#364 走る悦び

文/本田賢一朗(モノ・マガジン編集部)

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#364 走る悦び
写真左は自動車雑誌の草分け『カーグラフィック』代表取締役の加藤さん。「(ベンツの)300SLを使った創刊号以来、世界のモーター情報を入れているのはCGの伝統です」。クルマ業界を長く取材してきたライターも「雲の上の人」と恐縮しきり。
写真右はドライビング・プレジャーがアンチ・エイジングになることを何よりも証明する山口京一さん。85歳。今、欲しいクルマをお聞きしたところ「海外の警察OBをドライバーに雇ってショーファーだね。でもドライバーにはこだわりたい。きちんとしたところでレーシングレッスンを受けてから、ベントレーのコンチネンタルGTなんかいいね」

 来週1月16日発売のスポーツカー特集では、モータージャーナリストの重鎮おふたりにお話を伺うことができた。あんな年の瀬に取材を引き受けて頂いたと感謝のような、怖くなるような。

カーグラフィック代表取締役社長の加藤哲也さんと自動車ライターの山口京一さんである。
取材のお題目はクルマ好きにとってバイブルともいえる『ハイスピード・ドライビング』の著者ポール・フレールについて。最後に自動運転技術など潮目を迎えるクルマの今後について話が及んだ時の加藤さんの言葉が印象に残った。
「AIでは、そこがセーフティゾーンだとか計算しておそらくクルマを(走路の)真ん中に置こうとするんだと思うんだけど、例えばこのコーナーを曲がる時、俺はもうちょっと左(の位置)にクルマを置いておきたいとか、ここでは右側にいたい、というのがある。」
これがスポーツカーに乗る悦び、ドライビングプレジャーであり、それはなくなることはないと言う。

人の考え方もしかり。右寄り左寄りはあるわけで、すべてを中道にすれば人の世は面白くなくなる。昨今叫ばれる多様性に通じるお話と聞いた。

もうひとつ。今後マニュアル車を作らなくなるという自動車メーカーの兆候にも「アクセルの踏み間違えによる事故も、マニュアル車にすれば減るはずだ」。
これは脳トレで有名になった川嶋隆太・東北大教授(ヤマハとバイクが脳に与える共同研究もしていた)がCarGraphicに「四輪MT車がもっとも脳を活性化させる」との寄稿をしていたことともつながる。

人間は楽をするために技術を進歩させ、技術が進化したばかりに人間は楽ばかりをしてしまう。そして脳は活性化しなくなる。クルマが移動手段だけになるのであれば、脳は活性化しなくなるばかりなのかも。
自分自身、MT免許を取ってMT車に乗っていた頃は操作感が楽しかったけども、いつしか「楽しい」を「楽」と取り違えてしまっていたのか。

同じ走るでも、こちらは人間そのものが走るほうでも思い出した。現代ランニングの思想書ともいえるクリストファー・マクドゥーガル著『Born to Run』(NHK出版)。ジプシーの言葉の引用部分“人は年をとったから走るのをやめるのではない、走るのをやめたから年をとるのだ”。

まさに今朝からCESでの自動運転技術の発表が賑わしいが、ドライビングの悦びは人を老いさせないのだ。