[#57]切れ味すっきり!モヤモヤもすっきり!

文・徳本真弓/モノ・マガジン編集部

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中1の頃の話なんですが、ちょうど今日みたいにセミがシュワシュワと鳴いていた夏の暑い時期でした。

あの日は夏休みの暇を持て余していて、目にとまったのは、父親が大切にしていた砥石。同時に目に止まったのは母が使っていた裁ち鋏。

これを研いだらさぞやスパッと切れ味よくなるぞ! と……子どもの浅知恵が悲劇の始まり。

>鋲も取らずにそのまま職人気取りで刃を砥石に乗せ、水を落とし、まんべんなくシュワッシュワッシュワッ……研ぐこと5分程度。キランっと美しく輝いた気がして、意気揚々と布に刃をあててみたんですが、これが全く切れないんですよ。布がただふにゃっと折り曲がるだけ。

まさかの事態に背中から冷や汗が流れました。父親に救いを求めるも、素人の手ではどうしようもならず、そのまま母親に黙って引き出しの奥に隠して早、十数年……。

心の片隅にモヤモヤっと引っかかっていたその裁ち鋏をこの夏、帰省先の実家からこっそり持って帰って、研ぎに出しました。

創業1792年、人形町にある刃物専門店「うぶけや」さん。日本ではじめて裁ち鋏の販売を開始した老舗中の老舗です。

うぶけやさんの八代目当主矢崎豊さん曰く、「鋏の刃先は微細な弧を描いて切れるもの、素人が鋏を研ぐなんてもってのほか! 研ぐだけじゃなくその後の調整だって、これまた大切なんですよ」と、ぴしゃり! 十数年間、不本意に眠っていた鋏の声が聞こえるようです。

写真は刃先の錆まで落ちて、美しく復活した裁ち鋏。当然、切れ味も抜群。 ちゃんと謝って、母親に返そうと思います。

img001うぶけや」
東京都中央区日本橋人形町3丁目9-2
℡03-3661-4851 休:日、祝
営:9時~18時(月~金)、9時~17時(土)

img002写真は丁寧に作業を進めてくれる矢崎豊さん。 鋏研ぎ価格1800円~(錆、痛み具合に応じて)。