[#045] 天賞堂主催「JAPAN BRAND 伝統工芸時計文字盤コンテスト」

世界の腕時計

文/香山知子/『世界の腕時計』編集長

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右/大賞を受賞した北出斎太郎さんの作品「C.O.R.E」。木の象嵌と白蝶貝、黒檀、ビーフウッドを使っている。ユニークなデザインのインデックスにも注目。左/次賞の松山武司さん(51歳)の作品「時空間」。中央に漆、その周囲に夜光貝の象嵌で幾何学的なモチーフを描く。


腕時計の文字盤はキャンパスでもある。今日、スイスではエナメルをはじめとするヨーロッパの伝統工芸を文字盤に使った、アーティスティックなモデルの製作に力を入れる高級時計ブランドが数多い。ヴァシュロン・コンスタンタン、ヴァン クリーフ&アーペル、カルティエ、ショーメなどで、今年のSIHHでも華麗なモデルが発表された。これは1980年代、ユリス・ナルダンが腕時計にエナメルを採用したことに端を発している。当時、機械式時計と同様にエナメル工芸は衰退に一途にあり、それに光を当てたのがユリス・ナルダンだった。

近年では日本の蒔絵に注目したスイス・ブランドもあり、ボヴェやショパールなどが過去に蒔絵文字盤の時計を製作した例がある。

さて去る2月7日、老舗時計店・天賞堂(東京・銀座)は伝統工芸文字盤コンテストの授賞式を銀座清月堂ギャラリーで開催した。天賞堂は2009年に石川県輪島の漆工芸家と共同で漆文字盤の時計を発表するなど、日本の工芸を支援を続けてきたが、昨年は「伝統工芸時計文字盤コンテスト」を企画した。これは経済産業省のJAPAN BRAND育成支援事業にも選ばれている。

昨年8月に募集を開始し、11月10日に提出を締め切り、同15日に金沢21世紀美術館館長の秋元雄史さん、金沢学院大学美術文化部教授の山崎達文さん、天賞堂専務取締役の新本桂司さんなど、7名の審査員による審査会が行われた。応募者には製作の基板となる27㎜四方、厚さ0.4ミリの金属文字盤が提供されたが、そこに施される技法には特に制限は設けられず、漆をはじめさまざまな素材、技法を用いた73点の応募があった。そして写真にある大賞、次賞、そして3点の特別賞、5点の奨励賞が決定した。

大賞を受賞した北出斎太郎さん(24歳)は長野県でギター製作の工房に勤め、その技法を文字盤に生かしたという。北出さんをはじめ、受賞者の多くは20代から30代半ばの若手で、伝統工芸に興味をもつ若い世代が少なくないことを示していた。

受賞は彼らにとってはスタートにすぎない。これから文字盤に限らず広く作品の制作に取り組むことを期待したい。しかしなにより彼らを支持し、作品を購入する人の存在が不可欠だ。

金沢学院大学の山崎さんは「伝統工芸は素晴らしい、と褒める人は多い。しかし買う人がいない。これでは伝統の伝承はむずかしい」と現状を語ったが、芸術には理解し、支援する“パトロネージュ”は不可欠にちがいない。

ところで天賞堂とも縁が深い時計ブランド、ジラール・ペルゴはコンクールに応募した人から作家を選び、工芸文字盤を使った商品開発を行い、発売の予定という。これも若い工芸家にとっては大きなチャンスとなるだろう。

2014年のSIHHについては『世界の腕時計』第119号(3月8日発売)をご覧ください。

特別賞。孫苗さん(36歳)の「時の光」。
特別賞。孫苗さん(36歳)の「時の光」。

特別賞。塚原梢さん(27歳)の「星影」。
特別賞。塚原梢さん(27歳)の「星影」。

特別賞。山田佳奈子さん(26歳)の「鬼灯」。
特別賞。山田佳奈子さん(26歳)の「鬼灯」。

奨励賞。伊藤理絵さんの「雪月花」。
奨励賞。伊藤理絵さんの「雪月花」。

奨励賞。松川明日香さん(33歳)の「四分一打ち出し花文文字盤」。
奨励賞。松川明日香さん(33歳)の「四分一打ち出し花文文字盤」。

奨励賞。佐藤繁仁さん(25歳)の「地錦」。
奨励賞。佐藤繁仁さん(25歳)の「地錦」。

奨励賞。中室夏希さん(41歳)の「花蝶文蒔絵」。
奨励賞。中室夏希さん(41歳)の「花蝶文蒔絵」。

奨励賞。赤尾舞さん(31歳)の「ミナモ」。
奨励賞。赤尾舞さん(31歳)の「ミナモ」。