが、これはあくまでも例外措置。戦争終結後に暫定スペックは廃止されている。

原点回帰~いまアルファインダストリーズの フライトジャケットに袖を通す理由
原点回帰~いまアルファインダストリーズの フライトジャケットに袖を通す理由

 アルファ社は優れた軍納入業者に与えられる「品質優良業者賞」を数度にわたって授章しているが、これは同社の「絶対の誠実さを持って仕事を履行する」という倫理要綱によるもの。全ての従業員が「軍の衣類を作っている」というプライドと、「自分たちは本物を作っている」という自負を持っており、それを具体化したのがクオリティの高い製品というわけだ。

 一般にアルファ社製品はカジュアルウェアとしての印象が強いが、前述したように同社は本来アメリカ軍の納入業者である。同社製品が民間にも定着したのは、ミリタリークロージングの機能性とデザインもさることながら、何より重要なのは厳しいミルスペックをクリアしてきた技術力と製品のクオリティだ。次にアルファ社のジャケットに袖を通す時は、ぜひそれを実感していただきたい。



原点回帰~いまアルファインダストリーズの フライトジャケットに袖を通す理由
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L-2B AIR CREW TIGHT FIT
価格2万680円/サイズM~XL
L-2Bにはスペック(仕様)の異なるバリエーションが存在するが、本製品はアルファ社が1970~79年まで空軍に納入した、最終モデルのMIL-J-7448Jがベース。製品はリバーシブル仕様ではなく、裏の左胸にポケットが付く。両胸にスコードロン・パッチ(飛行隊章)、右肩にF-101ブードゥ戦闘機の後席レーダー要員パッチが付き、左胸のパッチは糸をパイル状にしたサガラ(相良)刺繍製。素材は軽量で耐久性のあるフライトナイロンで、色はグレーとブルーの2種類。


原点回帰~いまアルファインダストリーズの フライトジャケットに袖を通す理由
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L-2B APOLLO Ⅱ FLIGHT JACKET
価格2万2880円/サイズM~XL
宇宙開発における偉業であるNASAのアポロ計画(1961~72年)。本製品は正面に同計画のパッチ、背面に有人月面着陸を達成した11~17号(13号は事故で着陸を断念)のパッチが付く。素材はフライトナイロンで、色はブラックとシルバーの2種類。裏地には月面着陸をイメージしたプリントが入る。ちなみに月面に足跡を印した12人中11人がアメリカ軍出身で、NASAとフライトジャケットとの関わりは案外深い。


原点回帰~いまアルファインダストリーズの フライトジャケットに袖を通す理由
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CVC TANKERS PATCHED
価格1万9580円/サイズS~XL
“CVC”とは“Cobat Vehicles Crewman(戦闘車輛搭乗員)”の略で、“タンカース(戦車兵)”の名前もそれに由来。狭い車内での動きを妨げないように配慮したデザインが特徴で、フライトジャケットにも通じるものがある。製品には左胸に機甲師団のパッチ、左袖に星条旗のパッチが付く。素材は耐風性、通気性、速乾性に優れるタスランナイロンで、カラーはライトカーキとオフ・ブラックの2種類。日本サイズで、S、M、L、XLの4種類が存在。

問アルファ インダストリーズ ☎0120-008-503 https://www.alpha-usa.jp/
文/菊月俊之(軍装評論家)、写真/藪崎 大

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