Re:STYLING MONO #43 北欧の家具 デザインに多大なる影響を与えた一脚「Y チェア」

#43 Y チェア


合理的かつシンプルなミニマリズムが特徴の北欧家具デザイン。その中心的な役割を担うデンマークの近代家具は、隣国ドイツで先に興ったデザイン運動「バウハウス」の影響を強く受けている。シンプルで普通の庶民が買える価格で提供できるように、量産に適した家具のデザインが北欧家具の特徴だが、そうしたコンセプトはデンマークのデザイナーたちが中心となってリードしていった。このようなムーブメントの中で、後世に残る名匠やデザイナー、そして名作家具が多数誕生している。ハンス・J・ウェグナーもその中の一人で、中でも1950年に発表された『Yチェア』は“世界で最も売れた椅子のひとつ”として知られる名作中の名作。座面に強度の高いペーパーコードを配した斬新なデザインは、デザインのみならず、生産性、重量、メンテナンス、耐久性、経年変化といった面での価値観を再認識させる、現代椅子の基準を作った。そんな名作椅子の魅力を探っていくことにしよう。

“Yチェア”の名前の由来はY字形になった背あての形からの命名。デザイナーであるウェグナーは、他にもチャイニーズ・チェアやザ・チェア、ピーコックチェアなど数多くの椅子をデザインした。北欧家具デザインを代表する人物だ。

産業革命が興るまでのヨーロッパにおける家具作りは、木工職人が王侯貴族のために作るオーダー品がほとんどであり、一般の人々の住宅における家具は、簡単な既製品か、手作りした家具だった。それを何代にもわたって大切に使い続けるような文化がずっと続いていた。機械化に伴う製材技術の発達は、家具の製造能力を飛躍的に高めたわけだが、デンマークではバウハウスの無駄を排したデザイン思想を上手に取り入れ、一般の人々が買える価格で、生産性が高くデザインのいい独自の家具作りが盛んになっていった。北欧家具の方向性はこの国から始まったのだ。

座面と平行に渡してある脚部の補強も、両端に向かってテーパーがかかっている。
Yチェア命名のきっかけにもなった背あて部分のデザインはシンプルでありながら繊細な形。
Yチェアを生産・販売しているのはデンマークのカール・ハンセン&サン社。
Yチェアの周囲を回りながら編みこまれているペーパーコード。有料で張替えのサービスもある。
世界で最も売れた椅子の一つとしてあまりにも有名なハンス・J・ウェグナーのデザインによる『Yチェア』。ニューヨーク近代美術館を始め世界の美術館に収蔵されている名品。

北欧の家具デザインに多大なる影響を与えた一脚。


 北欧への玄関として知られるデンマークは、4000以上の島々が集まっている国。その王室の歴史は古く、中世から近代にかけてはヨーロッパ列強との関係性で多くの国土を失ったが、早くから福祉国家としての体制を整えてきた。20世紀に入ってから、同国では多くの家具工房が誕生した。カール・ハンセン&サン社(1908年創業)もそのひとつで、一般の中流家庭でも手の届く価格帯で、品質とデザインに長けた家具作りを目指していた。
 同社が有名になったのは、当時まだ無名であったハンス・J・ウェグナーをデザイナーとして起用してから。ウェグナーは1943年に「チャイニーズ・チェア」、1947年に「ピーコック・チェア」、1949年に「ザ・チェア」という自身の代表作に数えられる作品を発表し、1950年に世界的なヒットとなる『Yチェア』を同社から発表した。工作精度の高い木工技術と、独自のペーパーコードを使った座面との組み合わせは非常に完成度が高く、デンマークのみならず、北欧を代表する椅子として認知されるようになる。Yチェアは世界的なヒットとなり、カール・ハンセン&サン社は大きく飛躍した。
 創業者カール・ハンセンの曾孫にあたる現社長が2002年に就任してからは、生産体制の見直しが行われ、さらなる飛躍を遂げている。デザイナーのハンス・J・ウェグナーは、その生涯で500種類以上の椅子をデザインしたといわれており、20世紀の北欧家具デザインに多大な影響を与えた。現在、同社によって毎年1点ずつのウェグナー作品の復刻が行われており、北欧家具ファンからの熱い注目を集めている。

自身がデザインしたYチェアに座るハンス・J・ウェグナー。背もたれと一体化した肘掛のデザインは秀逸だ。

Yチェアのフレーム材はビーチ/アッシュ/オーク/チェリー/ウォールナットの5種類。仕上げはソープフィニッシュ/オイルフィニッシュ/カラーラッカー塗装/クリアラッカー塗装がある。座面のペーパーコードはナチュラル/ブラック/ホワイト(Y-chair60周年限定)自由な感性で組み合わせたい。

ウェグナーのデザイン


ハンス・J・ウェグナー

 ハンス・ヨルゲンセン・ウェグナーは、1914年にデンマークのトゥナーで生まれた。13歳から家具職人の見習いを開始し、17歳時の1931年に家具職人プロライセンスを取得。この年から1936年まで国立産業研究所に通って木材についての専門的な研究を行った。1936年~38年は美術工芸学校に通いながら家具の設計を専攻。1940年より椅子のデザインを始め、生涯にわたって500種類以上の椅子をデザインすることになる。この間、国内外を問わずに多くの展示会への出展を果たし、数多くの賞を受けた。1940年から3年ほどアルネ・ヤコブセンの事務所に勤務した後に独立。1953年からローニング奨学金を受けて1年間、アメリカ、メキシコに滞在。1984年にはデンマーク王室よりナイトの称号を受けた。1995年には生まれ故郷のトゥナーにウェグナー美術館がオープン。2007年に92歳で逝去した。

Yチェア/ブラック塗装
ブラック塗装にナチュラルの
ペーパーコード仕様。
非常に締まった雰囲気になる。

Yチェア/ビーチ
ビーチ材のソープフィニッシュ・フレームに
ナチュラルのペーパーコード仕様。
最もポピュラーな組み合わせ

Yチェア/ウォールナット
ウォールナットのオイルフィニッシュ・フレームにナチュラルのペーパーコード仕様。


初出:ワールドフォトプレス発行『モノ・マガジン』 2013年2月2日号


すべてのRe:STYLING MONOの記事一覧はこちらから

  • 1982年より㈱ワールドフォトプレス社の雑誌monoマガジン編集部へ。 1984年より同誌編集長。 2004年より同社編集局長。 2017年より同誌編集ディレクター。 その間、数々の雑誌を創刊。 FM cocolo「Today’s View 大人のトレンド情報」、執筆・講演活動、大学講師、各自治体のアドバイザー、デザインコンペティション審査委員などを現在兼任中。