今こそオーダーメイド服から大人の装いを学べ!The Dressing Lab. 前編

2022.10.22

在宅勤務を終えそのままの姿で気晴らしに街中を歩いてみると、ショーウインドウに映り込んだ自分の姿を見て、服装に無頓着になったなと感じることはないだろうか? 本稿を書いている小生もまさにそのひとりだが、昨今、“装い”に傾ける意識が薄らいでいる人も少なくないのでは? そんな思いに駆られるなか、ひょんなことから東京・銀座一丁目に、洋服を生業とした一風変わった”隠れ家”を見つけた。

店はオフィスビルの一室にあり、ヨーロピアンな木の扉を開くと、遊戯するようにドレッシーな洋服たちが並ぶ。ここは“着こなしを探求する”紳士服オーダーメイドサロン。その名もThe Dressing Lab.だ。グリーンのポロシャツに、ダークブラウンのスーツと全身オーダーメイドの見るからにこだわりたっぷりな装いで出迎えてくれたのは店主の林倫広さん。「今着ているスーツはBespokeという作り方で、例えば生地は……」。林さんちょっと待った!

“Bespoke”。

キモになりそうな予感のするワードが出たところで、まずは同店のオーダーメイドのスタイルについて説明しておく。The Dressing Lab.でオーダーメイドの服を頼む場合は“Bespoke”と“Made to Measure”の2パターンの作り方がある。

“Bespoke”とは一般にフルオーダーと呼ばれ、仕立て職人が型紙から作りあげ、仮縫い、中本縫い、本縫いと3回の緻密なフィッティングを経てできあがるオーダーメイドの最高峰。そう聞くと敷居が高く感じるかも知れないが、パターンオーダーや既製服が一般化する以前は、このビスポークが一般的で、オーダーメイドの原点とも言える仕立て方だ。一方、“Made to Measure”(以下、MTM)とは、一般にパターンオーダーと呼ばれ、一から型紙を作成するBespokeと異なり、ベースとなるお店独自の型紙があり、その型紙をお客さん一人一人に合わせて調整して仕立てていく方法だ。いわゆるセミオーダー的な感覚に近いのだが、同店の場合はお客さんの好みや体型に合わせて、ほぼフルオーダーと言っていいほど補正を施すので、実際にはBespokeともそこまで大きな差はないのだという。これって、実は結構、凄い話だったりするのだ。

予備知識を頭に入れたうえで話をもとい、この日の林さんの”装い”について。

「今日着ているビスポークスーツの生地は、イタリア・ナポリで創業100年の生地商社・カチョッポリが扱うアイリッシュリネン100%の生地です。麻ならではのシワが見どころで、私の好物でもある経年変化がたまらないですね。ヘビーウエイトのリネンなので、最初は生地のハリが強すぎる様に感じましたが、着れば着るほどコシが抜けて馴染んで、どんどん着心地が良くなってきました。“育てる”愉しみを味わえる一生モノです」

カチョッポリやドラッパーズなどのイタリア生地を中心に、ウールやコットン、さらにはキャメルヘアやカシミヤなど最高級かつ数千種類もある色柄の生地から自分の好みの生地、柄を選び作ることができる。店内を彩る“生地の本棚”は壮観だ。

「やはりBespokeの醍醐味は、仕立て職人との対話によって求めているものを言葉にしていくこと、さらにその引き出した言葉が、職人の技術によって具現化がされるところですね。MTMと最も違いがでるのが、Bespokeならではの“味付け”です」と林さんが見せてくれたのが、この冬に向けて仕立てたばかりのビスポークのダブルチェスターコート。ところで、洋服の“味付け”って何のことですか? 林さんがBespokeで仕立てたミッドナイトブルー、MTMで仕立てたブラウンそれぞれのダブルチェスターコートを比較しながら説明してくれた。

「ダブルチェスターコートは厳格な印象が強く、そのままのスタイリングでは小柄な私にはキャラクター的に少し無理が生じてしまうのですが、どうしても着こなしてみたい! そこで、古着のダブルチェスターコートにある様なテイストで、ラペル(下襟部分)の角度を少し下げることで、落ち着いた感じに。さらに、腰のポケットもほんのわずかに斜めに落ちるように付けることで、フォーマルな雰囲気をちょっと崩しました。肩もあえて大きく、ウエストの絞りも緩くすることで、キメ過ぎない感じに。また、生地はラクダの赤ちゃんの毛を使用した“ベイビーキャメルヘアー”という貴重なモノですが、これもカシミヤと違って光沢が少なく、ぱっと見は高級な生地に見えない、地味な見た目が良いのです。こうして、体に合わせるところはしっかりと合わせつつ、外しを入れてある種の“野暮ったさ”を表現することで、私のキャラクターに馴染ませることができたんです」

そのあえての野暮ったさを彼は”ダサカッコいい”と表現するのだが、コートの襟やポケットの角度を変えることで、内面も含めた自分らしさを自然に表現できるという話には気づきありだ。だって、既製品を選ぶ行為がフツウの私たちには知り得ない世界だから。要は洋服に着せられるのではなく、洋服を完全に自分の都合に合わせてしまうってことですね。

「最近読んだ本の中で、“洋服は言語”という言葉に出逢いました。洋服は意味を持った記号であると。スーツレスという言葉や、個性がより尊重されるようなイマの時代の中で、“装い”の幅も広がりましたが、だからこそ、洋服を自分の言葉と捉えることで、一度立ち止まって装いを見つめ直すことができる。それが、自分らしさを考えることに繋がっていくと思います。日常的に服を着ないわけにはいかないですし、洋服と人間の関係は切っても切り離せませんから。せっかくだから服を通して良いメッセージを発信したいですよね」。

“洋服は言語”。しかも、饒舌なお喋りでもあるのだという。言語としての洋服を愉しむひとつの手段としてのオーダメイド服。これは奥が深そうだ。中編へ続く。


TheDressingLab.(ザ・ドレッシング・ラボ)

東京都中央区銀座1-27-8 セントラルビル501号室
営業時間:13:00~19:00
定休日: 日曜日・月曜日
※事前要予約。下見・相談のみも可
https://thedressinglab.tokyo/


・オーダーメイドでブルゾンからツナギ、レーシングジャケットまで作れる!? TheDressingLab. 中編

・洋服は自分を表現しフク(福)を生みだす言語である TheDressingLab. 後編

  • いま日本のいろいろなカテゴリで生まれている新しいコト・モノ・ヒトに興味津々なフリーライター。趣味はハミガキ。プライベートでは最近わが家に迎え入れたデグー(♀)に癒され中。