エモさ抜群
「エモい」とは、何かしらの作品や風景などに強く心を揺さぶられるとかな状態にある、そんな状況をいう若者言葉として定着気味。語源はエモーショナルの「エモ」だ。
そしてレクサスはエモーショナルな体験をブランドの柱の一つとして掲げていて、それはデザインだったり走りだったりする。つまり若人ふうに言えばレクサスはエモい。例えば完全な電気自動車(BEV)、RZ600e Fスポーツ パフォーマンス(以下600e)。見るからに「うーん」と唸ってしまいそうなイデタチで特にリアの信長もびっくりな2段構えスポイラーといい、大きなタイヤを履くためのフェンダーといい好きモノのツボをコレでもか、と刺激してくる。大型のアーチモールとフロント、サイド、リアに奢られるカーボンスポイラーは空力にはもちろん効くだろうけど、視覚的にも「効く」のは間違いない。しかもこのエアロブレードにはブルーのアクセントが入り、コレぞオトナのおしゃれっていうやつか! と思ってしまう。
さらにムムムっ! となるのはフロントフードのエアアウトレット。EVなのに? と思うけれどモーター制御などの熱を逃すために設けられている。これをエモさ抜群と言わずなんと言おう。



RZはブランド初の電気自動車として2022年にデビュー。2025年末には大幅なマイナーチェンジが施されている。600eは画像のように好事家のテンションを上げるイデタチのクルマは2023年のオートサロンでも発表され、翌年には100台限定で抽選発売もされた。ん? その時は450eという数字だったゾ! とお思いの皆様、仰せの通り。今回は数字も大きく新たなメカニズムを搭載しての600eなのだ。
レーシングカーか飛行機か?!
さて600eである。このクルマ最大の目玉はレクサス初採用のステアバイワイヤシステムだ。コレは一般的なタイヤとステアリング機構が機械的につながっているモノとは異なり、ステアリングとラック部のモーターとの間に物理的な接続がない。つまり電気信号によってすべて制御される。なおこのシステムを実現するためにレクサスが開発に要した期間は約7年というから、エンジニアの本懐ここに達成セリ、だと思う。

またこのシステム搭載車のステアリング形状も上下部分にリングを持たない独特形状。このカタチは助手席側からも視覚的開放感がある。

しかしながら。運転席に陣取ると飛行機のパイロットかレーシングドライバーかといった気分。ステアリングを手前に引くと離陸しそうな雰囲気でもある。しかもドライバーは視線を大きく動かさずに必要な情報を一目で把握できるのは、機能美とでもいう感じでカッコがイイ。それでいてドアトリムなどにはウルトラスエード調素材があしらわれるし、広々な後席(左右席にはシートヒーターが付く)も振り返ればそこにあるなど高級感はレクサスのソレ。先進性と高級感が同居しているのだ。エモい。


なお、このステアリングは中立付近から左右約200度の範囲でステアリング操作を可能にしているため、持ち替える必要はないという。そう仰られてもホントにぃ〜? となるのが人情。そこで実際に乗ってみた。
BGMはSF映画で
スタートボタンを押してシステム起動。BEVなので当然車内は無音。ダイヤル式のシフトノブを回して「D」レンジへ。公道へ出るにあたり、最初のステア操作を行うと「意外に普通じゃない」がこのステア機構の最初の感想。そりゃそうだろう、なんとってもレクサスであるからして、エモくても万人が動かせなくては意味がない。そのまま腫れモノに触るように恐る恐るステアリング操作を繰り返すこと数回。すると、もしかしたらコレの方がラクで楽しいのかも、と思えるようになる。恐るべしレクサス。ただ旋回中に急減速をするようなシチュエーションだと速度が落ちると切り角にも連動するようで、想定ラインよりもイン側に曲がりそうな時もあった。

もう一つ注意しなくてはイケナイのは、高めのアイポイントとSUVという思い込みを持ってしまうコト。車高は意外に低いので段差には要注意。600eは特別仕様車でカタログラインナップのトップエンドモデル550e Fスポーツがベースだが、車高はそれよりも20mm低い1615mm。もちろん最低地上高も185mmに変わっている。
さて、高速へ乗り入れると背の高いSUVとは思えない抜群の安定性。ボンクラな筆者でも特長的なリアのスポイラーが効いているのだろう、とわかる。高速での安定性が高く、安心感が強いといえば良いだろうか。空気を味方にしているような印象。このエアロパーツはエアレースパイロットの室屋義秀選手(レクサスパスファインダーエアレーシング)との技術交流から生まれたモノ。クルマ作りの技術がエアレース機を進化させ、その技術がさらにクルマ作りに戻す取り組みの一環で、航空機に用いられている空力技術を応用したカーボンウィング、カーボンターニングベインなど17点の専用エアロパーツを採用する。
ちょっとしたウンチクだけれど、しっかりとダウンフォースを効かせるのは車両後端の大きな方で、リアルーフウィングはその大きなスポイラーに空気を導くだけでダウンフォースといった面では大きく関わっていないという。加えて4輪すべてに設けられたカーボンパーツはホイールハウス周辺の空気をきれいに流す役割をになっている。しかもコレらのパーツはカーボン製というからレクサスの本気っぷりが伝わってくる。



高速を流すのならそういった安定性と静粛性。ステアリングは前述の独特な形状。これで街路灯が照らす道路をのんびり走っているとSF映画の戦闘機乗りになった気分。スターウォーズやスタートレックなどの劇中曲でも流せば完全に没頭できそうだ。
パフォーマンスはレクサスの本気
600eのベースは550eだが、スペックが変更されている。システム最高出力は550eの300kWに対して313kWに。2023年のオートサロンで発表され、翌年に限定販売された450e Fスポーツ パフォーマンスではリアモーターの出力が80kWだけれど、600eは前後同じ167kW、268Nmスペックのモーターを採用するなどパワー面でも大幅に進化。なんといっても車名最後には「パフォーマンス」が付くのであるからして。

駆動方式は電動4輪駆動システムである「ダイレクト4」でAWDを採用。このAWDが大変気持ちよく曲がってくれる。切り返しの多いクネッた道でもフラットな姿勢で、そこに押し出され感もフロントが入ってます感もなく安定性を感じながら旋回を終えていく。
もう一つのお楽しみも。それはシフト下の「Mモード」スイッチを押せば擬似8速MTに。メーター表示は内燃機関車のようにレッドゾーン付き回転計に変化。ステアリングに設けられたパドルでシフト操作するのだがシフトアップすると変速ショックも演出され、スピーカーからは擬似エンジン音が聞こえる。さらに唸るほどの出来は回転数が高すぎて仮想ギアの回転許容範囲を超えているとシフトダウンはされない細かさ。コーナー進入で20インチ(!)の大型ブレーキローターに対向6ポッドのブレーキキャリパーを使ってしっかり減速しつつ、仮想MTモードでシフトダウンを繰り返して旋回すると大変に楽しい。クルマの性能におんぶに抱っこなのは重々承知だけれど「見せてやるぜ、ユーとミーのテクニックの差をな!」と隼人ピーターソン(編集部注:池沢早人師先生の名作「サーキットの狼」の登場人物です)の如く呟きたくなる。


そんなクネッた道でもこのステアリングシステムは抜群の応答性を示してくれるだけでなく、路面のインフォメーションをきっちりと伝えてくれる。タイヤとは電気信号だけ繋がるだけの仲なのに。
普段はBEVとしてクルージング(最大航続距離は525km)を楽しみ、一人や休みの時にMTモードで楽しむ。そんな使い方が実に羨ましいクルマなのだが、慣れを要求されることも多い。車庫入れではハンドルの切れ角と自分の感覚を合わせること。ステアリングに設けられたシフトが唐冠の張り出し(豊臣秀吉の肖像画などで有名)の如く細いので、下にあるウィンカーやワイパー(トヨタ系のオートドライブのスイッチのような小さなモノ)と間違えやすく、間違えてウィンドウォッシャーやパッシング操作をしてしまいそうなこと。そして後席にゲストを乗せた際にリアタイヤで服を汚さないようにすることは慣れが必要と感じた次第。

しかしながら障害のある恋ほど燃える。残念ながら生産台数分の受注は終了してしまったのも恋の障害。600eはその昔、トヨタ系ブランドはEVには無関心だと世間に言われていた時にメーカー側の回答の1台なのかも。その回答はブランドポリシーのクルマを通じてのエモーショナルな体験が、しかもメーカーの本気が伝わるクルマだった。レクサスはエモい!

RZ600e Fスポーツ パフォーマンス
| 価格 | 1244万円から |
| 全長 × 全幅 × 全高 | 4860 × 1965 × 1615(mm) |
| フロントモーター最高出力 | 167kW(227PS) |
| フロントモーター最大トルク | 268Nm |
| リアモーター最高出力 | 167kW(227PS) |
| リアモーター最大トルク | 268Nm |
| 最大航続距離 | 525km |


































