音楽に招かれ、ミシシッピを流れ下る―アメリカの、南へ[1]  
取材・文/川端由美、和田史子(モノ・マガジン編集部) 写真/和田史子(モノ・マガジン編集部)   
 

 ロックとブルースとギターの街、メンフィス
南部アメリカへ行ってみませんか? そんなお誘いを受けてモノ・マガジン、行ってまいりました。目指すはテネシー州メンフィス、途中アーカンソー州のホットスプリングスへ寄り道しつつ、雄大なミシシッピ河に沿って南下し、最終目的地のルイジアナ州ニューオーリンズへ。という3州をまたぐ旅。

今回は、自動車ジャーナリストとして一年の1/3は海外出張中という川端由美さんに、自動車無関係の海外出張、という珍?テーマで同行してもらった。 まずは、ブルース発祥の地として知られ、ギブソンの工場も置かれる男心をくすぐる街、テネシー州メンフィスへ。

「メンフィスの町を見晴らす丘の上から、悠久なるミシシッピ川に夕日が沈むのを眺める。全長約4000㎞、アメリカ南部の10つもの州を跨いで、緩やかに流れる川の沿岸にはアメリカ音楽の源流となるルーツ音楽の故郷が点在している。…と聞いて、ロック少女だった頃の記憶が蘇る。ロックの源流となったアメリカの”土着”ミュージックには、ブルース、ゴスペル、ジャズといった黒人音楽に、フォークやカントリーといった白人音楽があるのだけれど、折角、メンフィスまで足を伸ばしたなら、そんな評論家じみたうんちくはかなぐり捨てて、街中に溢れるアメリカのルーツ音楽に身を委ねてみるのが正解だ。

テネシー州の州都であるナッシュビルを超える大都市でもあるメンフィスには、いまでも、アメリカ中、いや、世界中から、アメリカの音楽の源を探るミュージシャンが集い、町のそこそこにある”小屋”で、思い思いの音を奏でる。録音スタジオの数も有数で、スタックスのようになくなってしまったものもあれば、サンやロイヤルのように伝説を今に紡ぐスタジオもある。レッド・ツェッペリンやボブ・ディランがレコーティングしたアーデントのように、ゴールド・ディスクを量産(!?)するスタジオもある。実は、メンフィスの名誉市民である忌野清志郎も、ここでレコーティングをしている。

かの名器、ギブソンの工場もある。ナッシュビルのメインファクトリーが有名だが、ここメンフィスでは、ESシリーズを中心に生産されている。上質なウッドを入手し、時間をかけて乾燥し、一つひとつ丁寧に組み上げていく。ラッカーを塗り、最終的な音のチューニングを経て、夜に送り出されていく。

メンフィスという都市の名前を聞いて、ピラミッドのあるエジプトの町を思い浮かべる人も多いだろう。実際、そこから命名されている。ミシシッピ川に面したこの街の名所、ピラミッドに登って、過日は奴隷貿易で栄えた港を見晴らす。ミシシッピ・デルタに沿った一面の綿花畑で働いていたであろう黒人たちにとって、音楽は唯一の娯楽だったという。スタックスの跡地に経つ博物館には、奴隷たちに音楽を禁じたところ、寿命が著しく縮んだという。過酷な労働の中にも、音楽があることで満たされる魂があった。その事実こそが、アメリカのルーツ音楽の源なのだろう」
―――――自動車ジャーナリスト 川端由美



メンフィスとくれば、何はなくともエルヴィス・プレスリー詣で。この街が生んだ大スターだ。ゆかりの場所が点在しており、中でもエルヴィスが見出されたスタジオ「サン・スタジオ」と、42歳で亡くなるまでを過ごした私邸「グレースランド」は必ず訪れたい。

1953年、トラックの運転手だったエルヴィスはサン・スタジオにレコーディングしに訪れ、サム・フィリップスの目に留まったことでサクセスストーリーが始まる。現在も、エルヴィスが実際に使ったマイクやミキシングルームが、当時のまま残されている。

エルヴィスの邸宅、グレースランド。中には贅を尽くした豪華絢爛な部屋が並ぶ一方、裏側には馬場などのんびりとした雰囲気の庭が広がる。また、敷地内には功績をまとめた資料館も。

メンフィスが生んだもうひとりのスターが、“キング・オブ・ブルース”、B.B.キング。イッタベーナのプランテーションに生まれ、大都会メンフィスに出てきて、栄光をその手にした。メンフィスの目抜き通り、ビール・ストリートは、B.B.キングと関係が深い。なにしろ、その名は“ビール・ストリート・ブルース・ボーイ・キング”から来ているのだから。ランドマークはキングのライヴハウス「B.B.キング・ブルース・クラブ」。毎夜、著名なミュージシャンによる極上のライヴを体感できる。

メンフィスから南へ足を伸ばした、キングの故郷、インディアノーラには、生前の功績を示す資料を一堂に集めた「B.B.キング博物館」がある。愛器「ルシール」などゆかりの品々を飾っているほか、終の住処となったラスベガスの自宅のスタジオも再現。2015年に生涯を終えたキングの亡骸も、ここに眠っている。

ビール・ストリートの目と鼻の先には、ギブソンのメンフィス工場がある。ここでは「ES」シリーズなどのフル&セミアコースティックギターを製造。予約すれば、スタッフによる工程の説明をうけながら、ラインを見学することができる。まさに、ギター好きの聖地だ。(2017年2月2日号『モノ・マガジン』にて詳説しているので、チェックして欲しい。)また、中にはファクトリーショップも併設されており、ギターはもちろん、シールやボールペンからスツールまで、さまざまなグッズを購入できるのもファンにはうれしいかぎり。


メンフィスは、メンフィス・ソウル、メンフィス・ブルース、ロックンロール、ゴスペルなど多様な音楽を生み出した街だ。ソウルシンガーとして後世に語り継がれるアル・グリーンが、数々の名作をレコーディングした「ロイヤル・スタジオ」も健在だった。


現在はロイヤル・スタジオの名プロデューサー、ウィリー・ミッチェルの息子、ローレンス “ブー” ミッチェル氏がここで新レーベル「ロイヤル・レコーズ」を立ち上げている。氏は2015年、マーク・ロンソンの「アップタウン・ファンク」(2014年)でグラミー賞を受賞している。


さて、旅の醍醐味のひとつが、その土地の食。メンフィス名物といえば、バーベキューリブだ。創業から約80年の老舗、ランデブーで堪能できる。供されたときはその大きさに驚かされるが、意外にもさっぱりとした奥深い味で、完食できてしまう。おためしあれ!




エルヴィスがサム・フィリップスに見出されたスタジオ。
info/
Sun studio
706 Union Ave, Memphis, TN 38103


エルヴィスの終の住処となった邸宅、グレースランド。
info/
Graceland 〜THE HOME OF ELVIS PRESLEY〜
Elvis Presley Blvd, Memphis, TN 38116


メンフィスの目抜き通り、「ビール・ストリート」。遅くまで人が通りへ繰り出し、音楽と酒を楽しむ。金曜夜がもっとも賑わうようだ。


ビール・ストリートのランドマーク、「B.B.キング・ブルース・クラブ」。
info/
B.B.King’s Blues Club
143 Beale St, Memphis, TN 38103


「B.B.キング博物館」は、故郷インディアノーラにある。
info/
B.B.King Museum
400 2nd St, Indianola, MS 38751 


ビール・ストリートから目と鼻の先にある、ギブソンのメンフィス工場。
info/
Memphis Guitar Factory
145 Lt. George W Lee Ave, Memphis, TN 38103


アル・グリーンの貴重な音源も保管されている。
info/
Royal Studios
1320 Willie Mitchell Blvd, Memphis, TN 38106



メンフィスを代表する高級ホテル「ピーボディ」。ヨーロピアンスタイルの客室と重厚な外観が、歴史を感じさせる。ロビーでの行進で有名なアヒルは、この屋上に飼われている。
info/
The Peabody
149 Union Ave, Memphis, TN 38103



音楽の街を表現したブティックホテル「マディソン」もおすすめだ。ミシシッピをはじめ、メンフィスを一望できる屋上のバーも人気。
info/
Madison Hotel
79 Madison Avenue, Memphis, TN 38103


ミシシッピの向こうに落ちていく夕陽。メンフィスのランドマーク、ピラミッドアリーナ(現在はバスプロショップが入っている)の展望台から臨める。


バーベキューリブを提供している「ランデブー」の店内。年代物のサインボードやネオン、写真などが所狭しと壁を彩り、心地いい空間を作り出している。
info/
Rendevous
52 S 2nd St, Memphis, TN 38103

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カテゴリー: モノ・エンタメ | 投稿日: 2017年3月3日 | 投稿者: moweb