“変えずに変える”自家製麺の導入で宝華第2章が開幕! 宝華物語#4  

2021.11.02

東京・多摩地域発祥の麺料理「油そば」。その草分けと知られる東京・小金井市にある中華料理店・宝華で、伝説的油そば「宝そば」を創りだした創業者の”マスター”こと小榑務さん。その意思を受け継ぎ現在、同店の女将を務める”ミカさん”こと小榑美加さん、総料理長を務める”アキさん”こと添田晃弘さんを中心に、スタッフ一丸となった抜群のチームワークで日々、賑やかな店内を切り盛りしている。

「正直、スタッフ同士で喧嘩することもありましたよね。ホールと厨房で言い合うし、厨房の中でもちょっとした衝突があったり……。でもね、当たり前だけどまとまっていないとお店は成り立たないんですよ。麺をやる人がいて、鍋を振る人がいて。そういうひとり一人の様子をいまはしっかりと見るようにしていますね」(アキさん)

厨房には1番鍋、2番鍋と呼ばれる調理を担うスタッフが鍋の前に並ぶ。その横では、麺上げ職人、後ろでは丁寧な盛り付けが手際よく行われている。総料理長であるアキさんは1番鍋の担当。2番鍋を振っている人のさじ加減や、炒めた肉、野菜の色ツヤに少しでも違和感があったらとっさに指摘の声が飛ぶ。麺上げ職人の感覚にズレが生じていたらそれも指摘しなければならない。しっかりと周りが見えていること。それが1番鍋を任されるということなのだ。

「これが『美味しい、また来るね』って言ってもらうための、味を守るための、自分の役割なのではないかと思いますね」

よりお客さんの満足感を高めるための向上心にも貪欲だ。”マスター”が亡くなった翌年から「宝そば」に使用する麺は普通の中華麺ではなく自社工場で作る自家製麺へと変更した。添加物保存料は一切入っておらず、卵も使っていない。3種類の小麦をブレンドしているが、納得のいく麺が完成するまでに約半年間も試行錯誤を繰り返した。

「無添加でカラダによくて、タレの絡み具合とモチっとした食感も改良された自家製麺なのですが、限りなく以前使っていた麺に近いモノを追求しました。お客さまがいつから麺が変わったかに気づかないくらいにね」とミカさん。

「これまでお店を何十年とやっているけど、変わらないことの方が多いかも。変わらない部分を一番大切にしているんですよね。お客さまから『美味しい、また来るね』がいただけるように」

老舗銘店などで定期的に行われている”変えずに変える”だが、実際にはそう簡単なことではない。よっぽど派手にリニューアルする方が手法としてはシンプルだ。お店が大切にしている伝統やポリシーを守りつつも、時代のニーズに合わせてさりげなくディテールをアップデートしていく。だからこそ、変えても変わらない。

ちなみに、この自家製麺は「宝そば」だけでなく他のメニューにも使われているのだが、この麺を使った「焼きそば」(価格900円)がとにかく激ウマ。食べ応えのある中太麺の上にたっぷりと野菜炒めがのっかり、ボリュームももちろんだが、最後まで食べても飽きることがない旨味の効いた醤油感をあまり感じさせない不思議な甘みのある醤油ダレが絶妙なのだ。ミカさんも「みなさんススメてもあまり食べていただけないんですけど、ウチの”焼きそば”は本当に美味しいからオススメなんですよ!」と言うほどの隠れた逸品。

「どのメニューを頼んでいただいても味には自信がありますよ。正直、ほかのお店と比べてもウチが一番だって思っちゃいますからね。それだけいろんなことの積み重ねでのいまがありますから」(アキさん)

彼らが口にするひとつ1つの言葉から、彼らと”マスター”の物語を少しだけはだで感じる。お客さんは宝物であり、お店が華やかに繁盛するように。いまはなき”マスター”がまさにこれから第2章が始まろうとしている宝華とスタッフを優しく見守ってくれているようだった。


宝華
東京都小金井市東町4-46-12
Tel/042-386-5355
営/ 平日11:30-15:00、17:00-21:00 土日祝11:30-21:00
月曜定休

https://www.k-houka.com/


  • いま日本のいろいろなカテゴリで生まれている新しいコト・モノ・ヒトに興味津々なフリーライター。趣味はハミガキ。プライベートでは最近わが家に迎え入れたデグー(♀)に癒され中。

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