[#58]ヤマハがヘッドフォンとイヤフォンの新製品を発表

文・佐藤良平(過激なヘッドフォン評論家)

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いつになったらヤマハがヘッドフォンの新製品を出すのかというのは、かねてから筆者にとって大きな関心事であった。それというのも、かつてヤマハは名機と呼べるヘッドフォンを継続的に市場へ送り出した時期があったからだ。とりわけウォークマンが普及する以前、軽量のオープン型ヘッドフォンを国内で広く認知させたメーカーとして、ヤマハは重要な地位を占めていた。音質面のみならず、デザインの美しさも印象に残っている。

ヤマハ製ヘッドフォンは完全に姿を消したわけではないが、近年は楽器の練習用に目的を絞ったモデルのみが製造されており、音楽鑑賞用としてはあまり見るべき製品が出ていなかった。筆者がヘッドフォンのレヴュー原稿を頻繁に書くようになって以降、ヤマハ製ヘッドフォンに触れるチャンスは今日まで一度も経験していない。したがって、この原稿は記念すべき第一号となるわけだ。キャリアの長いヘッドフォン愛好者としては、とても嬉しく光栄に思う。特にヤマハのシンボルマークである「交叉する3本の音叉」がハウジングにプリントされたイヤフォンを目にしたのは今回が初めてで、大変に感慨深い。

新木場にある撮影用スタジオで8月2日に開かれたヤマハの新製品発表会で、筆者はッドフォンの発売を知らされた。まったく事前情報がなく突然の出来事だったため、嬉しい驚きであった。おそらく、今回の発表会に招かれたプレス関係者の中で一番喜んだのは筆者ではないかと思う。

発表されたのはオーヴァーヘッド型ヘッドフォン「HPH-200」およびカナル型イヤフォン「EPH-100」の2機種だ。前者は一般の家電店でも販売するが、後者は原則としてヤマハの直販サイトをはじめウェブ限定で発売する計画だ。実機を置いて試聴できる場所を設定する予定は、残念ながら今のところないという。

オーヴァーヘッド型のHPH-200は直径40mmのドライバーを持つオープンタイプのダイナミック型ヘッドフォンだ。ハウジングの首が回転する機構を具えており、厚みを減らして楽に持ち運べる。標準プラグへの変換アダプターと長さ2mの延長ケーブルが付属する。こちらは実機のサンプルが手元にないため、詳細なレポートは別の機会に回したい。 

イヤフォンHPH-200は販売用と同じ製品を入手できたので、詳しく書いてみよう。ボディはアルミニウム削り出し、精密な仕上げで高級感がある。ユニットは直径6mmのダイナミック型1発。ユニットを耳の奥深くに設置する狙いで口径を小さくした。イヤピースは2段の笠を付けてあり、本体との密着度が高いことも奏効しているのか、遮音性は特に優秀だ。

最初から5種類のサイズが付いてくるのは念が入っている。筆者の場合はLを装着しても耳の中でうまく安定せず、使用中に脱落してしまうイヤフォンが珍しくないので、LLが選べるのは大変ありがたい。左右表示はボディに文字印刷があるが、見やすさは普通か。触感で識別できるポッチがLチャンネルのスリーヴ部に設けてある。

ケーブルはY字型で、材質は少し硬めだ。ボディからの引出し長さは実測で123cmあった。接続用ステレオミニプラグの形状はL字型だ。タッチノイズは少々ある。付属品として2mの延長ケーブル、標準プラグへの変換アダプター、割と大型のソフトケース(外寸8cm×12cm)が付いてくる。他のイヤフォンにない特色として「スマートケーブルホルダー」がある。これはY字の分岐部より先で分かれ目を設定できる可動型の調整具にミニプラグを取り付けられる仕掛けで、持ち運ぶ間にケーブルが絡むのを防ぐ機能を持たせた。 

50時間ほど鳴らし込まなければ本来の音にならないとアドヴァイスされたので、試聴は自宅で50時間以上エージングしてから実施した。音質は奇を衒ったところがなく、全体的にオーソドックスな鳴り方だ。昨今の基準からいけばユニットの口径は大きくないが、低域の不足は感じなかった。音源からの距離は総じて近く、曖昧さの少ない表現をする。

ソースによっては高域が強めに感じることもあったが、耳に刺さるようなキツさはない。音場は野放図に広がらず、後方寄りに展開する。歪み感の少なさは大きな美点であり、残響の長さや音の消え際の自然さがよく出ていた。総合的な完成度は高く、スジの良い音作りだ。能率は104dBと一般レベルなので、音量が足りなくなる心配はないはずだ。

興味深いことに、本機の音色から得た印象は筆者が昔から持っている「ヤマハの音」のイメージに近かった。正確さと繊細さを身上とし、客観的で節度のある振舞い、どちらかといえば寒色寄りで淡色系の色彩感など、往年のヤマハトーンを思い起こさせる部分が確かにある。ただし押しの弱さや線の細さは感じさせず、意外な力強さも持ち合せていた。

ヤマハは国内市場においてヘッドフォンを重要な商材と位置づけ、これから積極的に乗り出す構えだ。たとえば、すでにヤマハは本機より低価格のイヤフォン3機種を海外市場で発売しているから、それらが国内で販売されるのは充分あり得る展開だと思う。

ひとつの企業グループ内に音楽ソフト制作部門と家庭用オーディオ機材部門の両方を持つ会社なら複数あるが、それら2つに加えて音楽の源である楽器そのものまで作っているヤマハのような存在は世界的に見ても珍しい。それぞれの部門が今日まで蓄えてきた豊富なノウハウを取り入れて、他のメーカーには追随不可能な開発手法に基づいた新しいヘッドフォンを作れる可能性も考えられる。大いに期待しつつ今後の動きも見守っていきたい。

img001ヤマハ/HPH-200 オープン価格(想定価格1万6000円前後)8月下旬発売予定

img002ヤマハ/EPH-100 オープン価格(実勢1万5000円前後)※ヤマハオンライン「Yダイレクト」限定発売。

【問】ヤマハお客様コミュニケーションセンター ℡0570-011-808